第15話 覚悟
何度、剣を振るっただろうか?
何度、魔法を使っただろうか?
辺りに転がる盗賊共の死体の数が、それを物語っていた。
しかしまだ盗賊共は残っているらしく、村のあちこちから轟音と悲鳴は聞こえている。
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい、そりゃそうだろう、ずっとこいつら相手に剣と魔法を使っていたのだから。
「ア、アルファンド……君……?」
アーリアさんが、呆然と俺の名を呼んだ。
振り向くと、返り血をべったりと浴びた俺の顔を見て息を飲むアーリアさんと目が合う。
「アーリアさんの、言う通りでした。 現実を見ないといけない、こいつらを殺さなければもっと沢山の人が死んでいたんですから」
「アルファンド君……」
「アーリアさん、お願いがあります。 俺はエミリアとウィルを探します。 アーリアさんには他の村の人達を助けて貰いたいです」
「……わかったわ、気を付けて」
頷き、俺はアーリアさんに背を向けて駆け出した。
エミリアとウィルを探す為に、助ける為に。
エミリアの家は、俺の家からは村のほぼ反対側になるため結構な距離がある。
向かうまでに、何度も盗賊共が道を塞いで来たがその度に殺した。
襲われてる村の人達を、何度も助けた。
皆が俺の姿を見て怯えていたが、事情を説明して逃げる様に伝えた。
そしてまた走った。
ランナーズハイって言ったっけか? 先程まではかなり体力的にキツかった筈なのにまだ走れる、魔力も余裕はある……まだ、あいつらを殺せる。
やがてエミリアの家にたどり着いた。
この辺りには火は回っていない、その点はひとまず安心した。
だがどの家も扉が開けっ放し、もしくは近付くで壊された形跡がある。
エミリアの家も、同じだった。
急いで家の中へと向かう。
「嫌あああっ! 助けて! もうやめてぇ!」
「大人しくしろ、次は俺がたっぷり可愛がってやるからよ」
「おい、次は俺だろうが」
「うるせぇな、こんな上玉の女をやれるだけいいじゃねぇか」
「何人まで意識があるか賭けるか?」
「じゃあもっと呼ぶか? へへへっ」
中から響いたレイシーさんの悲鳴。 中の光景を見て、俺の怒りは最高潮に達した。
中にいた男は五人、その内一人がレイシーさんの両腕を押さえ一人はレイシーさんに夢中で腰を打ち付けている、残りの三人はそれを見てニヤニヤと下品な笑いを浮かべていた。
レイシーさんは必死に抵抗している様だが相手は五人、しかもそれぞれ体つきだけは屈強な為全く身動きが取れない様だった。
プチンと、頭の中で何かが弾けた。
「あああああああっ!!」
剣を構え、一番後ろにいた男の首へと剣を振るった。
「あぇ?」
間抜けな声を漏らし、男の首が床へと落ちた。
途端に吹き出す鮮血。
一瞬何が起きたのか理解出来ずに動きが止まる男達、しかし自分達に降り掛かる血でようやく理解したのか各々が剣を抜こうと手を伸ばす。
させるかよ。
一番近かった一人の肩から斜めに切り裂き、そのまま剣を返して隣にいるもう一人の首を跳ねる。
これで三人、レイシーさんに腰を打ち付けていた男の首根っこを掴み、後ろから心臓へと剣を突き刺した。
剣は簡単に男の体へと侵入していき、心臓を貫いてそのまま胸を突き抜けた。 心臓を貫かれた事により体を痙攣させ、男はそのまま絶命する。
「その汚い物をさっさとレイシーさんから抜けよ、糞野郎」
剣を抜きながら後ろへと引き摺り倒す。
後、一人……。
視線を前へと向けると、最後の一人が剣を振り上げながら飛び掛かって来た。
咄嗟に剣を構えてそれを防ぐ。
男は突然仲間を全員殺された事でかなり激昂しているのか、俺を怒りの形相で睨み付けている。
何だよ、お前らは殺す癖に、外道な真似をする癖に、自分達が死んだらそうやって……本当に目障りだな。
力任せに押して来るその勢いを、そのまま受け流した。
男は当然俺の目の前で前のめりに倒れそうになる。
その男の肩に手で触れる、お前には違う方法で死なせてやるよ。
「コキュートス」
男の動きが止まる。
コキュートスは氷の属性魔法、空気中の水分もしくは液体そのものを凍らせる事が出来る。
人間の体は構造上大半が水だ。 ならばその血液を凍らせればどうなるか? 答えは簡単、こいつの様になる。
男の目や耳、鼻、口から冷たく白い煙が吹き出ていた。
「て、てめ……魔法使、いか……」
「答える必要なんて無いだろ、どうせお前は死ぬんだから」
「ふざ、けるな……あ、がぁっ……!」
苦しそうな声を最後に男の体が固まる。 どうやら、完全に凍った様だ。
血液だけで無く骨や皮膚も同様に凍り付き、まるで氷細工の様な姿に成り果てた。
……まあ、そんな綺麗な物では無いけど。
その死体を蹴り飛ばすと硝子が割れる様な甲高い音と共に砕けた。
その死体を一瞥してからレイシーさんに近付く。
レイシーさんは自らの体を隠す様に抱き締め、その裸体を縮こまらせながら震えていた。
その秘所からは白濁した液が溢れており、独特の嫌な臭いが鼻を突いて思わず顔をしかめた。
「大丈夫ですか?」
「ひぃっ!?」
「レイシーさん、落ち着いて下さい、俺です」
「ひっ……ア、アル君……」
「はい。 待って下さいね……クリーン」
使ったのは治癒魔法のクリーン、これは所謂体を綺麗にするための魔法だ。
こいつらの汚いものを取り払ってやった。
だが所詮は綺麗にするだけ、これが原因で妊娠するかもしれないが、そのままにしておくよりずっとマシだろう。
服は破かれてとても着れる状態では無い為ひとまずテーブルクロスを引っ張りレイシーさんの体へと掛けた。
「レイシーさん、大丈夫ですか?」
「アル君、貴方、魔法が……?」
「説明している暇はありません、ここは危険ですので逃げて下さい、エミリアはどこに?」
「っ……エミリアは、貴方と一緒じゃないの? あの子、昼から帰って来て無いのよ!?」
「えっ?」
あの後から帰って無いのか? つまり、今ウィルと村のどこかに?
「レイシーさん、俺はエミリアを探しに行きます。 近くにまだこいつらの仲間がいるかもしれないので隠れていて下さい」
「っ……! ま、待って! 行かないで!」
突然、レイシーさんが俺の腕を掴んだ。
そこで気付いた、レイシーさんの体が震えている事に。
恐かっただろうな、いきなり盗賊共が襲ってきて、その身を犯されたのだから。
このまま傍にいたいのも事実だが、エミリアが心配だ。
どうする……?
「……レイシーさん、俺はエミリアを探しに行きます。 でもレイシーさんをここに残して行く訳にはいきません。 だから一緒に来て下さい、とりあえず他の服はありますか?」
尋ねるとレイシーさんは何度も頷き、家の奥へと慌てて走って行った。
俺にレイシーさんを守りながら行けるかはわからないが、このまま残して行く方が不安だし一緒に来て貰った方がいいだろう。
やがて服を着たレイシーさんの手を引いて、俺はエミリアを探す為に再び走り出した。




