39話 〈ユルカ 困惑する〉
「街? そういえば貴方、マンションから出た事なかったわね」
深夜に帰ってきたOLの住人ははて、と首を傾げた。
「なーんにもないフツーの街よ」
「フツーとは……私はフツーを知らないんですよ……」
「そうね、電車はあるし、スーパーもあるし……あとはうーん。住宅地ね」
「スーパー! 行ってみたいです!」
ユルカは目新しい単語のあまり、席を立ってしまった。
「……。いやいや、ユルカちゃんは難しいんじゃないかしら」
それに対し広田は難色を示し、どうしたものかと口を閉じようとする。
「ええっ、なんでですか?」
「色々よ。色々」
「……えー」
「私たちは……死んでいるからです」
いきなり気配もなく現れたのは蒼南樹だった。腕には壊れた防犯カメラを抱えている。
「え、あ、あのーまたやらかしたんですかー。というか、死んでるって」
「薄々気づいてたんじゃないの? 貴方、今までどうやって生活してきたわけ」
「い、いやいや……、皆さんいきなり何を言い出すんですかっ」
脳裏に倉庫でみた資料や恐怖体験がよぎる。摩訶不思議な幼女や、管理人のおびえた姿。だが自分自身は確かに生きていて、こうして会話して……脂汗がにじみ、二人を見た。
「ソナタちゃんに根負けしてね。貴方の素性を知ったの。真流さん、という人が貴方を探してる」
「え、えー、広田さんまで。……そのシンリュウさんは、私を知っていてどうしたいんですか?」
ソナタが神妙に小さい声で言った。
「ヒアアフターから解放してあげたい、って。ユルカさんは、7階を鎮めるために犠牲になったんだ……と、聞きました。だから」
「あー、え、えーっと、ちょっと整理させて」
椅子に座り、うーん、と唸る。シンリュウという人の人相も全く思い出せないし、以前の己がなぜマンションへ足を踏み入れたかも分からない。
だがまずは。
「不自然な点を探していこうと思う。今まで気付かなかった所を一つ一つ」
「ユルカさん!」
ソナタが防犯カメラを床に落としてしまった。
「あ、それ、器物破損だからね……」




