決戦①
「はいはーい」
セネトが。
集まったギルドメンバーへ向かって手を叩く。
「見物するのはいいけど、クエスト行く人も居るんでしょー?」
「あんまり騒ぐと選手たちの迷惑になるからねー」
「横暴なのですー!」
「ミノ達にも見せろなのですー!」
「オレも暴れてぇー!」
「えー、銀龍饅頭ー!」
「銀龍ドリンクもいかがっすかー!」
「はよ出掛けろ!」
「オイオイオイオイ!」
格闘王が。
苛立ったように叫ぶ。
「まだ始まらねぇのかよ!」
「あー」
セネトが。
頭を掻く。
「ちょっと準備あるから、もうちーっと待って」
「準備だぁ!?」
「…………」
セネトとチャミナが。
少し離れた場所で顔を見合わせる。
(セネトさん!)
チャミナが。
小声で囁く。
(ヌウノさんの防具、まだ届かないんですか!?)
(さっき聞いたら、あとは仕上げだけだって)
(ヒソヒソ……)
(ヒソヒソ……)
「なぁにコソコソしてやがんだー!」
「…………」
セネトが。
ちらりと入口を見る。
(もう引き延ばすのも限界かな……)
その時だった。
ギルドのドアが。
勢いよく開かれた。
「お待たせしましたーーーー!!!」
「なんだぁ!?」
全員の視線が。
一斉に入口へ向く。
「ヌウノさん!」
そこに立っていたのは。
髪をぼさぼさにしたヌウノ。
目の下には。
濃い隈。
そして。
両手には、大きな包み。
「徹夜で……」
肩で息をしながら。
「仕上げて……」
包みを。
ズイッ。
「最高傑作が出来ましたよ……!」
チャミナの目が輝く。
「これで絶対に勝ってくださいね!」
「お、おお……!」
ヌウノは。
ふらふらしながらも笑っている。
その様子を見た格闘王が。
「……あぁん?」
眉をひそめる。
「てめぇ、ズルしようとしてんじゃねぇだろうなぁ!?」
「何が来ようが、てめぇなんざ怖くねぇけどよ!」
「まーまー」
セネトが。
二人の間に入る。
「とりあえず、どんなのかチェックだけはしとくね」
「なんでだ?」
「トラウマになったら困るからさ」
「過去に何かあったんですね?」
チャミナが真顔で尋ねる。
「ふむふむ……」
セネトが。
包みを開く。
「なるほどねー」
「どうですか!」
ヌウノが。
自信満々に胸を張る。
「防御力は言うまでもなく!」
「機動性!」
「俊敏性!」
「そして各種加護を乗せまくった自信作ですよ!」
「…………」
セネトが。
しばらく無言になる。
「どうですか! セネトさん!」
「ヌウノさん」
「はい!」
「これはね」
セネトが。
完成品を指差す。
「服じゃなくって――」
「紐って言うんだよ」
ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!
「私の女神がーーーーーーーー!!!」
「燃やした!?」
チャミナが叫ぶ。
「ちょっと待ってください!」
「なに着させようとしてたんですか!?」
「私の芸術が……!」
ヌウノが。
膝から崩れ落ちる。
「私の……最高傑作がーーー!」
その騒ぎを。
格闘王が。
呆れた顔で見ていた。
「…………」
「…………」
「……俺、今日ここに来る必要あったか?」
誰も。
答えなかった。
(燃えきらなかった部分はキノミノのあやとり紐になりました)
「人に徹夜させといてーー! 何するんですかー!!!」
ボスッ!
ボスッ!
ボスッ!
「ハッハッハー!」
ヌウノの拳を受けながら、セネトが笑う。
「そんな攻撃、致命傷にしかならんぞー?」
「ゲブぅ!」
「ガッツリ食らってる!?」
チャミナが思わず叫ぶ。
「ヌウノさん、おイタはいけませんよー」
ミリアが。
暴れるヌウノを捕まえる。
そのまま頭を抱え込み――
「むがむがむがむがむが!!!」
「いつか見た光景!!」
チャミナの叫びも虚しく。
ヌウノの抵抗が。
徐々に弱くなっていく。
そして。
ズルリ。
力なく床へ倒れ伏した。
「ヌウノさーん! 大丈夫ですか!?」
チャミナが駆け寄る。
「ふへ……」
ヌウノが。
虚ろな目で呟く。
「ふへへへへ……ミリアさんの……」
「…………」
「ふへへへへへへへへへへへ……」
「あ、大丈夫じゃないけど大丈夫そう」
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!!!!」
「いつまでオレをほったらかしにしてんだーーー!!」
「…………」
セネトが。
ゆっくり振り返る。
「あっ」
「…………」
「忘れてた」
「いい度胸だなオメェ!?」
「いやー、色々あってねー」
「色々ありすぎだろうが!」
「まあまあ」
セネトが。
パンッと手を叩く。
「あー……それじゃ時間もいい感じだし、場所を移そうか」
「最初からそうしろ!!」
セネトは。
チャミナとガンガを連れて、ギルドの奥へと進んでいく。
やがて。
三人が辿り着いたのは――
「…………」
広々とした石造りの空間だった。
中央には。
二十メートル四方ほどの巨大な石造りの闘技台。
周囲には。
観戦用のスペースまで用意されている。
「銀龍の風メンバー専用の訓練場」
セネトが。
何でもないことのように言う。
「ここで二人には戦ってもらうよ」
「ここで?」
「うん」
セネトが頷く。
「ルールは、いつもメンバーがやってる模擬戦と同じでやろうか」
「勝ったほうを、新たなギルドメンバーにする」
「……はい」
チャミナが頷く。
「そうこなくっちゃなぁ!」
ガンガが。
ニイィッと笑う。
「簡単にルール説明するね」
セネトが。
指を一本立てる。
「対戦は一対一」
「どちらかが戦闘不能になるまで行う」
その声から。
さっきまでの軽さが消える。
「降参するなら、それでもいい」
「ただし――」
セネトが。
二人を見る。
「一度始めたら、オレが止めるまで手を抜く必要はない」
「…………」
チャミナが。
ごくりと息を呑む。
「続行が無理だとオレが判断した場合は、その時点で試合を止める」
「死ぬまでやる、って意味じゃないからね」
「わかりました」
チャミナが答える。
セネトは。
今度は指を二本立てる。
「武器は一人につき二つまで」
「防具は自由」
「試合開始後の武器の交換はなし」
そして。
「道具の使用は禁止」
「回復も含めてね」
「途中で回復したら、ただの消耗戦になるだけだから」
「魔道具も?」
「全部禁止」
「…………」
チャミナが。
腰に下げた弓へ触れる。
そしてもうひとつ…。
「自分の力と、持ち込んだ武器だけで戦う」
「そういうこと」
セネトが頷く。
「そして最後に――」
セネトが。
闘技台を指差す。
「この台から出たら負け」
「…………!」
チャミナの目が。
わずかに見開かれる。
弓を使う自分にとって。
広いとはいえ、二十メートル四方。
そして相手は。
あの巨体。
近づかれたら。
逃げ切れる保証はない。
「つまり」
セネトが。
静かに言う。
「この勝負に勝った方が、銀龍の風のメンバーになれる」
「……はい」
返事が。
少しだけ震えた。
ガンガは。
そんなチャミナを見て。
口角を上げる。
「オレには、この身一つあれば十分だ!」
拳を。
強く握りしめる。
「小細工なんざ必要ねぇ!」
ドンッ!
地面を踏み鳴らす。
「とっととはじめよぉぜぇ!」
「…………」
チャミナは。
弓を握り直す。
怖い。
さっきまでとは。
何もかも違う。
これは。
ただの模擬戦じゃない。
負ければ。
銀龍の風にはいられない。
セネトが。
二人の間に立つ。
その表情から。
いつものふざけた笑みが消えていた。
「それでは――」
静まり返った訓練場に。
セネトの声が響く。
「狩人チャミナ対、格闘王ガンガ」
観客席から。
誰一人、声を上げない。
「――試合」
チャミナが。
矢を番える。
ガンガが。
拳を構える。
「始めっ!」
「――!」
その瞬間。
チャミナは。
一歩。
大きく後ろへ跳んだ。
(この人……ガンガって言うんだ……)
そんなことを。
今さら思った。




