銀龍の風②
「生意気な口聞きやがってぇ……!」
大男が拳を鳴らす。
「オレは☆☆☆の格闘王だぜぇ!?」
「どうせ大したことないんだろ!? てめぇのクラスは幾つだよ!?」
「……☆の弓使い……」
一瞬、部屋が静まり返った。
次の瞬間。
「ブハハハハハハハハ!!!」
周囲から爆笑が巻き起こる。
「マジでただのおこちゃまじゃねぇか!」
「ここは世界最強のギルド『銀龍の風』!!」
「入隊すんのはオレみたいな高ランクのやつが相応しいのさぁ!」
「ガキは怪我しないうちにけぇんな!」
「う……うぅう~……」
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
今すぐ帰りたい。
でも――。
(ここで帰ったら……冒険者になれない!)
チャミナは涙をこらえ、震える足を踏ん張った。
「わ、私は……冒険者になりに来たんです……!」
「ほぉ~?」
「だから……帰りません!」
「言うじゃねぇか、チビィ!」
大男がさらに顔を近づけてきた、その時だった。
――ゴーン。
――ゴーン。
――ゴーン。
大きな鐘の音が、ギルド内に響き渡る。
「時間となりました」
部屋の奥から、一人の女性が姿を現した。
受付嬢風の服装をした、落ち着いた雰囲気の女性だ。
「本日、皆様の試験を担当させて頂くミリアと申します」
ミリアは一礼すると、集まった受験者たちを見渡した。
「それでは、これより試験会場へ――」
――ガンガラガッシャーン!!
「「「!?」」」
勢いよく入り口の扉が開いた。
いや。
開いたというより――吹き飛んだ。
「……あいたたた」
壊れた扉と一緒に、ひとりの中年男性が床を転がっていた。
「あー……」
男性はゆっくりと起き上がる。
「扉、壊しちゃった……」
そして、困ったように頭を掻いた。
「怒られるぅ……」
ギルド内が静まり返る。
やがて、あちこちからざわざわと声が聞こえ始めた。
(あの人も試験受けに来たのかな……?)
(っていうか、受付時間過ぎてるけど大丈夫なのかな……?)
チャミナも、男性の姿をじっと見つめた。
すると男性は、ギルド内を見渡して――
「うわっ! 何この人だかり!」
目を丸くした。
「お祭りでもあるの!?」
(違った……)
(何なんだろう、あの人……)
「……今日は入隊試験の日です」
ミリアが呆れたように言う。
「あっ」
男性は、ぽんと手を叩いた。
「そう言えば入隊試験の日か……」
「…………」
「んー……」
男性は顎に手を当てながら、部屋全体をキョロキョロと見渡した。
そして――何かを見定めたように、こちらへ歩いてくる。
チャミナの目の前で足を止めた。
「君、名前は?」
「……人に名前を尋ねるなら、先ずは自分から名乗ったらどうですか?」
言った瞬間。
周囲のざわつきが、一層大きくなった。
(えっ!?)
(なにかやっちゃった!?)
チャミナは慌てて男性の顔を見る。
すると――。
「ぶふっ!」
「……?」
「あはははははは!」
男性はいきなり腹を抱えて笑い始めた。
「あはははは! そうだね!」
笑いすぎて目尻に涙まで浮かべている。
「それは君が正しい!」
「…………」
なんなんだ、この人。
「あー……」
ひとしきり笑った男性は、目元を拭った。
「久々にこんなに笑った」
そして、何事もなかったかのように部屋を見渡す。
「さて、と」
男性はチャミナを指差した。
「弓使いの君と」
続けて、部屋の窓際を見る。
「あと、そっちの窓際で眠りこけてる君」
そこには、椅子に座ったまま気持ちよさそうに眠っている少年がいた。
「その二人以外、不合格だから帰っていいよ」
「…………」
誰も動かなかった。
「…………え?」
チャミナも固まる。
(えええええええええええええ!?)
さっきまで偉そうにしていた☆☆☆の格闘王も。
自信満々にしていた他の受験者たちも。
全員が、ぽかんと口を開けている。
(何この人!?)




