第25話 突然の
あれから更に夜は更け、周囲には暗闇の中から時折響いて来る獣の遠吠えと火にくべられた薪の焼け落ちる音しか聞こえない。
そんな中で、俺は周囲の警戒と火の番の為に起きていた。
ポーチから出した魔術の本を開き、火の明かりを頼りに読み耽っている。
アーリアさんは俺の向かい側に横になって眠っている。
警戒と火の番はアーリアさんと交代でする事になっていて、初めはアーリアさんが一人でやると言っていたのだが女性一人に任せっきりで休むのは嫌だったから交代でやる様に俺が交渉した。
因みにエミリアはここまで来るのに疲れたのだろう、すっかり深い眠りに着いている。
別にそれは構わない、初めての森の中を一人で必死に追い掛けて来たのだから疲れているのは当然とわかるから。
ただ、俺の膝を枕にして頭を乗せるのはちょっと勘弁して欲しかったな。
年頃の女の子が無防備に男に寝顔を見せてすっかり安心仕切っているのはどうかと思うぞ?
いや、俺は別に何もしないけどさ、他の男だったら何をされても文句は言えないのに。
……まあ、それくらい俺に対して心を許しているのだと考えたら、悪い気はしないけどな。
何の気なしに頭を優しく撫でると小さく呻きながらより一層俺の膝に顔を押し付けて再び静かに寝息を立てる。
全く、本当に可愛いよなぁ……顔だけじゃなくて、性格とか行動とかも含めて。
こんなに可愛い女の子が、俺の為に危険を承知で一人で追い掛けて来てくれたというのだから流石の俺も期待してしまう。
エミリアは、俺の事をどう思っているのだろうか?
いや、好意を寄せて来てくれているのはわかる、俺もそこまで鈍感じゃない、だけどその好意が友人としてなのか恋愛対象としてなのかは正直自信を持てない。
だからこんな状況でも、決して手を出したりなんかしない……心頭滅却、心を無にするんだ。
悟りを開け、俺。
「あらあら、随分と羨ましい状況になってるわね」
突然、眠っていると思っていたアーリアさんが俺に視線を向けて微笑んでいた。
「起きていたんですか? というより羨ましい状況って、別に何も思って無いですよ」
「あら、そんなに可愛い女の子を膝枕しておいて何も思わないの?」
「確かにエミリアは可愛いですけど、大切な友達にそんな事を考えたら失礼じゃないですか」
「……エミリアちゃんには、少し同情しちゃうわね」
哀れむ様な表情をエミリアに向け、アーリアさんは溜息を溢す。
「……何ですか?」
「その子、アルファンド君の事が好きだから危険を承知で来たんでしょう? それなのにアルファンド君がそれに気付かないのは可哀想と思ったの」
「……一応言っておきますけど、エミリアが俺に好意を寄せているのはわかってますよ」
「えっ? そうなの?」
「そこまで鈍感じゃないですよ、だけど……その好意が友人としてなのか恋愛対象としてなのか、余り自信を持てないんですよ」
「そんなの決まっているじゃない、恋愛対象として貴方に好意を寄せているのよ」
「いやいや、俺みたいな奴の事を好きになりますか?」
「なるわよ、だって私もそうだもの」
「……えっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
今、何と言った? アーリアさんが、俺の事を?
「えっと、からかっていますか?」
「失礼ね、私は真剣よ? アルファンド君は……歳上の女は嫌い?」
そう言ってアーリアさんは俺の方へゆっくりと、確実に迫って来る。
不味い、エミリアがいるから逃げるに逃げられない。
頭の中に、以前エミリアの家でレイシーさんに迫られた事が思い浮かんだ。
おかしいだろ、まさかこの年でモテ期到来なのか!? いやそれは無いだろ!? でも実際アーリアさんの頬は上気して色っぽい……いやいや、そんな事はこの際どうだっていい! 今はこの状況をどうやって乗り切るかだ!
「アーリアさん! ちょっと落ち着いてください!」
「私は至って落ち着いてるわ、この想いも私の本心、貴方は魔女である私を恐れずに接してくれた。 貴方にはわからないでしょうけど、私にとってそれがどれだけ嬉しかったか……」
アーリアさんの表情から、今まで他人からどのような対応をされていたのかわかる様な気がする。 魔女、それは俺にとってはいかにも異世界という感じで興奮したがこの世界の人達からしたら恐ろしいのだろう。
現にエミリアとウィルにアーリアさんの紹介をした時、二人は恐がっていた。 俺の説得で二人はようやく納得したが、やはりあの反応が普通なのだろう。
「ア、アーリアさん、それは多分好きとかじゃないんじゃないですか? ほら、誰だって優しくされて勘違いする事もありますし!」
必死だった。 このままだと不味い、そう考えた為に。
しかし、アーリアさんは首を横に振る。
「勘違いなんかじゃないわ、だって私はそんな優しい所もだけど貴方の髪と瞳の色、それに顔も好みだもの」
あ、駄目だ。 そんな考えが過った。
何処か妖艶な笑みを浮かべながらアーリアさんは更に距離を縮め、そして目の前まで来ると俺の頬に手を当てて来た。
「あぅ……アーリアさん……」
「私は、本気よ?」
ゆっくりと顔が近付いて来て、まだ何か言い訳を考えていた俺の口が塞がれた。
女性特有の甘い香りが鼻を突いた。
前の世界でキスの経験はある、しかしその時はこんなにドキドキする事は無かった。 何故だろうか、前の世界では考えられない絶世の美女が相手だから? いや、そんな簡単なものじゃ無いと思う。
「んっ……ふふっ、お休みなさいアルファンド君」
唇を離し、呆然と固まる俺から離れて再び先程の場所に横になった。
えっ、待ってくれよ、何これ、何でアーリアさん普通に眠れるの? 俺もうこれ朝まで眠れないよ。
「えぇっ……何これ……」
呆然と呟いた声は、闇夜の中に消えていった。




