第21話 旅立ち
俺とアーリアさんは、一度アーリアさんの家に寄った。
アーリアさん曰く、必要な物を持って行く為らしい。
家の中に入るとあの時殺した三人の盗賊の死体がまだ転がっていた、しかしその死体を見ても何も思わない。
その辺に転がる石ころの様にしか思えなかったのだ。
……変わったな、俺。
思わず渇いた笑いが溢れた。
「アルファンド君、どうしたの?」
「……いえ、何でも無いです」
「そう? それよりこれをあげるわ」
アーリアさんが俺に何かを手渡して来た。
それは一見、ただの腰に巻くタイプのポーチにしか見えなかった。
荷物をこれに入れるのかな? だったらもっと大きな物を使えばいいのに。
「あの……こんな小さなポーチでいいんですか?」
「これはマジックアイテムよ」
「マ、マジックアイテム?」
聞き慣れない言葉に、俺は鸚鵡返しに聞き返した。
「そうよ、これはマジックポーチと言って見た目からは考えられないぐらいのアイテムが入るの」
「こ、こんなに小さいのにですか?」
思わず手にしたポーチをまじまじと見詰める。
アーリアさんの言う事だから、嘘では無いとわかるがにわかに信じる事が出来ない。
気になってポーチを開けると、空いた口が塞がらなかった。
ポーチの中には既に短剣や薬の瓶等いくつかのアイテムが入っていた、"ミニチュアサイズ"で。
恐る恐る手を入れてみるとまたもや驚愕した。
中に入れた手が同じように小さくなり、中に入っている瓶を掴んだ。 そのまま引っ張り出すと手は元の大きさに戻り、掴んだ瓶は先程見たミニチュアサイズでは無く掌大の大きさになったのだ。
凄い……これが、マジックアイテムなんだ……!
「わかってくれたかしら? そのポーチはそれなりにレアで、ちょっとやそっとじゃ満杯にはならないわ」
「あ……こんな高価な物を貰って、いいんですか?」
「遠慮は無用よ、同じ物がもう一つあるから私はそれを使うし、少しランクは下がるけど似た様なポーチがまだあるから」
改めて、アーリアさんが凄い人なんだと実感した。
そんなレアなアイテムをいくつも持っているなんて、恐らく昔手に入れたんだろうけどどれ程苦労したのだろうか?
「えっと、ありがとうございます」
「いいって言ってるでしょう? それよりアルファンド君も手伝って頂戴、この家にある物はほとんど持って行くから」
「あ、は、はい!」
アーリアさんに促され、俺は家にある物をどんどんポーチに詰め込んで行く。
大半は本だが、その他に調理器具や防寒具、アーリアさんは衣類も入れて行く。
その際、夢中でポーチに入れていたら誤ってアーリアさんの……その、下着って言うか、ブラジャーを手にしてしまい、その大きさに思わず手に持ったまま唖然としていると顔を真っ赤にしたアーリアさんに引ったくられた。
ごめんなさい、わざとじゃ無いんですと頭を下げて慌てて訴えたが何故か顔を赤らめながら『アルファンド君もそういう年頃だから仕方ないけど、恥ずかしわ……でも我慢出来ないのなら、使ってもいいわよ?』と、何故か引ったくったブラジャーを差し出された。
使うって何だよ!? 俺は別にそんなつもりで手に取ったんじゃ無いぞ!?
丁重に断ると、何故かアーリアさんは残念そうにブラジャーを自らのポーチに入れた。
いやいや、何でそんな残念そうな顔をするんですか? と言うか俺を一体何だと思っているんですか?
そんなハプニングがありながらも俺とアーリアさんは家のほとんどの物をポーチに詰め込み、出発の準備が整った。
家から出て村とは反対方向、いつも魔法の特訓をしていた草原へと足を進める。
ふと、後ろに広がる村へと視線を向けた。
生まれ変わってから今まで過ごして来た、俺にとって故郷と言える村。
やはり、後ろ髪を引かれる思いに駆られる。
しかし一度決めた事だ。 もう後戻りは出来ない、口には出さず心の中で別れを告げて俺は視線を前へと戻した。
「アル!!」
突然後ろから呼び止められ、思わず肩がびくりと震える。
振り返ると、目の前に肩で息をしながら立ち尽くしている人物、父レイドがいた。
「……父さん」
「フィーから聞いた。 本当に、行くんだな?」
「……はい、もう決めたんです」
「……アル、一つだけ言わせてくれ、村の奴らが何を言ったのかはわからない、でも何を言われようがお前は……お前は俺とフィーの大事な息子だ! 例え血が繋がっていなかったとしても、俺達の息子なんだ! それだけはわかってくれ!」
レイドの目から、堪え切れずに涙が溢れた。
あぁ、本当に……俺は何て幸せなんだろうか。 こんな俺の事をこんなにも愛してくれるなんて。
本当に、幸せだ。
「父さん、俺、ずっと父さんを尊敬していました。 いつか父さんみたいになりたいと思ったから、今まで頑張って来れたんです。 俺の事を、今まで育ててくれて、ありがとうございました」
深く、頭を下げる。 今までの感謝を、伝える為に。
「アル……」
「俺にとって、父さんは自慢の父親です!」
「っ……馬鹿野郎、お前だって、自慢の息子だよ」
目元を押さえ、深く息を吸い込むとレイドは視線をアーリアさんへと向けた。
「息子を、アルを……頼みます」
「……はい」
アーリアさんは真剣な表情で頷いて答えた。
今度こそ、お別れだ。
「さようなら、父さん」
「アル……元気でな」
レイドに背を向け、今度こそ振り返る事無く俺は歩き出した。
そう、振り返ったら駄目だ。 レイドを安心させる為にも、こんな顔を、見せる訳にはいかないんだ。
止めどなく溢れ落ちる涙を何度も拭い、俺は歩き続ける。
俺の旅は、始まった。




