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零時のログ  作者: 橋本陽


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4-2

遠くで、また足元灯が点いたような気がした。

 一度目より短い。

 そのあとも、もう一度。

 規則性はない。だからこそ怖い。

 誰かが、出たり戻ったりしているのか。

 それとも、人感センサーが誤作動しているのか。

 誤作動なら安心できるのに、結菜は安心できない。誤作動の可能性を消したい。消したいから、誰かが動いていると考えてしまう。

 疑いは、便利だ。恐怖を“理由”に変えてくれる。


 ——0時以降廊下に出ない。

 結菜は繰り返した。繰り返すほど、言葉は輪郭を持ち、輪郭を持つほど、誰かを罰する道具になる。

 罰したいわけじゃない。罰することで安心したいだけだ。



 朝、目が覚めたとき、結菜は自分が浅い眠りを繰り返していたのを知った。夢の内容は覚えていない。覚えていないのに、胸の奥にざらつきだけが残っている。

 布団の中でスマホを見る。圏外。時刻は06:12。

 窓の外が少し白い。雪は降っていない。湿った曇り空だ。


 航は先に起きていて、窓辺に立っていた。

「寝れた?」

 航が聞く。

「……少し」

 結菜は曖昧に答えた。曖昧が嫌いな空気の中で、曖昧にしか答えられない自分が滑稽だ。


 朝食は八時と峰岸が言っていた。

 結菜は顔を洗い、髪をまとめた。鏡の中の自分はいつもより目の下が濃い。

 部屋を出ようとして、結菜はふと気づいた。

 封筒がない。

 いや、封筒は昨夜、保管箱に入れた。部屋にあるはずがない。ないのは当たり前だ。

 なのに、胸がざわつく。置いた場所が“他人に触れられる場所”だからだ。


 結菜は階段を下り、食堂脇の保管箱へ向かった。

 廊下は静かだ。足元灯は消えている。人感センサーは人が通れば点く。いま自分が通っているのに点かない。

 結菜は立ち止まった。

 足元灯は薄暗い常夜灯のはずだ。人感で“少し明るくなる”。その変化に気づいた気がした。昨夜の光。

 いまは、変化がない。

 結菜は自分の記憶を疑った。昨夜、光ったのは本当に足元灯か? 窓の外の車のライトじゃないか? それなら——いや、車が入ってくる音はしなかった。


 食堂脇に着く。保管箱の引き出しを開ける。

 封筒はあった。奥に滑らせた位置のまま。

 結菜は息を吐いた。

 でも次の瞬間、息が喉の途中で止まった。


 封筒の位置は同じなのに、置き方が“きれい”すぎる。

 昨夜の自分は、焦っていた。奥に滑らせたけれど、封筒の角は少し斜めになっていたはずだ。

 いまは、引き出しの角と平行に揃っている。

 誰かが触った。

 触ったのに、何も盗っていない?

 盗っていないなら、触る理由は?


 結菜は封筒を取り出した。封の部分に破れはない。開けられていないように見える。

 でも、封筒の厚みが少し違う気がした。違う気がする、では足りない。結菜は確かめたくなる。

 確かめたい。確かめるべき。正しいこと。

 正しいことが危ない。


 結菜は封筒を開けないまま、部屋に持ち帰ろうとした。持ち帰れば安全だ。安全なら、誰も触れない。

 その瞬間、梨央の言葉が脳内で鳴った。

 「部屋に置かないで。誰かが触れるから」

 安全を選んだつもりが、ルールから外れる。ルールから外れると、疑われる。疑われると、また構造が動く。


 結菜は封筒を食堂の卓に置き、その場で中身だけを確認することにした。

 手を動かす。封を切る。紙の擦れる音が、朝の静けさに妙に大きい。

 中には数枚の紙。タイトル頁。説明。署名欄。条項。

 結菜は条項に目を走らせて、眉を寄せた。


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