第20話 別れ
「母さんを、どうする気だよ?」
自分でも驚くぐらいの低い声が出た。
俺を見る村人達の表情に恐怖が張り付いている。
「ア、アル……?」
フィオナが俺を見詰める、その目に込められている感情は恐怖だろうか? しかし村人達の感じている恐怖とは違う、今の村人の言葉を聞いて、俺がどんな思いなのかという恐怖。
本当に、優しい人だ。
だけどもう、一緒にいる事は出来ないんだろうな。
本当は別れたく無いけど、このままだとフィオナがこの村にいれなくなってしまう……なら、俺が消えるべきだろう。
「……ごめんなさい母さん、本当は知っていたんです。 俺が、母さんと父さんの本当の子供じゃないという事を」
「そんな!?」
「俺はそいつらの言う通り、化け物みたいなものなんです。 あの夜、雨の降る中で母さんと父さんに拾われた事も覚えてます」
フィオナの表情が絶望に染まる、何故その事を知っているのかと。
「でも、拾われたのが母さん達で良かった。 こんな俺の事を、本当の子供として今まで育ててくれたから」
「っ……!!」
「今まで育ててくれて本当にありがとうございました、そして……ごめんなさい」
俺は立ち上がり、フィオナの前に立つ。
揃って身構える村人達に鋭い視線を向ける。
「俺がこの村から出て行けば、母さん達には何もしないんだろうな?」
「っ……あ、あぁ」
「なら俺はこの村から出て行く。 もし、俺が出て行った後に母さん達に何かしたら……わかるよな?」
辺りに転がる最早炭となっている盗賊共の死体を一瞥してからそう告げると、村人達は何度も首を縦に振った。
これなら、何かするって事も無いだろう。
村人達に背を向け、もう一度母さんに向き直る。
「母さん、俺はこの村から出て行きます。 どうかお元気で」
「アル……嫌……嫌よ! どうして、アルがいなくなってしまったら、私はこれからどうしたらいいの!?」
叫び、泣き崩れるフィオナの言葉を聞いて、後悔の念が過るが、今更後には引けない。
フィオナへと近付き、そっと抱き締めた。
「母さん、例えこの村から出て行っても、俺にとっての両親は母さんと父さんだけです」
「アル……うぅ……ああああぁっ……!!」
泣き崩れるフィオナから離れ、近くで事の成り行きを呆然と見ていたエミリアとレイシーさんに視線を向ける。
「エミリアとレイシーさんも、今までありがとう」
「アル君、本当に行ってしまうの?」
レイシーさんの問いに、俺は無言で頷く。 すると突然エミリアが抱き付いて来た。
驚きはしたが、咄嗟に抱き止める事が出来た。
「エミリア……」
「嫌だよ! せっかく助かったのに、アルがいなくなるなんて嫌だよ!」
ぼろぼろと涙を溢すエミリア、その頭をそっと撫でる。
「……エミリアには、本当に感謝してる。 あの時、エミリアの家で、他の人と違う俺にずっと一緒にいてくれるって言ってくれて、本当に嬉しかった」
「ア、アル……」
「でも、もう決めたんだ。 だから……さよなら」
エミリアから体を離し、アーリアさんへと近付く。
アーリアさんはとても申し訳なさそうな表情で俯いてしまっている。
「アーリア先生」
「ごめんなさい、アルファンド君……こんな事になったのは、私のせいだわ」
「そんな事ありませんよ、アーリア先生に魔法を教えて貰った事に後悔なんてしてません。 それよりアーリア先生……一緒に、来て貰えますか?」
そう、情けない話だが、俺はこの村から外に出た事が無い訳だから、右も左もわからない。 そんな状態で一人で行こうものなら直ぐに命を落とすだろう。
そんな俺とは違ってアーリアさんはこの村に来る前には色々な国を旅して回っていたという、旅やこの世界の知識を色々と知っている。
だから一緒に行動してくれたらとてもありがたいのだが。
「当たり前よ、貴方の事は私が責任を持って行動を共にするわ」
どうやらレイシーさんは初めからそう決めていた様で、返答は早かった。
「ありがとうございます」
アーリアさんから視線を外し、フィオナ達に向き直る。
「さようなら、皆」
アーリアさんと並び、俺は歩き出した。




