第16話 逃亡
エミリア視点です。
「ウィル!! どうしよう!? 皆が!!」
「落ち着いてエミリア!! 僕達が行っても……何も出来ないよ!!」
悔しさからか、ウィルが俯いて唇を噛んでいる。
私だって悔しいよ、今私達が隠れている物置、外では村の人達が次々に殺されていく。
必死に逃げようとしているけど、相手は慣れているみたいで村の人達を囲んで手に持つ剣で簡単に殺している。
「ひぃっ!? 助けて!」
「嫌だ! 死にたく無い!」
「助けて……ぎゃああああっ!?」
耳に残る悲鳴、体が勝手に震える。
酷い……どうして、そんな簡単に人が殺せるの……?
「エミリア、このままだとここも危ない、隙を見て逃げよう!」
「で、でも……足が……」
確かにウィルの言う通り直ぐここから逃げたい、だけど足が震えて立ち上がる事も出来ない。
恐いよ……助けて……アル……!!
自然と頭に浮かぶのは、私の好きな人。
あの優しい笑顔が、綺麗な黒髪が、脳裏に焼き付いたかの様に離れない。
その時、外で切られた人が運悪く扉を突き破る様にして飛び込んで来た。
「きゃああああっ!?」
思わず悲鳴を上げてしまった。
「おい! 声が聞こえたぞ!」
「そこの物置からだ!」
「くっ! エミリア! 逃げよう!」
ウィルが私の手を掴んで無理矢理引っ張った。
足元に倒れた人を跨いで外へと飛び出す。
「ガキだ! 殺せ!」
「おい! こっちだ!」
目の前からこちらに向かって来る二人組に背を向けてウィルと共に走り出した。
足が覚束無い、まるで自分の足じゃないみたいな感覚、ウィルに手を引かれてるから何とか走っている。
後ろから追い掛けてくる足音が聞こえる、追い付かれたら死ぬ、死が後ろから迫っている。
そんな恐怖から逃げる為、必死に走る。
狭い通りや積んである荷物を倒しながら追い付かれない様に必死に走る。
そのおかげか、段々と後ろとの距離が離れて行く。
「エミリア! このままどこかに隠れよう!」
「はぁ……はぁ……っ! わ、わかった!」
狭い通りを抜け、大きな通りへと飛び出す。
その時、前からこちらに走って来る人影が見えた。
目を凝らすと、特徴的な黒髪。
自然と涙が込み上げて来る。
良かった……もう、会うことも無く死んじゃうかと思った……。
「エミリア! あれ!」
ウィルも気付いた様で、こんな状況にも関わらずその顔に自然と笑みが浮かんでいる。
「うん……うん……!」
止めどなく溢れる涙を擦りながら頷き、私は前へと視線を戻した。
そして、目の前で、突然横の通りから飛び出して来た剣がウィルのお腹に深々と突き刺さった。
「えっ?」
私の手を掴んでいた手が放される、そしてゆっくりと、剣が抜かれながらウィルの体が前のめりに倒れて行った。
「ウィル……?」
私の呼び掛けにウィルは一言も答えない。
じわりじわりと赤い液体、血が、倒れたウィルの体から止めどなく溢れ広がっていく。
嘘でしょ? そんな、ウィル……?
視線を上に上げると、血の着いた剣を手にした男の人が、笑いながらウィルを見下ろしていた。
「いっ……嫌ああああああっ!?」
遠くから聞こえる私達を呼ぶ声に応える事も出来ずに、私はただ、悲鳴を上げる事しか出来なかった。




