46話 〈マンションにシンリュウ現る〉
「――許鹿!」
いきなりマンションへ来たかと思えば、見知らぬ女性は受けつけへ突進してきた。
「あ、えっとどちらさま、ですか? 確かに私はユルカですが」
「覚えていないの? シンリュウよ」
「えっ」
噂でしか聞いた事がない、シンリュウという名前。ユルカは驚いたがそれ以上の記憶はわかなかった。
「ごめんなさい。知りません……あの夜間の訪問は」
「夜間? 外は昼なんだよ、許鹿。マンションに囚われていちゃだめ。思い出して」
「え〜〜」
思い出してといわれましても。とりあえず仕事をしなければならないので、受付表を取り出した。
「ここに名前と時刻を」
「許鹿! 目を覚ましてよ、どうしちゃったの? 全然、私の知っている貴方じゃない!」
「あ、あー、騒がないで」
困ったものだ、と頭を掻いているとシンリュウの後ろにるるみが佇んでいた。
「るるみちゃん」
「るるみが連れてきた。だから許してあげて」
るるみは古錆びた三輪車をひいて、ロビーに入っていった。キコキコと耳障りな音がして夜に嫌に響く。
(外は昼なんだっけ。でも私には真夜中にしか見えないんだけど)
「るるみちゃん、シンリュウさんを知っているの?」
「この人は何回もるるみとお話ししたの。だから知ってるし、変な人じゃないよ」
「そ、そう」
気の強そうな女性はこちらを眺め、ため息をついた。
「本当に何もかも忘れているのね……」
「まあ、……でも私は外から来て記憶喪失になった、くらいは分かってきてて」
「ユルカ。藤野の日記を見たの」
るるみが意外な言葉を尋ねてきた。「え、知ってるの?!」
「藤野の日記って? 見せてよ」
「い、いやー……外部の人に見せるのは」
睨まれて、有無を言わせぬ覇気に渋々ロッカーに向かうしかなった。
ゴーイングマイウェイなるるみちゃん。




