45話 〈こんがらがった時空〉
手記を書いた男性が来たのが飛入市に来たのは昭和59年。火事が起きた年だ。
スプリンクラーが設置されたのは昭和49年。それから苦情が来て、とめてしまった。長らく平生は続いたのかもしれない。
藤野が調べ出した情報によれば丹君旅館ができたのは江戸時代の安政。それから日本では大正9年以来、ビジネスホテルができたらしく……今のビジネスホテルとは多少異なるが、いや。
(え? マンションの前にここってビジネスホテルだったの?)
藤野の手記にはビジネスホテルで火事が起きた、とも、書かれている。
――……加えて焼死した客などの叫びなどが夜な夜な響き渡った。それは街の人々にも聞こえ、苦情がくるしまつだったという。これでは、とマンションのオーナーは他県から神職を呼び、お祓いしてもらった記録も倉庫に残されていた。
(どういう事? 火事が起きたから、藤野さんはスプリンクラーや火災報知器が作動してたか見に来てたんだよね?)
よくよく考えれば現場検証なら分かるが、藤野は警察官や検視官もなさそうだ。なら普通にマンションを見に来たのだろう。
なのに、火事が起きた現場と誤認している?
記憶が混乱しているのだろうか。
(私も、記憶喪失になったのは外から来たから? 私はいつ、どの時代にこの建物に来たの)
マンションか、旅館か、ビジネスホテルか。
手汗がにじみ出て手記を自分のロッカーにしまい込んだ。




