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銀龍の風⑤

「よーし、それじゃー新入りを交えて歓迎会と行こうかー」


 セネトが、ぱん、と手を叩いた。


「まだ誰もクエストから帰ってきてません」


「えっ? マジで?」


 ミリアが淡々と返す。


「だったらなんでこの人ここに居るんですか」


「オレが一人でクエスト行ったら二分で死ぬよ?」


「それはなんとなく判りますね」


「ハッハッハ、不敬~」


「んがっ……んんん……」


「?」


 そこでチャミナは、部屋の隅から聞こえてきた妙な声に気づいた。


 見れば、先ほどからずっと眠り続けていた銀色の髪の少年が、もぞもぞと身体を動かしている。


「んん……」


 ぷくぅ。


 鼻から膨らんだ小さな気泡が、ゆっくりと大きくなっていく。


「……」


 ぷくぅ……。


「……」


 ぷくぅ……。


 そして――。


 ぱちんっ!


「敵襲ですか!?」


 少年が勢いよく飛び起きた。


「いや、君の鼻提灯が破裂しただけ……」


「ブハハハハハハハ!!!」


「なんで笑ってるの!?」


 セネトが腹を抱えて笑い始める。


「この人のツボがわかんねー!!」


「いやー……こんなに笑ったのいつぶりだろ……」


「さっきぶりだろ」


「粗略~」


 そんな二人のやり取りを、少年は不思議そうに眺める。


「あれ……」


 そして、ようやく周囲を見回した。


「さっきまで人が沢山居たのに……」


「あー、それはね」


「待って下さい!」


 セネトが説明しようとした瞬間、少年が片手を突き出して制止する。


「ここは自分で考えて当ててみせます!」


「え?」


 少年はもう片方の手を額に当てた。


 そして、目を閉じる。


「今日は試験日……」


 ぶつぶつ。


「受験者は大勢いた……」


 ぶつぶつ。


「しかし……残されているのは四人……」


 ぶつぶつ。


「そして、この異様な静けさ……」


 チャミナは、なんとも言えない顔で少年を見つめる。


「……」


 少年はさらに深く考え込む。


「先ほどまであれほど人がいたというのに……」


「……」


「いつの間にか、四人だけ……」


「……」


「そうか……」


 少年の目がカッと見開かれた。


「そういうことでしたか……!」


「いや、違――」


 ミリアが口を挟もうとする。


 だが、遅かった。


「先手必勝!」


「え?」


 少年の姿が、掻き消える。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」


 次の瞬間。


 セネトが吹っ飛んだ。


「なんで!!!?」


「そして避けろよ!」


 チャミアが思わず叫ぶ。


「生き残った一人が合格……!」


 少年は剣を構えたまま、真剣な表情で呟く。


「そういうことですよね?」


「思考の迷路に迷い込んだが故の悲劇!」


「なるほど……!」


「納得するな!」


 チャミナは思わず頭を抱えた。


(なんなの、この人たち……)


 今日一日で何度目になるのか分からない。


 もう、まともな人間が自分しかいないような気がしてきた。


 ……いや。


 たぶん、それも違う。


「待て待て待て! オレを斬る理由になってないだろ!?」


「生き残るためには仕方がありません!」


「いや全然仕方なくないよ!?」


「安心してください! 命までは取りません!」


「安心できねぇよ!!」


「そもそも君、さっきまで寝てましたよね?」


「それは……!」


 少年がぴたりと止まる。


「……」


「……」


「…………」


「……寝てましたね」


「はい」


「寝てました!」


「認めた!?」


 チャミナのツッコミが、ギルド内に響き渡った。


「うー……」


 セネトが頭を抱える。


「こうなったらヤク決めるしかないよぉ……」


「なんか危ないこと言い出した!」


「大丈夫大丈夫、まだ合法なやつだから」


「近々法で規制される示唆!」


「いやいや、そんな物騒な話じゃないって」


 セネトがへらへらと笑う。


「ちょっと気合い入れるだけだからさー」


「それを世間では何かをキメると言わないんですか?」


「でさー……あれ?」


 セネトが周囲を見回す。


「少年は?」


「むがむがむがむがむがむがむが!」


「……」


 振り向く。


 そこには――。


 ミリアの胸元に顔面を完全に埋められた少年がいた。


 少年の頭を片腕でがっちりと抱え込み、そのままヘッドロック。


 少年は必死に両手をばたつかせている。


「むがっ! むがぁぁぁ!」


「……」


 ミリアは満面の笑みだった。


「……お痛が過ぎましたね?」


「容赦が微塵もねー!」


 チャミナが思わず叫ぶ。


「いいなー、羨まし~」


「純粋にセクハラ!」


「あとでやってあげましょうか?」


「ハッハッハ、命が惜しい」


「じゃあ今掛けられてる少年は!?」


「……」


 ミリアが腕を解く。


 ずるり。


 少年の身体が床へ崩れ落ちた。


「…」チーン


「同期ぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


 チャミナの悲鳴がギルド内に響き渡った。


「大丈夫ですか!?」


「…………」


「返事してください!」


「…………」


「死んでませんよね!?」


「……生きてますよ」


「喋った!?」


「もう少し優しくしてください……」


「すいません」


 少年はふらふらと立ち上がる。


 その顔には、先ほどまでの勢いは欠片も残っていなかった。


「……」


 ミリアをちらり。


「……」


 ミリアがにっこり。


「ひっ」


 少年が目を逸らした。


 〜それからかくかくしかじかで〜


「すいませんでした…早とちりしまして…」


「それでは、合格者のお二方」


 ミリアが何事もなかったかのように姿勢を正す。


「改めて、自己紹介と行きましょうか」


「はーい」


「まずは私からですね」


 ミリアはチャミナへ向き直った。


「私はこのギルド――『銀龍の風』の受付嬢兼、雑務を担当しております」


 胸元へ手を添え、丁寧に頭を下げる。


「ミリアと申します」


「よろしくお願いします!」


 チャミナも慌てて頭を下げる。


 そして――。


 ミリアが、隣に立つ中年の男性へ視線を向けた。


「そして、こちらが――」


「うん」


 セネトが軽く手を上げる。


「改めてよろしくね」


「えっと……」


 チャミナが首を傾げる。


 すると。


「『銀龍の風』ギルドマスターの――」


 セネトは、いつもの調子で。


「セネトだ」


「…………」


 チャミナの思考が止まった。


「まぁ、実力は見てのとおりだけどね~」


 ハッハッハ、とセネトが笑う。


「……」


 チャミナは無言で、セネトを見る。


 そして。


 ミリアを見る。


 床を見る。


 さっきまでそこに転がっていた☆三の格闘王を見る。


 そして、もう一度セネトを見る。


(…………)


(えええええええええええええええええ!?)


(この人が!?)


(この人が世界最強のギルドのギルドマスター!?)


(いや待って!?)


(実力は見てのとおりって何!?)


(この人、さっき一発殴られて吹っ飛んでたよね!?)


(めちゃくちゃ泣いてたよね!?)


(というか――)


 チャミナは、恐る恐る口を開く。


「……ギルドマスター……?」


「うん」


「……本当に?」


「本当に」


「…………」


 チャミナは頭を抱えた。


(なんでこのギルド、こんなのばっかりなのぉぉぉぉぉぉ!?)


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