祝福
祝福
最初から分かっていた。
勝ち目なんてないことくらい。
「見て見て」
彼女がスマホを差し出す。
画面には指輪の写真。
細い指に光る銀色。
「綺麗でしょ?」
嬉しそうな笑顔。
俺はコーヒーを飲みながら頷いた。
「似合ってる」
「でしょ!」
彼女は満足そうに笑った。
その笑顔を見ながら。
胸の奥が少しだけ痛む。
美和とは会社の同期だった。
入社して七年。
飲みに行った回数も数え切れない。
相談もされた。
愚痴も聞いた。
誕生日も知っている。
好きな映画も。
好きな食べ物も。
休日の過ごし方も。
たぶん。
恋人より知っている。
でも。
俺は同期だった。
それ以上じゃなかった。
「結婚式来てね」
美和が言う。
「断ったら?」
「泣く」
「嘘つけ」
「半分本当」
笑う。
昔からそうだった。
美和は人を笑わせるのが上手い。
婚約者にも会ったことがある。
いい人だった。
優しいし。
誠実だし。
仕事もできる。
悔しいけど。
文句の付けようがなかった。
だから余計に。
何も言えなかった。
好きだ。
ずっと。
たぶん三年くらい前から。
いや。
もっと前かもしれない。
気付いた時には好きだった。
でも。
言わなかった。
言えば何か変わったかもしれない。
そう思う夜もある。
だけど。
言ったところで困らせるだけだ。
婚約者がいて。
幸せそうで。
未来が決まっている人に。
何を言うんだ。
だから。
言わなかった。
結婚式当日。
快晴だった。
空が腹立つくらい青い。
チャペル。
バージンロード。
白いドレス。
拍手。
笑顔。
綺麗だった。
本当に。
言葉が出ないくらい。
彼女は幸せそうだった。
隣の男も。
家族も。
友人も。
みんな笑っていた。
だから。
それで良かった。
披露宴。
酒を飲む。
飲まなきゃやってられない。
「泣いてる?」
隣の同期が言う。
「飲みすぎだ」
「そういうことにしとく」
ありがたい。
何も聞かないでくれる。
宴も終わりに近付く。
新婦の手紙。
両親への感謝。
会場中が泣いている。
そして最後。
退場の前。
美和がこちらを見た。
本当に一瞬だった。
目が合う。
彼女は笑った。
入社した頃から変わらない。
あの笑顔。
そして。
小さく口が動いた。
『ありがとう』
声は聞こえない。
でも分かった。
俺は笑う。
たぶん。
ちゃんと笑えたと思う。
式が終わる。
駅へ向かう。
ネクタイを緩める。
スマホが震えた。
美和からだった。
『来てくれてありがとう』
短い文章。
それだけ。
俺はしばらく画面を見つめて。
そして返信した。
『幸せになれよ』
送信。
既読はすぐ付いた。
『なる』
一言だった。
らしいなと思った。
空を見上げる。
夕暮れだった。
初めから。
叶わない恋だった。
でも。
好きになって良かったと思う。
少なくとも。
今日だけは。
そう思えた。




