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銀龍の風⑥

「それでは、お二人の自己紹介もお願い出来ますか」


 ミリアがチャミナと少年へ視線を向ける。


「ついでに一発ギャグも交えて」


 スパーン!


「痛ぁ!?」


 セネトの頭に、ミリアの手刀が落ちた。


「余計なことを言わない」


「理不尽!」


「では、お名前と自己アピールをどうぞ」


「あっ! はい!」


 チャミナが元気よく手を挙げる。


「チャミナって言います!」


「田舎では猪とか鹿とか狩ってました!」


「弓の扱いと、森を歩くのには自信がありますよ!」


「おっぱいもデカいしね」


 ズブッ。


「…………」


 セネトの両目に、ミリアの指が突き刺さった。


「ぐおおおおおおお!?」


「自己紹介に必要ありません」


「いやでも重要な自己アピール――」


「必要ありません」


「はい……」


 セネトが両目を押さえてうずくまる。


「それでは、そちらの少年も」


「あっ、はい」


 少年が姿勢を正す。


「ニージェと申します。年は十一歳」



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 透き通る白い肌。


 銀色の短髪。


 先ほどまで鼻提灯を膨らませて眠っていたとは思えないほど、今度は真面目な顔をしている。


「職業は☆☆の上級剣士」


「まだまだ若輩者ではありますが、心は負けていないと自負しています」


「それと……」


 ニージェが少しだけ言い淀む。


「その呼び方なんですが……」


「うっ……ぐおおお……」


「……?」


 部屋の中に、低いうめき声が響いた。


「ぐぅ……!」


「はらが……!」


「はらがいてぇぇぇぇぇ!」


「あ」


 チャミナが振り返る。


 先ほどミリアに蹴り飛ばされ、そのまま床に転がっていた格闘王が、ようやく目を覚ましたらしい。


「起きた……」


「やかましいなー、もう」


 セネトが立ち上がる。


 ブスッ!


「ぐあぁぁぁぁぁ!」


 何かをした。


「躊躇なく刺しおったーー!?」


 チャミナが叫ぶ。


「ぐおおおぉぉぉ!!!」


 格闘王が身体をのけぞらせる。


「体が! 体がぁぁぁぁぁ!!!!」


「いや何したの!?」


「めっちゃ叫んでるけど!」


「ぐおおおおおおお!!!」


「体がぁぁぁぁぁ!!!」


「だから何!?」


「――治ったーーーーーーー!!!!!」


「治っても五月蝿い!」


「ええ!?」


 格闘王が自分の身体をペタペタと触る。


「痛くねぇ!」


「腹も痛くねぇ!」


「スゲェ! 完全に治ってやがる!」


「よかったねー」


「何者なんですか、あなた……」


 チャミナはもう驚く気力すらなくなりつつあった。


「待って下さい!」


 その時。


 ニージェが勢いよく立ち上がった。


「彼の身体に何があったか、ボクが答えを出します!」


「いや、治ったって言ってるんだよ」


「答え出てるよ」


「つまり……」


「だからもういいって」


 ニージェは真剣な表情で周囲を見回す。


「この中に、何か秘密があるはずです!」


「ないよ」


「必ずあります!」


「ないって」


「そう……」


 ニージェが腰の刀へ手を伸ばす。


「ここだ――!!!!!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「セネトさーーーーん!!!?」


 ズバッ!


 セネトがまた吹っ飛んだ。


「なんで!?」


「なんで切りかかったの!?」


「おそらく違法な薬物の使用!」


 ニージェが剣を構える。


「見過ごすことは出来ません!」


「おそらくで命を狙うな!」


「証拠はあります!」


「何を根拠に!?」


「さっき『ヤクを決める』と言っていました!」


「それはオレだけど!」


「やはり!」


「やはりじゃねぇよ!」


「つまり――」


 ニージェがさらに踏み込もうとした、その瞬間。


「……」


 ミリアの腕が、少年の首へ回った。


「むが」


「……」


「むがむがむがむがむがむがむがむがむがむが!」


「ニージェくーーーん!!」


 ミリアが無言でヘッドロックを決める。


「…………」


 ニージェの足が、じたばたと宙を掻く。


「……」


「むが……」


「……」


「むが……」


「……」


「…………」


 やがて。


 ぐったり。


「…」チーン


「ニージェくーーーん!!」


 チャミナの悲鳴が響く。


 その光景を。


 床に座り込んだ格闘王は、呆然と眺めていた。


「…………」


 ☆三。


 格闘王。


 バトルマスター。


 これでも自分は、そこそこ名の知れた冒険者だ。


 なのに。


 このギルドに来てからというもの。


 受付嬢には一撃で沈められ。


 ギルドマスターには勝手に薬物使用を疑われ。


 十一歳の少年は、突然剣を振り回している。


「…………」


 格闘王は、静かに立ち上がった。


「帰りてぇ……」


 心の底から。


 そう思った。


 しかし。


 このまま帰ったのでは、バトルマスターの名折れ。


 何としてでも。


 何としてでも、こいつらに自分を認めさせてやる。


「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!」


「うわっ!?」


 突然の大声に、チャミナが肩を跳ねさせる。


「合格者のこいつも沈められてるじゃねぇか!」


 格闘王が床に転がるニージェを指差す。


「これじゃ審査基準に筋が通ってねぇんじゃないかよぉ!?」


「……」


 セネトが少し考える。


「意外と頭回るぞこいつ」


「んー?」


 セネトが首を傾げる。


「でもこういうのは実力よりもインスピレーションだからぁー」


「インスピレーション!?」


「それに君は他のところでもやっていけるよ。実力的に」


「そういうことじゃぁぁぁ! ねぇんだよぉぉぉう!」


 格闘王が拳を握り締める。


「こいつら以下と思われてることが許せねぇんだよぉぉぉぉ!!!」


「えー……」


 セネトが困ったように頭を掻く。


「じゃあ、どうすれば納得するの?」


「タイマン張らせろやぁ!」


 格闘王がチャミナを指差す。


「そんで勝ったら、俺をギルドに入れやがれぇ!!!」


「審査内容はそちらが決めることではありませ――」


「いいよー」


「ええっ!?」


 ミリアの言葉を遮ったセネト。


 チャミナは思わずセネトの方へ振り向いた。


「ちょっと!?」


「但し、条件がある」


 セネトはニコニコしながら格闘王を見る。


「勝負は三日後」


「三日後だぁ?」


「このチャミナとのタイマンなら、受けて立とう」


「はぁ!?」


 チャミナの声が裏返る。


「そこで勝ったほうを、このギルドの新メンバーにしよう。」


「へぇ……」


 格闘王の口元が吊り上がる。


「大した自信じゃねぇかよぉ……」


「いやいやいやいや!」


 チャミナが慌ててセネトへ詰め寄る。


「私、何も言ってませんけどぉ!」


「さっき気を失ってる時に」


 セネトが悪戯気味に口を挟む。


「『あんな木偶の坊、私なら一瞬で消しカスに出来ますけど』って言ってましたよ」


「言ってねーーー!!!」


「待って下さい!」


 ニージェがむくりと起き上がる。


「言ってたかどうか、ボクの頭脳で――」


「お前は気絶してろ!」


「ぐはぁ!」


 首筋にチャミナの手刀が落ちた。


「……」


 格闘王は、そんなやり取りを見ながら拳を鳴らす。


「クックック……」


 そして。


「三日後が楽しみだなぁ……」


 チャミナを見下ろし、ニヤリと笑う。


「ズタボロにして、ひん剥いて田舎に送り返してやるからなぁ!」


「ひん剥く必要ある!?」


「精々首洗って待っとけ!!」


 そう吐き捨てると、大男はギルドの出口へ向かって歩き出す。


 そして、そのままギルドを出ていった。


「アッハッハ!」


 セネトが腹を抱える。


「とんでもないことになったねー」


「笑い事じゃねー!!!」


 チャミナが叫ぶ。


「一回しばき倒すぞ!」


「無駄です」


 ミリアが即答する。


「何回しばき倒されても懲りませんから」


「経験者は語る!?」


「まー、三日後ならへーきへーき」


 セネトは気楽な様子で手を振る。


「とりあえず、やるべきことは――」


 その時だった。


 バァンッ!!


 ギルドの入り口が勢いよく開いた。


「マスターーーーーーーーッ!!!!!」


「ぐぼぉぉぉぉぉ!!!!!」


 何かがものすごい勢いで飛び込んできた。


「敵襲ですか!?」


 ニージェが即座に刀を抜く。


「いや、そうかも知れないけど……」


 チャミナが困ったように言う。


「刀を構えるのは確認してからにしよ?」


「クエスト行ってきたよーーー!!!」


 飛び込んできた何か――いや、少女がセネトへ飛びつく。


「誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めて! 誉めてぇぇぇぇぇ!!!!!」


「アッハッハ!」


 セネトが少女の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「頭擦りつけるの止めようかー」


「もっとー!」


「そろそろ発火するからー」


(ちょっと煙出てる!?)


「おかえりなさい、フェルメンさん」


 ミリアが微笑む。


「えっ?」


 チャミナは、目の前の光景を眺める。


 セネトに抱きつき。


 頭を撫でてもらい。


 褒めてもらおうと全力で甘えている少女。


「……あれ」


 チャミナがミリアを見る。


「同僚?」


「はい。ギルドメンバーですよ」


「…………」


 チャミナは、またしても頭を抱えた。


(このギルド……)


(まともな人、いないのかな……)


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