40話 〈知らないほうがいい時〉
「自分が死んでたなんて、信じられないなー。でも幽霊って足がなかったりするんじゃないの」
ユルカは独り、ぼんやりと駐車場の掃除をしていた。影があり、足もある。
幽霊とはそこまで人に近しいのか。
「うーん。記憶が蘇ったらなあ」
キコキコ、と錆びついた車輪の音がして振り向くと三輪車がポツンと置かれている。見慣れたものだ。
「記憶なんていいもの、ない」
子供が横にいて静かに呟いた。あの、恐怖体験をした際に現れた女の子。
「何も知らない方が幸せな時だってあるよ」
「貴方は……本当に――」
「るるみ」
「るるみ、ちゃん。貴方が三輪車の持ち主だったのよね」
頷き、彼女は街を指さした。変哲もない街。そこはいつもシンと静まり返っている。
「私たちはずっとここにいるの。だから、同じ風景を見ても違和感すら感じない」
「同じ風景なの?!」
「貴方は知らないの? 建物も木だってある日突然消えちゃうんだよ。このマンションの住人たちみたいに、いきなり死んじゃうんだよ」
虚ろな目で彼女は言った。
「……このマンションに何があったか教えてくれる?」
るるみはまた静かに頷いた。
──7階に可燃物は持ち込まない。また火元になるような物は絶対に持ち込んではならない。
火の取り扱いの厳重さは管理人からきつく言われていた。夜中に火災警報器が鳴ったら何がなんでもかけつけろ。
このマンションはなぜだか火に対して敏感だ。
「このマンションはね。昔、火事でたくさんの人が死んだんだって」




