銀龍の風③
「「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!!!」
「オイイイイイイイイイイイイ!!!!!」
「ちょおおおおっとばかし待ちやがれぇ!」
さっきまで黙っていた受験者たちが、一斉に騒ぎ始める。
「オレは☆☆☆の格闘王だぞ!」
「こんな☆のガキが合格で、なんでオレが落とされるんだよ!」
「そうだ! そうだ!」
「納得いかねぇぞ!」
あちこちから賛同の声が上がる。
その騒ぎを前にしても、中年の男性は特に慌てる様子もなかった。
「☆の数で、人の優劣は決まらないよ」
淡々とした声だった。
「それで納得できないなら――他に行っておくれ」
「言うじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!」
男の顔が怒りで歪む。
拳を強く握り締める。
その腕が、みしりと膨れ上がった。
「だったら優劣を教えてやるよぉ!」
床板が――鳴った。
ドンッ!!
巨体が一瞬で弾ける。
「なっ――!?」
チャミナが目を見開く。
さっきまで数歩先にいたはずの大男が、もう目の前まで迫っていた。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
振り抜かれる拳。
空気が唸る。
まともに喰らえば、骨どころか命まで持っていかれそうな一撃だった。
「危ない!」
チャミナは咄嗟に飛び出した。
「えっ!? ちょっと!?」
中年の男性が慌ててチャミナを止めようとする。
その一瞬。
ほんの一瞬だけ、男性の意識がチャミナへ逸れた。
拳が迫る。
避けるには、もう遅い。
そして――。
めしゃあ。
拳が、男性の顔面へめり込んだ。
部屋中に、鈍い音が響き渡った。
中年の男性の身体が、拳の勢いに吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
そのまま床をゴロゴロと転がり、壁際でようやく止まる。
「だ、大丈夫ですか!?」
チャミナが慌てて駆け寄った。
「あー、うん。大丈夫大丈夫」
男性は何事もなかったかのように身体を起こす。
そして――。
「いや、やっぱめちゃくちゃ痛いぃぃ……」
「めちゃくちゃ痛かったんだ!」
「痛すぎて泣きそう……」
男性の目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「いや、既に泣いてるよぉぉぉ……」
(ホントになんなんだ、この人!)
いきなり出てきたかと思ったら、ギルドの扉を壊して。
人を大量に不合格にしたかと思ったら殴られて。
挙げ句の果てにはなんか泣いている。
(全然分かんない!)
「なんで大量に不合格にしただけで殴られるんだよぉぉぉ……」
「割と自業自得だと思います!」
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!」
再び、あの怒号が響き渡る。
「こっちはなんも納得してねぇんだずぇぇ?」
格闘王が、二人へ向かってゆっくりと歩み寄ってくる。
チャミナの身体が強張った。
それでも、逃げない。
背中の矢筒から一本の矢を抜き取り、弓へ番える。
弦を引き絞る。
「それ以上近付くと……撃ちますよ」
「ハッ……」
格闘王が鼻で笑った。
「やれるもんなら……」
一歩。
大男の足が、床を踏みしめる。
ギシィッ――。
木の床が軋んだ。
次の瞬間。
「やってみやがれぇぇぇ!!!!」
ドンッ!!
大男の身体が弾けるように前へ飛び出した。
「――ッ!」
チャミナも即座に弦を放す。
ヒュンッ!
矢が一直線に飛んでいく。
「そんなもん――!」
格闘王が拳を振り上げた。
矢を叩き落とそうと、その拳が迫る。
その瞬間――。
「そこまで」
ぴたり。
大男の動きが止まった。
「――へ?」
いつの間に移動したのか。
先ほど試験官を名乗った受付嬢風の女性――ミリアが、格闘王の顔面を片手で掴んでいた。
そしてもう片方の手には――。
チャミナが放った矢。
「…………」
「…………」
「試験外での闘争は、即刻失格としますよ。両名」
ミリアは淡々と言い放った。
「いや……さっきこの人、殴られてたんですけど……」
チャミナが恐る恐る指摘する。
「それはいつものことなので」
「ええ……」
チャミナは思わず、目を丸くした。




