11-4 謎の天才女優、現る④
舞台監督は、唖然とした。
なんてことだ。2時間30分もの中で、主役のエメラルダ女王なんだぞ。ほとんど出ているというのに、ただセリフを覚えるだけでも、相当に大変なことだ。それに、タイミングも難しいセリフもたくさんあるというのに、なぜ一度ビデオを見ただけで、大丈夫だと言うのか。
そして、次の日、キセキトワは、その他のキャスト100人と顔合わせをした。
すると、舞台監督から、
「こちらは、美貌野美津子さんの代役を務めるキセキトワさんだ。とりあえず、これからの通し稽古を一緒にやって、頑張って行こう。」
すると、皆、口々に言っている。
あれが、エメラルダ女王の代役だって。まだ、20才過ぎくらいじゃないか。有名な代役屋か何か知らないけど、無理に決まっている。我々を馬鹿にしているな。
すると、舞台監督は、キセキトワに隠れて、改めてキャストたちに話しをした。
「いいか、皆、ちょっと聞いてくれ。実は、昨日、あの代役屋が来たので、テストでセリフを言わせてみたが、意外にもけっこう線いっていたのは、確かなんだが、ところが、、。」
話しは、昨晩のこと。皆が帰る頃、舞台監督、演出家、脚本家の3人は、集まって、キセキトワのセリフのテストが意外にも、高評価だったので、万が一のことを考えて、とりあえず代役を決めたまま、各方面へ手配をしていた。
すると、その時、黎明劇場の本部から連絡が入り、代役に、美辞麗子が今、スケジュール調整中だという。明日の正午までには、確実に決定する予定という。
それを知った3人は、急死に一生を得たような驚きで、まさに脱力状態になった。それなら、代役屋を辞めさせて、美辞麗子で決まりだと、3人の意見は一致した。美辞麗子は、美貌野美津子には、及ばないが、美辞麗子だったら、充分に代役を果たしてくれるに違いないと、昨夜のうちに、代役問題は、無事に解決した。
すると、舞台監督から、
「これで、代役屋を断わることになったから、私から、連絡してこよう。」
ところが、演出家から、
「ちょっと待ってくれ。今回の舞台は、せっかく、これだけベストメンバーを集めてきたというのに、あの代役屋は、自分の方が演技が上手いとか言ってたな。たしかに、予想以上の演技力かとは思ったが、このまま、すんなりやめさせるわけにはいかない。明日、朝から通し稽古だろ。だったら、そのまま、やってもらったら、いいじゃないか。」
「それじゃあ、一応、可能性を見てみるというのかい。美辞麗子に決まりだというのに。」
「いやいや、そうじゃないさ。この舞台は、始まったら、まず、国王が亡くなるだろう。そして、娘は悲しみの中で、国王の後を継いで国の復興を国民に誓うという、とても大事なシーンがあるじゃないか。それも、国王の父親に対する愛情をこめながら、国民に演説するシーン。」
「ああ、そういえば、あのシーンは、かなり難しいシーンだな。たしか、あの美貌野美津子もかなり手こずった難しいシーンだ。」
「そうだ。だから、あの代役屋に、あのシーンを朝1番でやらせるのさ。それで、皆で、クレームをつけて、恥をかかせてからやめさせてやる。そうすれば、2度と代役屋もできなくなるだろう。昨日、あんな口をたたかれて、このまま、ただやめさせるのは、悔しい。恥をかかせてからだ。」
ということで、キャスト全員にも、それを伝えて、演説が済んだら、皆、全員でクレームを入れるという筋書きで打ち合わせができたのであった。




