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零時のログ  作者: 橋本陽


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14/36

5-2

 静香が言った。

「面白い」

 航が静香を見た。

「……面白いって」

「こういう仕組みってさ。最初から“誰が残るか”を考えさせる」

 静香はレバーを見ながら言った。

「恋人なら恋人が残る。友達なら友達が残る。守るなら守る。——その前提が、正しいって思わせる」

 静香の声は落ち着いている。落ち着いているほど、言葉が刺さる。

 結菜は思った。静香はこの装置を見て驚いていない。最初から知っているように見える。知っているなら、なぜここに来た? なぜ結菜たちをここに集めた?


 峰岸は視線を巡らし、言った。

「この宿は山間部です。万一の際に備え、皆さまにも手順を知っておいていただく必要があります」

 手順。知る必要。正しい言葉。

 結菜の背中が冷えた。


 梨央が早口で言った。

「それ、今すぐ使うことになるんですか」

 峰岸は首を横に振った。

「現時点ではありません。——ただし、夜に風が強まる予報です。もし停電などが起きた場合、慌てないためにも」

 停電。結菜は一瞬だけ、館内時計のズレを思い出した。停電後に手動で合わせた、と峰岸は言った。停電が起きることは珍しくないのかもしれない。珍しくないなら、またズレるかもしれない。ズレるなら、また0時が揺らぐ。


 修がレバーの固定具に視線を落とした。

 結菜はそれを見逃さなかった。修は何かを知っている。知っているのに言わない。言わないことが、ここでは罪にされるかもしれない。

 なのに修は言わない。言わないことで、誰かを守っているのか。自分を守っているのか。どちらも同じ顔をしている。


「——皆さま」

 峰岸が言った。

「もう一点。夜間は廊下の移動を控えてください。必要がある場合は、合意を得てください」

 またそれだ。合意があれば例外。

 結菜は思った。これは避難設備の説明ではない。

 これは、夜間に誰かが動くことを前提にした言葉だ。


 部屋を出て廊下に戻ると、空気が少し薄く感じた。

 梨央が結菜の腕を掴み、小声で言った。

「結菜、昨日の廊下の光、見た?」

「……見た」

「絶対、誰か動いたよね」

 梨央の言い方には、確信がある。確信があるから危ない。確信があると、正義が生まれる。

 結菜は慎重に言った。

「でも、0時前かもしれない」

「だったとしても、動いたことには変わらない」

 梨央は言い切った。

 結菜はその言い切りが怖かった。正しさに寄りかかる言い切り。結菜自身がよくやる言い切り。


 航が遅れて廊下に出てきた。航は何も言わない。

 静香は航の横をすり抜け、階段を下りていく。

 修も後を追う。

 峰岸は最後に廊下の時計を見上げた。秒針。規則正しい音。

 その音を聞きながら、峰岸は小さく言った。

「——今夜が、山場になるかもしれません」

 誰に向けた言葉か分からない。

 分からないから、全員に向けた言葉に聞こえる。


 結菜は自室に戻り、畳に座った。

 封筒は保管箱に置いたままだ。

 その封筒の中には、欠けた一枚がある。欠けた一枚が、結菜の頭の中で増殖する。

 欠けている、という事実だけが、内容より先に人を動かす。

 動かした人を罰するために。

 罰することで安心するために。


 廊下の時計は、淡々と時間を刻んでいる。

 結菜は思った。

 ここは“誰が残るか”を考えさせる場所だ。

 残るのは命か、関係か、言葉か。

 その答えを、誰かが最初から知っている。


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