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51話 〈ゆるく迫られる決断〉
「思い出せない……思い出せないの! 私が誰なのか、生前の管理人さんとの会話も!」
何も頭に浮かばない。あるのはマンションとの日々だけだった。
「管理人さんはよくいなくなるし、私は、防犯カメラを見てるから」
「ユルカ……」
るるみはしゃがみこんで、とジェスチャーした。言われる通りに腰を下ろし、耳をかす。
「倉庫室の書類にすべて書いてあるよ。明日、特別にね。マスターキーは三輪車のハンドルの中」
「なん……」
「許鹿。また来るけど、一緒に記憶を戻す方法も考えよう。そうしたらマンションから解放される、と思うし……」
シンリュウが受け付け越しに静かに言った。
「マンションから……?」
(私は外に出たらどうなっちゃうの? 幽霊になるの?)
不安がジワジワと胸に広がる。そんな様子もつゆ知らず、彼女はスタスタと出ていった。
「強引なお友だちねえ。あの子」
「少し怖かったです……私は本当にあの人と友人だったんでしょうか」
「焦っているだけかもしれないわ。私だって友だちが様変わりしていたらびっくりしちゃうもの」
広田は苦笑し、そろそろ帰るわね、と階段を登っていった。
「るるみちゃん、ありがとうね」
るるみは頷くと三輪車を漕いで、外へ消えていく。いつものロビーの空気に包まれ、内心ホッとした。





