第29話 方針
「やあっ!」
剣を上段に構え、掛け声と共にエミリアが斬りかかって来る。
直前まで動きを見て自らの持つ剣で受け、手首の動きだけでそれを受け流すとエミリアは勢いそのままに前のめりに倒れそうになる。
「きゃっ!?」
「おっと」
倒れそうになるのを片手で支える。
「大振りすぎ、それに動きに無駄があるからもっと小さな動きで」
「うぅ……そんな簡単に言われても、アルが強すぎるんだよ……」
支えられながらエミリアが弱々しく呟いた。
事の発端はアーリアさんの一言から始まった。
一緒に旅をするのだから自分の身は自分で守らなければならない、アーリアさんがエミリアに対してそう伝えたのだ。
俺とアーリアさんがいれば安全だろう、しかし常に必ず守れるという訳では無いのだから確かに最低限身を守る手段を覚えなければならない。
魔法に関しては残念ながらエミリアにそれ程強い魔力は感じられなかった為、剣術を教える事となった。
「俺だって最初から出来た訳じゃないよ、エミリアも続ければ出来る様になるからさ、一緒に頑張ろう?」
「……うん」
俺の言葉に頷くエミリアだが、その表情は晴れない。
まあ仕方ないと言えば仕方ないか、先程から何度か打ち合いをしているがその全てが手も足も出ない程に負けているのだから。
ただ今言った様に最初から出来る訳では無いし、これは俺の勝手な感想だがエミリアにはセンスがあると思う。
以前から俺とウィルの打ち合いを見ていたからか、それとも生まれつきの才能なのかわからない、だが大振りすぎる動きを直せば足運びや剣の振り等はかなり良い動きが出来ている。
まだエミリア本人には伝えないでおくが、このまま続ければそこらの盗賊や魔物と渡り合える程にはなる筈だ。
「……アル、もう一回お願い」
そして気付いたのがエミリアは意外と負けず嫌いという事。
普通なら弱音を吐いて投げ出してしまいそうなものだが、エミリアはこの様に負けても何度も挑んで来る。
俺としても教え甲斐がある。
「わかった、じゃあ行くよ?」
「うん!」
再び剣を構えたエミリアが、勢い良く踏み込んで来る。
「アルファンド君、エミリアちゃん、食事の用意が出来たからそろそろ終わりにしなさい」
何度目かの打ち合いを始めようとした時、アーリアさんから声が掛かった。
「わかりました。 エミリア、行こう?」
「はぁ……はぁ……う、うん……」
エミリアは肩で息をしながら頷いた。
額には汗で髪の毛が張り付いている。
「エミリア、こっち向いて」
「えっ?」
エミリアの頬に手を当て、ポーチからタオルを取り出す。
「アクアボール」
攻撃に使うアクアボールだが、魔力の込め方でタオルを濡らす程度の水にもなる。
その濡らしたタオルでエミリアの額の汗を拭う。
「顔とか首筋とかも拭くか?」
「あ、う……お願い、します……」
何故か顔を赤らめ敬語になるエミリア。
あれ? 別に拭くだけなんだけど、そんなに恥ずかしいかな?
「……アルファンド君、私も汗をかいたから拭いて欲しいわ、主に体を」
「え? アーリアさんは自分で魔法が使えるじゃないですか」
「むぅ……」
頬を膨らませるアーリアさん、そして横目でどこか勝ち誇った表情をアーリアさんに向けるエミリア。
何だろう、何か不味かったかな?
二人の間にバチバチと火花が見える様な気がする。
「えっと、二人とも? とりあえず食べよう?」
渋々といった様子で二人が目を逸らし、そのまま食事を取る。
「アーリアさん、旅に出てまだ二日目ですけど、あとどれくらい森の中を歩くんですか?」
俺の質問にアーリアさんは少し考え込んでから口を開いた。
「そうね、このペースで歩けばあと二日で近くの都市に着くわね」
都市か、やはり今まで住んでいた村とは違って大きいんだろうな。
「それで都市に着いてから何だけどね、冒険者に登録した方がいいと思うわ」
「冒険者って、ギルドに所属して、依頼を受けたりする?」
「あら? アルファンド君詳しいわね?」
まあ、冒険者と言えばファンタジーの定番だからな、まさか実在するとは思わなかったけど。
「説明を続けるわね、冒険者に登録すれば依頼の達成で報酬が出るし、都市間の移動の時に普通は税を取られるけど冒険者はそれが免除されるわ」
「税ですか、確かに移動の度に取られたら面倒ですからね」
「アル、税って何?」
エミリアが首を傾げながら尋ねて来る。
そりゃそうだ、あの村に住んでて、しかも十歳そこらの子供が普通税なんて知らないだろう。
「税って言うのはその都市が定めた、住民や都市に来た人から徴収するお金の事だよ」
「徴、収?」
「集めるって事だよ、そのお金を払わないと都市に入る事も出来ないんだ」
「入るのに、わざわざお金を払うの?」
「そう、税金って言って主に都市の発展に当てたり村でもあった様な自警団の経費に当てたり、所謂都市の為の資金になるお金だよ」
「ふーん、都市の為のお金なのに、住んでる訳じゃ無い人までお金を払うんだ」
よかった、俺の説明でおよそどのようなものなのか何とか理解出来た様だ。
「……アルファンド君、貴方本当に何者なの?」
目を点にしたアーリアさんのぽつりと溢した呟きに、俺は笑って誤魔化した。
そういった知識は、前の世界で得たものだから。




