第9話 魔法
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
目の前に出されたお茶に、俺は礼を言って頭を下げる。
あの後、勝手に家の中へ入った事と本に触れてしまった事に対して必死になって謝る俺に彼女は気にしなくていいと言って逆に歓迎する様にお茶を振る舞われた。
彼女は何て言うか、不思議な魅力を漂わせる女性だ。
白銀の髪を腰まで伸ばし、瞳は全てを飲み込む深淵の様な朱色、身長は高くレイドと変わらないぐらいだ。
スタイルは家の前に干されていたローブの様な服を着ている為わからない。
いや、そこは重要じゃないか。
「えっと、俺はアルファンドと言います」
「あらご丁寧に、私はアーリア……魔女よ」
へぇ、魔女なんだ、そっかそっか魔女か……。
って魔女だって!? えっ、マジ!?
「魔女って、魔法使いとかの魔女ですか!?」
「え? えっと、そうよ……?」
「凄い! 魔女に会えるなんて!」
先程剣を貰った時と同様の興奮だ。
まさかここで魔女に会えるとは……!
そんな興奮する俺とは対称的に彼女、アーリアさんは戸惑う様に俺を見つめる。
「あれ? どうしたんですか?」
「あの……私が魔女とわかって、恐く無いの?」
「いいえ? むしろ嬉しいです!」
満面の笑みでそう答えると、アーリアさんは頬を赤らめながら顔を伏せた。
「アーリアさん?」
「貴方、変わり者なのね? 普通魔女とわかったら誰でも逃げるわよ?」
「そうなんですか? 俺は別に恐いなんて思いませんし、それにアーリアさんは優しそうだから大丈夫です!」
アーリアさんは頬だけでなく耳まで真っ赤になってしまった。
あれ? そんなに嫌だったかな?
「あの、もしかして俺失礼な事を言ってしまいましたか?」
「違うわ……」
顔を上げ、手で自らの顔を扇ぎながら大きく息を吐いている。
「それにしても、どうして魔女に会えて嬉しいなんて思うの?」
「それは勿論魔法に興味があるからです!」
この世界に来てから剣と同じぐらい望んでいたものだからな。
「……魔法に興味があるの?」
「はい! それで、その……もし迷惑じゃ無ければ魔法を見せて頂けたらと思うんですけど……」
駄目元で頼んでみる。
せめて見せて貰えなくてもこの本の文字とかを教えて貰いたいのだが……。
「……そう、なら着いて来なさい」
突然アーリアさんが立ち上がった。
「着いて来るって、どこに……?」
「見せて上げるわ、魔法を」
そう言うとアーリアさんは外へと出て行った。
見せてくれるのか!? こうしちゃいられない!
アーリアさんの後を追って俺も急いで外へと向かった。
場所は家の裏、村からは完全に見えない草原だ。
アーリアさんは俺が来たのを確認するとおもむろに手を前へと向けた。
「一つ言っておくわね? 魔法は見せるけど使えるとは限らない、だからどんな結果になっても文句は無しよ?」
「構いません、見せて貰えるだけでも」
「そう、なら始めるわよ」
スッと目を細め、呼吸を整える。
するとアーリアさんの体から、何か靄の様なものが立ち上るのが見えた。
何だ……あれは……?
「水の守り神よ、汝らの力、恵みを我らに施したまえーーーーアクアボール!!」
アーリアさんの翳した手の先に、直径一メートル程の水の塊が生成された。
そしてその水の塊は、凄まじいスピードで前方に発射された。
その勢いは相当で、隣に立つ俺はその発射の衝撃で体がよろけてしまう程だった。
凄い……これが、魔法……!!
「……今のは水魔法の初歩的なもの、アクアボールというものよ」
「い、今のが、初歩的な魔法なんですか!?」
「えぇ、上級魔法は更に複雑な構成になって一度で消費する魔力も多いわ」
「魔力……それって、今アーリアさんの体から出ていた靄みたいなものですか?」
何の気なしに言った言葉に、アーリアさんの顔色が急に変わった。
「待って! 貴方魔力が見えたの!?」
「あ、えっと、多分今のが魔力なら、見えました」
えっ? 見えるのが、異常なのか?
「……貴方、今私がやった魔法をやってみなさい」
「えぇっ!?」
突然過ぎないか!? 第一、出来るかわからないのに。
「いいから、やりなさい」
有無を言わせないアーリアさんの言葉に、俺は先程アーリアさんの発していた言葉を思い出す。
つまり、魔法を使うには詠唱が必要なのだろう。
魔力とやらの使い方は……わからん。
第一、俺にその魔力があるのかどうかもわからないんだ。
ええい! やるだけやってみるか!
「水の守り神よ、汝らの力、恵みを……!?」
体から、何かが溢れた。
目線を下に向けると、俺の体からアーリアさんと同じ靄が出ていた。
うわっ!? 俺、魔力なんて持ってたのか!?
でも待てよ、つまりはさっきまでの俺の心配の一つ、魔力があるかどうかは解消された訳だ。
……よし、ここまで来たらやってやるよ!
「我らに施したまえーーーーアクアボール!!」
体から何かが抜け落ちる感覚と同時に、俺の手の先に水の塊が生成された。
で、出来た……!
しかし、何かおかしい。
アーリアさんの生成した水は一メートル程、だが俺の生成した水はどんどん大きくなっている。
嘘だろ!?
あっという間に水は倍の大きさまで膨らみ、凄まじい轟音と共に前方に発射された。
「うわぁ!?」
衝撃に耐えきれず、後ろに盛大に尻餅を着いた。
鈍い痛みに思わず呻き声が漏れるが、慌てて俺の出した水の行方を追う。
かなり遠くの方で俺の放った水が地面に着弾し、地面を抉って大きな穴が出来ているのが見えた。
な、何だよ今のは……!?
「アーリアさん!? い、今のは!?」
振り向いてアーリアさんに尋ねると、何やら体が小刻みに震えている。
何だ? もしかして、不味かったか!?
不安を募らせる俺に、何とアーリアさんは突然抱き付いて来た。
「アーリアさん!?」
「アルファンド君! 貴方は正に数十年に一度の天才だわ!!」
興奮を隠せないアーリアさん、ていうかアーリアさんローブでわからなかったけどスタイルめっちゃ良いんですけど!?
待って! こんなに密着したら不味い! あの時と違って体は成長してるんだから不味いんだって!
そんな俺の焦りを他所に、アーリアさんはぐいぐいと抱き締める力を強める。
「ま、不味いんですってばー!!」
俺の叫びが、草原に響き渡った。
この世界に来て十年、俺は遂に念願の魔法を使える事が判明した。
自分で書いていて思った。
主人公、羨ましいなと
……はぁ




