第30話 伝説
「冒険者の事とか税とかの事は父さんから色々と教えて貰ってたんですよ、父さんも元冒険者だったので」
嘘だ。
いや、父さんが元冒険者なのは本当だけど、冒険者をしていたという事しか聞いていないし税の事なんて聞いた事が無かった。
前の世界の税金と同じ仕組みだからわかった事だ。
「あの人、冒険者だったのね……確かに立ち振舞いはそこらの自警団とは違って隙の無いものだったわ」
どうやら疑わずに納得してくれた様で、アーリアさんはそう呟いた。
「でも税を免除って、ギルドにはそこまでの力があるんですね」
「そうよ、ギルドは国や都市には干渉されない、独立国家と言っても過言では無い組織なの。 それはギルドの長であるギルドマスターが昔行った偉業によるものだと聞いてるわ」
「偉業?」
「お伽噺だと言われてるけど、何でもその昔、龍の始祖と言われる古龍が暴れて国がいくつも滅んだ事があったの、その時各国が同盟を組んで討伐に当たったのだけれど古龍に手も足も出ずに状況は悪化する一方、そんな古龍相手に各国が諦めかけていた時に立ち上がったのがギルドの長、ギルドマスターよ。 彼は己の身一つで古龍に挑んだらしいわ」
「龍相手に身一つって、単独って事ですよね? どうなったんですか?」
「戦いは三日三晩続いたそうよ、ギルドマスターは憔悴し傷付きながらも一歩も引く事無く戦って、討伐は出来なかったけど魔法によって封印したらしいわ。 その功績によって彼は英雄と呼ばれ、ギルドはどの国にも属さない独立した組織として成立したのよ」
龍相手に三日三晩って、怪物じゃないか……お伽噺と言っていたが、そんな人がギルドマスターだったら確かにどこの国も干渉出来ないよな。
「まあ信憑性の無いお伽噺なんだけどね、それ以外にも色々と噂はあってギルドマスターが実は王族の末裔だとか、各国の要人の弱味を握っているからだとか、真偽は兎も角特殊な組織である事は確かよ」
成る程、俺としては古龍と戦ったからだと信じたいな、その方が格好いいし。
それにしてもギルドか、やはりランクとかあるのだろうか?
あるのなら、せっかく冒険者になるのだから上に行きたいよな。
「あの、アーリアさん、冒険者って私でもなれるんですか?」
エミリアが控え目に尋ねるとアーリアさんは勿論と言いたげに頷く。
「テストはあるけど基本的に誰でもなれるわ、テストとは言っても簡単な質疑応答ぐらいなものよ」
「随分と簡単なんですね、つまり問題はその後って事ですか?」
「その通りよアルファンド君、冒険者にはランクがあってそれに応じた依頼しか受けられないわ」
やはりあるのか、ランク。
「登録した時はFランクから始まって、そこから依頼の達成度や実力を見てランクアップ試験を受けるの」
「一番上は?」
「Sランクよ、そこまで行くと名誉とも言えるわね。 普通はどこかの国のお抱えの冒険者となって護衛とかの仕事に着く人がほとんどよ」
「……ちなみになんですけど、アーリアさんは?」
昔は旅をしていたって言ってたから、間違いなくアーリアさんは冒険者の筈だ。 しかも実力を見ればかなり上のランクだろう。
俺の質問にアーリアさんは躊躇いながらも口を開いた。
「……一応、Aランクよ」
「やっぱり……」
俺の予想は当たったみたいだ。
アーリアさん程の人が低ランク冒険者の訳が無いからな。
「あの、Aランクの人と初心者であるFランクが一緒の依頼を受けられるとはとても思えないんですけど、大丈夫なんですか?」
「その心配はいらないわ、私の場合は元Aランクだから」
「元、ですか?」
「えぇ、あの村に来たのが十数年前、その時に冒険者から身を引いたの。 冒険者は原則として年に一回は依頼を受けないと登録を抹消されるの。 だから私はもうギルドに戻ってもただの見習い冒険者よ」
「……勿体無いですね、Aランク冒険者の称号を捨てるなんて」
「別に未練は無かったから勿体無いとは思わなかったわ、それにそのお陰で貴方達ともう一度冒険者として最初から一緒にいられるし」
そう言ったアーリアさんの表情は、本当に後悔している様子は伺えなかった。
俺なら考えられないけど、アーリアさんにはアーリアさんの考えがあるんだ。 俺が今更とやかく言う筋合いは無いか。
「さて、お話はここまで、そろそろ出発しましょう」
そう言って立ち上がるアーリアさんに習い、俺とエミリアも立ち上がった。
そうだな、話をするよりも都市に向かって早く冒険者に登録しないと。
再びアーリアさんを先頭に歩き出した俺達だが、ふと村での事を思い出す。
それはアーリアさんの家でされた話、大賢者ウガルドがアーリアさんの事を『白銀の魔女』と呼んでいた事。
そしてアーリアさんはウガルドに対してもう間違いは犯さないと言っていた。
もしかすると、アーリアさんが冒険者から身を引いたのはそれが関係しているのではないか? 目の前を歩くアーリアさんを見つめながら、そんな考えが頭を過った。
過去を詮索しようとは思わない、あの時はそう思っていたが今は考えが変わりつつある。
これから先、一緒に旅をする大切な仲間として、過去に何があったのか知りたいと思った。
それが今すぐでなくても、いずれアーリアさんが俺達を信用して話してくれる、そう信じて俺は歩みを進めた。




