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15/23

ヌウノさん①

 その日は。


 寮へ帰ると風呂に案内され。


 チャミナは泥のように眠りについた。


     ◆


 ――そして翌朝。


「……ん?」


 目を覚ました時。


 窓から差し込む光は。


 すでに高い位置まで昇っていた。


「…………」


 時計を見る。


「…………」


「…………」


「…………って」


「遅刻じゃないですかぁぁぁぁぁ!?」


 よほど疲れていたとはいえ。


 とんだ失態である。


 チャミナは慌てて支度を整える。


 「おー、おはよう。昨日はよく眠れたみたいだね」


 ギルドへ着くや否や。


「新人の分際で、とんだ無様を……!」


 地面に頭を擦り付けんばかりに。


 深々とひれ伏した。


「いやいや、いいよいいよー」


 セネトは。


 いつも通りの調子だった。


「今日は明日に備えて、軽めに行くつもりだったしね」


「明日……」


 チャミナが顔を上げる。


 ――そう。


 ギルドの入団試験で大騒ぎしたあの日から。


 二日。


 そして。


 格闘王との決闘の約束は、明日に迫っていた……!


「そうそう」


「なおさらのんびりしてる場合じゃないじゃないですかぁ!」


「まぁまぁ、落ち着いて」


「落ち着けるかぁ!」


 セネトは。


 そんなチャミナを眺めながら。


 指を一本立てる。


「昨日の段階では、君の勝てる可能性は限りなくゼロだった」


「…………」


「しかし!」


 今度は。


 妙に溜める。


「クエストを乗り越え、クラスライズを果たした今の君なら――なんと!」


「なんと!?」


 チャミナが食いつく。


「いくつですか!?」


「…………」


 セネトは。


 少しだけ考え。


「……一パーセントか二パーセントくらい……?」


「殺すぞ!」


「わー、情緒がどっか行ってるー」


 アハハハハ!


「笑ってる場合かぁ!」


「まぁまぁ」


 セネトが手を叩く。


「とりあえず、今日やることは二つ」


「二つ……?」


「一つ目はすぐに終わるから、今から行くよ」


 そう言って。


 セネトは部屋を出ていく。


「あっ、ちょっと待って下さいよー!」


 チャミナも慌てて後を追った。


     ◆


 セネトは。


 ギルドの受注場を抜け。


 そのまま寮の方角へ歩いていく。


「あれ?」


 チャミナが首を傾げる。


「こっちって、寮しか無いんじゃ……」


「用事があるのは、その隣だねー」


「隣?」


 寮の横。


 そこには。


 大きな建物が併設されていた。


「ここは?」


「ギルドメンバー専用の工房」


 セネトが。


 建物を見上げる。


「この工房では、ギルド内で使う色んなものが作られていてねー」


「防具やポーション、装飾品や食料まで」


「それぞれ色んな作業場に分かれてるんだ」


「…………」


 チャミナの脳裏に。


 昨日見た光景が蘇る。


 爆発する腕輪。


 止まれない飛行マント。


 魂を削る薬。


 そして。


 何でもない顔で紹介していたセネト。


「あのトンチキアイテム達が、ここで……」


「トンチキって、間違ってないけどー!」


 アハハハハ!


「笑ってる場合じゃないでしょう!」


「まぁまぁ」


 チャミナは。


 工房を見回す。


「あのグラムでしたっけ?」


「あれも、ここで作られたんですか?」


「あー」


 セネトが首を横に振る。


「いやー、あれは別物」


「今、職人が国外に出かけていてね」


「ここよりもいい環境で武器を作っては、ちょくちょく送られてきてるよ」


「国外……」


「っと」


 セネトが足を止める。


「着いたね」


「おーい!」


 工房の扉を開け。


「ヌウノさん居るー?」


「げっ」


 中から。


 露骨に嫌そうな声が返ってきた。


「何しに来たんですか、マスター」


「なんで嫌そうな顔するの」


「嫌そうではないです」


「嫌なんです」


「アハハハハ!」


 セネトが腹を抱える。


「アトリエ提供してるのに、この扱いー!」


「そういうところです」


「はぁー、もういいですよ。それで、なんの用ですか?」


 ヌウノが。


 心底うんざりした顔でセネトを見る。


「あー、それなんだけど」


 セネトは。


 チャミナの方へ振り返った。


「見てもらった方が早いかな」


「セネトさーん、もう入っていいんですかー?」


「いいよー」


「じゃ、お邪魔します」


 チャミナが。


 工房の中へと足を踏み入れる。


 その瞬間だった。


「――――」


 ヌウノの身体が。


 ビクンッ!!


 まるで全身に電撃でも走ったかのように痙攣した。


「…………」


 ヌウノは。


 チャミナを見つめる。


 じっ……。


「嘘でしょ……」


「?」


 チャミナが首を傾げる。


 次の瞬間。


「……逸材!」


 シュバッ!!


「え?」


 音すら置き去りにして。


 ヌウノがチャミナの目の前まで迫っていた。


 https://51629.mitemin.net/i1301150/


「初めましてミッシェル=ヌウヌーノっていいます!」


「えっ、あ、はい!?」


「ご趣味はなんですか!?」


「えっ!?」


「職業は!」


「えっと…」


「弓使いですね、わかります!」


「わかるんですか!?」


 ヌウノが。


 チャミナの手を両手で包み込む。


「ああ……!」


 その瞳が。


 キラキラと輝いていた。


「手を握っただけで伝わる、この感覚……!」


「な、何が!?」


「一日も欠かさず弓を鍛錬していたんですね!」


「えっ」


「無駄なく鍛えられた、その身体!」


「ちょっと待ってください!?」


「すいません!」


 ヌウノが頭を下げる。


「測っていいですか!?」


「何を!?」


「色々と!」


「何を色々と!?」


「いいですよね!?」


「いや全然――」


「測らせてもらいます!!!!」


「聞いてないですよね!?」


 言うが早いか。


 ヌウノは。


 どこからともなくメジャーを取り出した。


「えっ?」


 シュルッ。


「えっ?」


 シュルシュルッ。


「えっ、ええっ!?」


 メジャーを片手に。


 ものすごい勢いで迫ってくるヌウノ。


「大丈夫です……」


「何が!?」


「痛くしませんから……」


「何をする気なんですか!?」


「すぐ済みますから……」


「絶対ロクなことじゃないですよね!?」


 ヌウノの息が。


 次第に荒くなる。


「なぁに……くすぐったいのは最初だけですよ……」


「怖い怖い怖い!!」


「すぐ気持ちよく――」ハァハァハァハァ


「なんなのこの人ーーー!?」


 チャミナが悲鳴を上げる。


 その横で。


 セネトは。


「いやー、相変わらずだねー」


「感心してないで助けてください!!」


「まあ、腕は確かだから」


「そういう問題じゃない!!」


 セネトは。


 工房の中を見回す。


 そこには。


 大量の布。


 魔力を帯びた糸。


 色とりどりの宝石。


 そして、見たこともない形状の防具が並んでいた。


 これこそ。


 銀龍の風が誇る生産部門。


 その防具作りの中心人物。


 ミッシェル=ヌウヌーノ。


 通称――ヌウノ。


 ノーム族の若い女性。


 ユニークジョブ。


 『縫職屋』。


 星は――無い。


 それでも。


 セネトの指導を受けたことで。


 衣服や装飾品に関する技能は。


 すでに人類の限界を超えている。


 彼女が作る防具には。


 魔法耐性。


 身体能力強化。


 状態異常耐性。


 その他。


 様々な加護が施されている。


 銀龍の風のメンバーが。


 各地で無茶苦茶な戦いをしても生きて帰ってくる理由の一つ。


 それが。


 彼女の作る装備だった。


 ただし。


「チャミナさん!」


「はい!?」


「貴女には特別な衣装を用意しましょう!」


「特別?」


「ええ!」


 ヌウノが。


 満面の笑みを浮かべる。


「絶対に似合うと思うんですよ!」


「何がですか!?」


「際どいやつが!」


「なんで!?」


「女性には――」


 ヌウノが。


 胸を張る。


「ギリギリを攻める!」


「攻めなくていいです!!」


「それこそが私の至上命題です!!」


「そんな命題捨ててください!!」


「性能は保証します!」


 ちなみに。


 男性用の防具は。


 実にまともだ。


 防御性能も高い。


 デザインも普通。


 文句の付けようがない。


 女性用になると。


 何故か。


 露出が増える。


 布地が減る。


 装飾が増える。


 そして。


 性能まで上がる。


「だからー」


 セネトが。


 ヌウノを指差す。


「毎回言ってるけど、もうちょっと普通の服にしなさいって」


「嫌です」


「即答!?」


「マスターが私の芸術を理解してくれないからです」


「芸術じゃなくて防具だからね?」


「防具だからこそです」


 ヌウノが。


 ジトッとセネトを見る。


「そもそも、私のことを何度注意したと思ってるんですか?」


「五回くらい?」


「三十七回です」


「そんなに!?」


「全部覚えています」


「怖っ!」


「それでもここに残ってるのは?」


「…………」


 ヌウノが。


 少しだけ頬を膨らませる。


「そこがまた腹立つんですよねぇ……」


「なんで!?」


「私がここを出ていけない理由を、私自身が一番よく知ってるからです」


 そう言って。


 ヌウノは。


 再びチャミナへ向き直る。


「さて……」


 メジャーを。


 シャキンッ。


 伸ばした。


「採寸しましょうか」


「嫌です!!」


「絶対に似合う服を作りますから!」


「嫌です!!」


「性能も盛ります!」


「…………」


 チャミナが。


 少しだけ考える。


「……本当に?」


「はい!」


「死なない?」


「もちろん!」


「じゃあ……」


 チャミナが。


 恐る恐る。


 ヌウノへ近づく。


「…………お願いします」


「はい、喜んで!!」


 ヌウノの目が。


 ギラァッ!!


「ひぃっ!?」


「さあ、最高傑作を作りましょう!!」


「やっぱり帰りたい!!」


 セネトは。


 そんな二人を眺めながら。


「いやー、いい新人を連れてきたなー」


「セネトさん!!」


「助けてください!!」


「頑張ってねー」


「薄情者ーーーー!!」


 銀龍の風。


 工房部門。


 その第一印象は。


 最悪だった。





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