48話 〈大きな沼があったとさ〉
「貴方が八和田さん?」
階段から広田が音もなく降りてきて、ユルカは半ばホッとした。普段から話している人物が現れると心強い。
「……妖怪? ろくでもない気配がする。アンタ、何者?」
しかしシンリュウは警戒心を高めたようで、双方静かに睨み合った。
「私は広田 晴子。このマンションの住人だけど」
「そう。るるみとはまた異なる気配がするわ。許鹿に何かしてないでしょうね」
「あら、ユルカちゃんと知り合い? ……まあ、いいわ。その日記見つけちゃったのね」
ユルカは「あ、あーまあ」としょぼくれるしかなかった。
「ここはね、昔旅館があったでしょ? そのもっと前は湿地帯だったの。田んぼにもしないで村の人は恐れていた、怖い荒神が住むという大きな沼があったのよ」
「へー、知りませんでした。沼って怖い神さまが住むもんなんですね」
「許鹿……本当に何もかも忘れているみたいね」
シンリュウに呆れられ、困惑する。
「博識な贄は厄介だもの。それに本人もツライだけよ」
「贄?!」
「そうよ、この池――沼は贄が必要だったのよ」
丹君旅館には池があった。旅館は添え物で池が本体のようなものだった。
池はかつてさらに巨大な沼だった。沼には荒神が住み、何年かに一度……悪さを起こし、贄を欲しがる。そう言い伝えられ、酒に酔わした村人を沼に沈め捧げていた。
そうするとピタリと状況は良くなる。
沼に住むものが何なのかは分からないが、とにかく末恐ろしい。鬼か、大蛇か、それとも神か。
この村はそうやって過ごしてきた。
こういう話、良くありますが不思議ですよね。
闇が深そうですが。




