11-9 謎の天才女優、現る⑨
幕が完全に開いて、舞台中央に、10代の少女が部屋にいた。そこに連絡が入る。国王が、亡くなったのだ。
すると、麗子が小声で言った。
「百合さん、今、わかった?舞台が始まったと同時に、劇の世界観が、現実化したように、自分たち観客とが一体化したわね。ねえ、これって、ひょっとして、、、。」
「そう。たしかに、私も【秘技 同調世界】だと思ったのよ。でもね、麗子、これは、似て非なるものよ。たしかに、その舞台の世界に、観客たちを一体化させているのだけれど、その入り込んだ世界をよくみてご覧なさい。私たちがしかけている【秘技 同調世界】は、いわゆるヒプノ系のものよね。あなたに、以前、最強の百合を倒す際に教えていたように、ヒプノ系、つまり、ヒプノシス、催眠術のような暗示をかけて、その世界を感じさせるものだったじゃない。だけど、あの時、あなたに教えた【秘技 同調世界】は、最強の百合1人が相手だった。だから、まだ、あなたにもギリギリ習得ができたのよ。それに、とても狭いひと部屋の中を再現してみせるものだった。
それに、その世界は、その存在感が、そこまで深くはなくて、希薄だったのよ。たとえばね、この舞台ではね、これだけの大人数を相手にして、それをすべて感じさせるのは、ありえないことなのよ。それに、私たちは、この物語に、そこまで関係ないものが私たちの回りにもあるわよね。それは、たとえば、後ろにある壁の奥とか、舞台から外れている位置にあるもの、それをよくみてご覧なさい。」
すると、麗子は、あまりの驚きに、一瞬、言葉が詰まった。
「ああ、これは、どういうこと!」
麗子が、舞台の隅にある、壁の扉の向こうを見ると、その隣りの部屋がみえたのである。
「麗子、わかったようね。その扉は、キセキトワが行なっているのは、本当に存在しているかのように、そこまで五感を深くコントロールされているのよ。私たちの【秘技 同調世界】で入り込む世界では、操作されているのは、表面的な視覚だけだから、あの扉の向こうは見えないわ。物語と直接関連しないものは、はっきりと見えてこないのよ。私たちは、物語に関係ないものまで視覚化しようとは思わないし、視聴している人も、物語とは関係ない部分に気持ちをそらすこともない。だけど、キセキトワが、私たちと一体化させた、この世界観は、五感を、さらに深く、さらに完璧に機能しているまでも感じさせているというわけね。恐るべしだわ、キセキトワ。」
「だけど、百合さん。実際に、ここで物語の中に入り込んだとしても、物語と関係ない方には、行かないし、そちらの方も見るわけでもないでしょ。だったら、【秘技 同調世界】で充分じゃない。」
「そう思うでしょ。だけどね、同じ映画の中で、その両方の秘技を体験したら、映画自体の質の違いを歴然として感じると思うわよ。それから、今回の場合は、舞台だから、その舞台の作り物をさらにリアルな本物感をだすことにまで、その暗示が深くなっているのよ。」
「そんな細かいところまで、、、。」
「でも、それは、自身のことだけでなくて、作品そのものの質を高めたいという、キセキトワの凄さなんだと思うわ。それに、今、感じたのは、これは、秘技とかそういうのではない、キセキトワの演技そのものなんだわ。素直に、そういう演技からの暗示をさせて、よりリアルな世界を見せているのよ。」




