11-10 謎の天才女優、現る10
百合たちは、そのまま、舞台にのめり込んで行った。やはり、「黎明劇場」ならでは、舞台演出や、その規模もすばらしかったが、しかし、何よりも、キセキトワの演技力がすばらしく、そこに存在していないものまでも、まるで存在しているかのように感じさせるという、そのレベルの高い演技に感動していた。
そして、拍手喝采の中、2時間30分の夢のような時間が終わり、最後は、感動した観客からのスタンディングオベーションがしばらく鳴り止まなかった。
百合たちは、感じていた。
これは、何回でも観にきたいと思う舞台だわ。キセキトワの演技力は、とんでもないレベルよ。とにかく、皆、一度、この舞台をみたなら、あとは、何回でも、キセキトワの演技をみたいのよ。これこそが、人に感動を与えて、人を幸せにするエンターテイメントなんだわ。
百合たちは、感動した気持ちも覚めやらないまま、席を立った。
そして、その数日後、水曜日、その日も、黎明劇場には、業界の有名人の多くが鑑賞していた。この日は、1週間の唯一の休日の前日、その日の最後の回が終わると、キセキトワは、控え室で帰り支度をしていた。
すると、帰る寸前で、ドアをノックする音がした。
あら、もう観客も帰ったはずなのに、スタッフの人かしら。
「はい、どうぞ。」
そして、ドアを開けて、入ってきた3人の人たち、
「はじめまして。お疲れのところ、遅くにすみません。少しだけお時間よろしいですか。」
「はい。それでは、すみませんが、もう私、帰るところなので、手短かにお願いします。」
「そうですよね。この大変な舞台を、3ヶ月主演で、それも、あのようなすばらしい舞台を演じられて、私たちは、感動で言葉もありません。
そこで、
実は、私は、「未来映画」株式会社、社長の詩根舞子、そして、こちらは、映画監督の本松天都監督、そして、その隣りは、脚本家の飯本角代です。宜しくお願いいたします。
今回、あなたのうわさを伺ったのですが、この「黎明劇場」の舞台の主演女優が倒れて、代役をたてると聞いて、「黎明劇場」の舞台で代役だなんて、おまけに、あの大御所女優の美貌野美津子の代役が素人だなんて、とんでもないことが起こっていると。
しかし、その初日の前日の舞台稽古を観た関係者から、とにかく観てくれと言われて、今日やっと、この3人で鑑賞しました。
その感想はというと、率直に言って、本当に、もうすばらしすぎて、言葉がなかったです。
それで、今、「未来映画」では、100周年記念作品を企画していて、その主演女優のオーディションをやる予定だったんですが、この舞台のうわさを聞いて、とりあえずオーディションを延期していたんです。もちろん、舞台のあなたを観てからにしようと思っていました。
それで、さっき見終わって、3人とも、ぜひあなたに、私共の作品に出て頂こうと決めたのです。どうかお願いしたい。」
「わかりました。ただ、まだ、この舞台も、しばらくあるので、公演があと1ヶ月で終わりましたら、その作品の脚本をぜひ見せて頂きたいです。とりあえず、前向きに検討させてもらいますわ。またご連絡をお待ちしております。」
すると、3人とも、笑顔になって、とにかく喜びを隠せなかった。詩根舞子は、ほっとした表情になり、
「こちらこそ、ありがとうございます。キセキトワさん、あなたとご縁があって、本当によかったです。100周年作品は、絶対に、いい作品になるわ。」
その後、1ヶ月間も記録的な動員数で、3ヶ月間のトータルでは、「黎明劇場」始まって以来の動員数を記録した。そして、「エメラルダ女王」は、国内劇場最多動員者賞を受賞した。しかも、これは、新人が主演で受賞したのも、初めてであった。




