決着
(当たった……)
チャミナの放った矢が。
ガンガの右膝を打ち抜いた。
これで。
機動力は完全に奪われた。
片膝をつき。
うなだれる格闘王を見下ろしながら。
チャミナは。
闘技台の外にいるセネトをちらりと見る。
(もう……立てもしない)
それなのに。
まだ。
戦わせるつもりなのか?
勝敗は。
誰の目から見ても明らかだった。
これ以上続けると――
「ガンガさん」
チャミナが声をかける。
「もう終わりにしましょう」
「……嘗めた口聞いてんじゃねぇぞ……」
ガンガが。
震える腕で身体を起こす。
「俺は負けられねぇ……」
ふらつきながら。
立ち上がる。
「負けるわけには……いかねぇんだよぉ!」
「……!」
立ち上がった。
だが。
その足元は覚束ない。
全身に回った毒。
荒い呼吸。
まともに立っていることすら難しい状態だ。
(これ以上は……)
チャミナが。
弓を握り直す。
(本当に……)
「うああぁ!!!」
ガンガが吠えた。
もはや。
腕すらまともに上がらない。
ならばと。
残った左足一本で地面を蹴る。
跳んだ。
「おおおおおお!!!」
空中から。
蹴りを叩き込もうとする。
だが。
大きな隙を晒したままの踏み込み。
チャミナには。
余裕を持って躱せた。
ドスンッ!
着地。
しかし。
「ぐっ……!」
ガンガが。
大きくよろける。
その隙なら。
痛む右腕でも。
何発か撃ち込める。
それほどまでに。
もう。
まともな試合にはなっていなかった。
(これでも……)
(これでも、止めないんですか……!?)
「まだ……」
ガンガが。
息を切らしながら。
「終われ……ねぇ……んだよ……」
「…………」
チャミナは。
しばらくガンガを見つめた。
そして。
闘技台の隅へと後ずさる。
(私には……)
一歩。
(この人を……)
もう一歩。
「…………」
そして。
(……ゴメンね)
心の中で。
そう呟いた。
チャミナは。
闘技台の上から。
後ろ向きに地面へ飛び降りる。
チャミナの体が宙に舞い。
そして…
ザッ!
両足が。
闘技台の外へ着地した。
「……は?」
ガンガが。
呆然と呟く。
「あー」
セネトも。
一言だけ漏らす。
「そうきたかー」
次の瞬間。
セネトが。
素早く闘技台へと身を翻した。
「この試合、狩人チャミナのリングアウトにより――」
セネトが。
高らかに宣言する。
「勝者! 格闘王ガンガ!」
「まで! 試合は終わってねぇ!」
「はいはい」
セネトが。
懐から何かを取り出す。
「解毒薬入りのエクスポーションだよ」
「使うな!」
ガンガが叫ぶ。
「彼女がそう決めたんだ」
ブスッ!
「……っ!」
セネトが。
注射器をガンガの腕へ突き刺す。
「注射タイプだからね」
そして。
「瞬時に全身に効くよ」
「っていうかセネトさん!」
チャミナが叫ぶ。
「もっと早く止めて下さいよ!」
「危ないでしょ!」
「あー」
セネトが。
何でもないように答える。
「全身に毒が回って」
「左腕使えなくなって」
「右膝壊されただけでしょ?」
「その程度で戦えなくなられちゃ、こっちが困るよ」
「…………」
(ええーー……)
チャミナは。
思わず。
引きつった顔をする。
「ほら」
セネトが。
チャミナへ手を伸ばす。
「チャミナさんも右腕見せて」
セネトが。
チャミナの右腕にポーションを塗り込む。
「他に痛むところは無い?」
「あー……背中が焦げてるくらいで……あとは平気です」
「そっか」
セネトが頷く。
「なら良かった」
「さて、と」
セネトが振り返る。
その視線の先には。
鋭い眼光で二人を睨みつけるガンガがいた。
「この試合に勝った方は、ウチに入れるって約束だったね」
「……」
ガンガは。
しばらく黙っていた。
そして。
「俺は納得してねぇぞ」
「いや、勝った側に納得されなくても」
セネトが。
困ったように頭を掻く。
「こいつが勝手に降りただけだろが!」
「俺は勝ててねぇ!」
「えー……めんど」
「もう一回やらせろ!」
ガンガが拳を握る。
「今度は完全に俺が勝つ!」
「元々、何回もやれば君の方が勝ち越す実力差だよ」
「だったら――!」
「日に何度も死闘を繰り広げさせるわけにはいかないね」
「ぐぬぬ……」
ガンガが。
悔しそうに歯を食いしばる。
「だが……!」
そして。
チャミナを指差す。
「コイツが落とされるのは納得いかねぇ!」
「落とさないよ?」
「えっ?」
「は?」
二人の声が重なる。
セネトは。
何でもないように続けた。
「勝った方をメンバーにするとは言ったけど」
「負けた方を採らないとは言ってないからね」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」
ガンガが。
盛大に叫んだ。
「と、言うわけで」
セネトが。
二人へ笑いかける。
「これからよろしくね、二人とも」
「いや!」
チャミナが叫ぶ。
「そうするつもりなら先に言っといてくださいよ!」
「あー」
セネトが。
少しだけ苦笑する。
「落とすつもりではあったからね」
「え?」
「でも」
セネトが。
二人を見る。
「いい試合されたから」
「君たちと一緒に戦いたくなった」
「…………」
チャミナが。
少しだけ目を丸くする。
隣では。
ガンガが。
まだ納得していない顔をしていた。
「そういう意味では」
セネトが。
「有意義な試合だったねー」
「あはは」
「笑うな!」
「くっ……!」
ガンガが。
拳を握り直す。
「だったらよぉ……ギルマス」
「ん?」
「お前が俺と勝負しやがれぇ!」
「なんでそうなるの!?」
「このままお情けで入れられたんじゃ気が済まねぇ!」
ガンガが。
セネトへ詰め寄る。
「俺がお前に勝てば!」
「誰にも文句は――」
「グラム」
ボゴオアァァァァァァァ!!!!!
「ギャアアアアアアア!!!!!!」
ガンガの身体が。
闘技台の上を吹き飛んでいく。
「微塵も容赦がねーーーーー!!!!」
「争いなんて……」
セネトが。
静かに呟く。
「何の意味も無いよねぇ……」
「また半魚人みたいな顔になってるーー!!」
「…………」
ガンガが。
闘技台の上で。
プス。
プス。
プス。
「エクスポーショーーーーーーーーーン!!!!!!!!」
こうして。
私のギルドの入団試験は幕を閉じた。
しかし。
この騒動は。
これから巻き起こる大事件の――
発端にしか過ぎなかったのである。
# 第一章〜世界を変える風〜
ガンガとの死闘から。
数時間後。
「ふぅー、やっと元に戻った」
セネトが。
肩をぐるぐる回す。
「ガンガさんは、まだ目を覚ましてませんけどね?」
「丸焦げになったくらいで、根性ないなー」
「セネトさんも一回焦げときます?」
「間に合ってます」
そんな話をしていると。
休憩室の扉が開いた。
「セネトさん」
入ってきたのは、ミリアだった。
「ギルドの統括本部から、お客様が来ております」
「統括本部から?」
セネトが首を傾げる。
「アポあったっけ?」
「いえ」
ミリアが少し困ったような顔をする。
「それが……とりあえず来てほしい、と」
「なんかやらかしたか……」
セネトが腕を組む。
「二十くらいしか心当たりがないぞ」
「多すぎるわ」
即答だった。
「まあいいや」
セネトは立ち上がる。
「行ってみよっか」
「はい」
そして。
二人は応接室へ向かった。
◇
応接室。
そこにはすでに。
二人の男が座っていた。
一人は。
小太りの中年男性。
もう一人は。
鋭いツリ目をした男だった。
セネトが入ってくると。
小太りの男が立ち上がる。
「銀龍の風、ギルドマスターのセネトだな」
「どうもどうも」
セネトが。
軽く頭を下げる。
「統括本部長様ともあろうお方が、こんな狭苦しいところまで遠路はるばる」
「そんな茶番はどうでもいい」
「…………」
セネトが。
少しだけ目を細める。
男は。
単刀直入に告げた。
「要件だけ伝えるぞ」
「ギルドマスター、セネト」
「貴様に対して、解任要求が多数送られてきている」
「そして――」
男が。
一枚の書類を机へ置く。
「統括本部内の決議により」
「貴様の解任が決まった」
「…………」
「今すぐに」
「このギルドから出ていってもらうぞ」




