旅立ち①
セネトが。
めんどくさげに。
ボリボリと頭を掻く。
「なにか誤解があるようですが……」
そして。
「一応、理由をお尋ねしても?」
「誤解などあるものか」
統括本部長が。
吐き捨てるように言う。
「度重なる規約違反」
「そして、ギルドそのものの私物化」
「貴様は、このギルドのマスターに相応しくない」
「そう決定された」
「まっ! 待って下さい!」
バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「セネトさんが解任だなんて!」
チャミナが。
血相を変えて部屋へ転がり込んでくる。
「なにかの間違いじゃないんですか!」
「ならば」
統括本部長が。
冷たい目をチャミナへ向ける。
「この男に付いて寄せられた意見を読み上げてやろう」
「えっ」
「『銀龍の風のマスターが、メンバーに無茶な冒険をさせているのを見ました。部下が死にそうになりながら戦っているのに、笑って見ているだけのあいつに殺意が湧きます』」
「あー……」
セネトが。
頬を掻く。
(やってそう……)
チャミナも。
思わず心の中で頷いた。
「『銀龍の風のマスターが、メンバーに破廉恥な衣装を着せていました。あの扱いはあまりにも可哀想です』」
「それはヌウノさんって人が……」
(メソラシ……)
(こいつ……黙認してやがったな!?)
「『銀龍の風のマスターが、圧迫面接により大勢の希望者を脱落させているのを見ました。マスターとはいえ、明らかに越権行為です』」
「…………」
(身に覚えしかない!)
「そしてこれは、とある貴族の息子から寄せられた投書だ」
「まともな試験もせずに脱落させられた、との証言もあるぞ」
「しかも――」
「三日前に」
「あー」
セネトが。
思い出したように頷く。
「あれかー」
(やっぱ不味かったんじゃねぇか!)
チャミナの顔が引きつる。
「そしてなによりだ」
統括本部長の声が。
一段低くなる。
「貴様」
「統括本部を通さずに、ギルドの仕事を受けているな?」
「それが何か問題でも?」
「あるに決まっているだろう!」
男が。
机を叩いた。
「我々統括本部は、ギルドの仕事を一つの基準で回している!」
「貴様がそれを無視して仕事を受ければ!」
「他のギルドにどれだけの迷惑をかけるかわからんのか!」
「そもそも」
セネトが。
淡々と返す。
「ギルドが依頼を受けるのは、当然のことでしょう」
「それに、仕事の大部分は統括本部の基準と同じ報酬で受けている」
「問題はないでしょう」
「その、守らぬ一部に問題があるのだよ!」
統括本部長が。
声を荒らげる。
「ギルドの本来の仕事は金儲けだろ!それなのにわざわざ高難度の依頼を、タダ同然のような価格で受けおって!」
「どれだけの損失を生み出しているのかわからんのかぁ!」
ピリッ――。
空気が。
変わった。
さっきまで。
面倒そうにしていたセネトの周囲から。
ひりつくような気配が漂う。
「……高ランクの魔族に襲われても」
セネトが。
静かに口を開く。
「高額の依頼料が払えずに、苦しんでいる人たちもいる」
「その人たちが」
「苦心の末に集めた金を――」
「タダ同然?」
「…………」
セネトの目から。
いつもの軽さが消える。
「ギルドの本質は」
「力なきものを守るためにある」
「本質を見誤ってるのは……」
セネトが。
統括本部長を真っ直ぐ見据える。
「どっちだよ」
「な……」
統括本部長が。
一瞬、言葉を失う。
だが。
「な、何を言おうと!」
すぐに声を張り上げる。
「もう決定は覆らん!」
「新たなギルドマスターはこちらで任命させてもらう!」
「速やかに引き継ぐんだなぁ!」
「んー……」
セネトが。
顎に手を当てる。
「新しいのが来るのはいいんだけど……」
そして。
少しだけ申し訳なさそうに。
「多分……無理だと思うよ?」
「ああ?」
統括本部長が。
眉をひそめた。
Topics
ギルド統括本部
国際連盟により設置されたギルドの上位組織、通常ギルドは依頼を受けて人材を派遣する場所であるがその依頼を受ける業務の大部分をこなすのが統括本部であり、依頼主から受けた仕事をギルドに斡旋し、ギルドが冒険者を派遣するというのが現在の一般的な流れになっている、かつて数多くのギルドが乱立し、その報酬が一定ではなく法外な金額を要求したり価格競争が激化した際に冒険者への還元率が著しく低下した時代があったため有志のもとで設立された、設立当初は世界各国のギルドのバランサーとして働いていたのだが時が経つにつれ権力者たちのマネーゲームの舞台に成り下がっている
統括本部を通さずに仕事を受けるギルドもまだ存在しているがそういうギルドには仕事を回さないようにして村八分の扱いを与えたり、また統括本部に所属していないギルドを非合法として排除の意向を見せている
〜翌朝〜
チャミナ、セネト、ミリアの三人は。
船着き場へと来ていた。
「それじゃ、国外追放されてくるね」
「いや展開はやぁ!?」
チャミナが叫ぶ。
「序章でページ数食いすぎなんだと」
セネトが。
のんびり答える。
「ここらでペースアップしていかなきゃ」
「何言ってるか解んないですけど!」
チャミナが。
頭を抱える。
「多分、言っちゃダメなことですよね!」
「それじゃ」
セネトが。
ミリアへ振り返る。
「留守の間は任せるよ、ミリア」
「……おまかせください」
いつもの冷静さを保とうとしている。
だが。
その声は。
わずかに上擦っていた。
「セネトさんは……これからどうするんですか?」
チャミナが尋ねる。
「とりあえず」
セネトが。
海の向こうを見る。
「オレにしか出来ないことをするつもりだよ」
「国外の☆5のメンバーには?」
「はい」
ミリアが答える。
「連絡を一切送っていません」
「え!?」
チャミナが驚く。
「なんで!?」
「オレが解任なんて話聞いたら」
セネトが。
困ったように笑う。
「あいつら何するかわかんないからなー」
「直接話を付けに行く」
「そうしないと最悪の場合――」
「最悪……?」
チャミナが。
恐る恐る尋ねる。
「どうなるんですか?」
「人類は滅亡する」
「な、なんだってー!!!」
◇
〜帝国某所〜
「馬鹿な……ありえない……!」
「我が軍の誇る最大規模の精鋭部隊だぞ……」
帝国軍の兵士たちが。
震えている。
「総帥!」
「やつがもうそこまで!」
「十万の兵!」
「五千の鉄鋼騎!」
「三百の魔導砲!」
「それが……それが……」
総帥が。
震える声で呟く。
「たった一人に……?」
◇
〜最果ての街〜
ズズゥン……。
ズズゥン……。
「な、なんだこの地響きは!?」
「山が……山が動いている!?」
「いや、違う……!」
「あれは魔物だ!!」
ズドォォォォン!!!
街の中心へ。
巨大な魔物の身体が横たわった。
「なんだこれ……」
「仕留められている!?」
「これは……!」
「聖神竜ファルー!!!!」
「馬鹿な!!!」
「人の身では、近づくことすら許されぬ伝説の竜だぞ!?」
「一体誰が……」
◇
〜王国の城下町〜
「か、身体が治ったー!」
「見てくれよ!」
「オレなんて足も生えたぞ!」
「き、奇跡だ……!」
「奇跡の妙薬だ!」
「これで大勢の人々を救えるぞー!」
「こんな薬を大量に……」
「なんて人だ……」
◇
〜とある大富豪宅〜
ズラッ!!!!!
床一面に広がる。
名工の剣。
「鋼の剣千本」
「確かに納品したよ」
「馬鹿な!」
「まだ依頼して三日だぞ!」
「一体どんな手を使って!」
「旦那様!」
使用人が。
鼻で笑う。
「どうせまともな焼き入れも出来てないボロクズですよ!」
「この宝剣グランエルの前では」
「どんな剣だろうと同じですがねぇ!」
使用人が。
床に置かれた鋼の剣へ。
宝剣を振り下ろす。
ガキィン!!
しかし。
鋼の剣には。
傷一つ付かなかった。
真っ二つに折れたのは――
宝剣の方だった。
「ば……ばかな……」
その場に。
静寂が落ちる。
「自分の仕事に手は抜かないさ」
職人が。
淡々と告げる。
「それが大量生産品であってもね」
◇
〜とある地方の村〜
「あ、嵐じゃー!」
「嵐が来たぞー!」
「このままでは畑が……!」
「いや、それよりも村の人々が!」
空を覆い尽くす。
巨大な嵐。
荒れ狂う風が。
村を呑み込もうとしていた。
「このままじゃ……!」
「村を捨てて逃げるしか……!」
人々が。
故郷を捨てる覚悟を決めようとした。
その時。
荒れ狂う嵐の中へ。
一人の男が飛び込んだ。
「なっ!?」
「危ないぞ!!」
男が。
何かを唱える。
次の瞬間――
荒れ狂っていた雲が。
嘘のように晴れていく。
雲間から。
太陽の光が差し込んだ。
「お、おおおお……!」
「なんと神々しい……」
「これが……噂に聞く……」
村人たちが。
空を見上げる。
「銀龍の風……」




