第26話 休息
翌日、早朝から俺達三人は森の中を歩いていた。
早朝の森は昼間の暑さが嘘の様に肌寒く、俺とエミリアは服の上からアーリアさんに借りたローブを着ている。
昨夜、あれからアーリアさんと交代したが俺はあのキスの感触が頭から離れず結局一睡も出来なかった。
つまり、眠い。
「アル? 大丈夫?」
隣を歩くエミリアが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
俺は大丈夫という意味を込めて笑みを浮かべ、視線を前に向けた。
視線の先、前を歩くアーリアさんの後ろ姿は表情が見えなくても浮かれている事が知れた。 今にもスキップしそうな程に。
何であんな事をしたんだろうか? いや、アーリアさんは俺が好きだからと言っていたが……うーん、どうも納得出来ない。
第一俺みたいな奴の事をアーリアさんの様な絶世の美女が好きなんて、天地が引っくり返っても有り得ないだろう?
いや確かに前の世界と比べたら十分顔が整っているとは思うけど中身は俺自身な訳だし。
「んー……」
「アル、本当に大丈夫なの?」
「……うん、大丈夫、エミリアこそ疲れて無いか?」
「私は大丈夫、ちょっと足が痛いけど我慢出来るぐらいだから」
「そっか、疲れたら言えよ? 怪我とかしたら心配だから」
「うん……ありがと」
恥ずかしそうに顔を俯かせ、黙り込んでしまうエミリア。
うん、エミリアは今日も可愛いな。 そして今日もいい天気だな。
そんな現実逃避をしていたら、ふと視線を感じた。 前を向くとアーリアさんがジト目で俺を見ている。
えっ、何だ? 俺何かしたか?
思わず首を傾げて見詰め返すと、途端に顔を赤らめて顔を逸らされた。
えぇっ……。
女性の考えている事は男にはわからない、つまりはそういう事なんだろう、そう考えて俺はそれ以上深く考えるのをやめた。
それから時間は過ぎ、太陽が完全に真上に上がって森は再び熱気に包まれた。
既にローブは脱ぎ、それでも暑いため服の袖を捲ってひたすら歩き続ける。
「あ、暑い……」
エミリアが項垂れながらぽつりと言葉を漏らす。
エミリアも袖を捲ってはいるが、額からは汗が止めどなく流れている。
まあ、エミリアの気持ちはわかる、俺も汗が止まらないしな。
それにエミリアの体力的にもこの暑さは厳しいだろう。
「エミリア、少し休むか?」
「だ、大丈夫……まだ、歩けるよ……」
「無理するなよ、慣れない山道だし最初から無理すると体調を崩すぞ?」
「うぅ……ごめん……」
「謝らなくても大丈夫だよ。 アーリアさん、少し休めませんか?」
「いいわよ、丁度そこに川もある様だしここで休憩にしましょう」
アーリアさんの言葉通り、近くに綺麗な小川が流れている。
荷物を置いて俺達は一度休息を取る事にした。
「っ……はぁ、冷たくて気持ちいい……」
小川の水で顔を洗うエミリアがそう言葉を漏らす。
確かにエミリアの言う通り水はとても冷たく、顔を洗ったらさっぱりした。
うーん、顔を洗うだけでも大分気持ちいいけど、もう少し涼みたいな……よし。
ポーチからタオルを取り出し、俺はシャツを脱いで上半身だけ裸になった。
「きゃあっ!? ア、アル!?」
「えっ?」
エミリアの慌てた声に、俺は動きを止めた。
「どうかした?」
「ど、どうって……そんな急に脱ぐのはちょっと……」
顔を真っ赤にさせるエミリアに思わず首を傾げてしまった。
あ、そっか、エミリアも子供とは言ってももう年頃の女の子な訳だしいきなり目の前で服を脱ぐのはちょっと配慮が足りなかったか?
「ごめん、暑かったからつい、ちょっと向こうに行ってくるよ」
「あ……」
離れた所なら大丈夫だろうとエミリアに背を向けると、突然手を掴まれた。
「エミリア?」
「あぅ……あ、危ないかもしれないから、ここでいいよ……?」
「え? いや、でもエミリアに悪いし」
「さっきは急だったから驚いただけ……私は気にしないから……」
……まあ、エミリアがそう言うのならいいか?
一度頷いてから俺はタオルを濡らして体を拭いた。
うん、思っていた通り気持ちいい、森の中じゃ風呂も何も無いしこうでもしないとな。
「わっ、わっ……」
「エミリアちゃん、しっかり目に焼き付けておきなさい」
「え?」
「まだわからないかもしれないけど、直にこの素晴らしさがわかるわ」
「あ、は、はい!」
ちょっと待て、焼き付けておくって何だよ? エミリアに変な事を教えないで欲しいんだが。
思わずジト目でアーリアさんを見ると何故かウィンクされた。
いやおかしい、別にウィンクとかいらないです。 というか目が輝いていて息遣いも荒い、正直恐いんですけど。
何かもうアーリアさんがわからない、凄い人なのはわかってるんだけどわからない。
俺は大きく溜息を吐いた。




