表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キュンスト  作者: 元 智


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/17

招待状

招待状


 結婚式の招待状が届いたのは、ある日曜日の午後だった。


 差出人の名前を見て、俺はしばらく動けなかった。


 春香。


 元カノだった。


 別れたのは五年前。


 喧嘩したわけじゃない。


 浮気されたわけでもない。


 嫌いになったわけでもない。


 ただ。


 終わった。


 社会人になって。


 仕事が忙しくなって。


 会う時間が減って。


 連絡も減って。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 恋人じゃなくなっていった。


『好きだけじゃ駄目なんだね』


 最後に春香が言った言葉だけは覚えている。


 封筒を開く。


 白い招待状。


 結婚式のお知らせ。


 出席。


 欠席。


 ペンを持ったまま止まる。


 正直。


 行きたくなかった。


 見たくない。


 幸せそうな姿なんて。


 でも。


 行かなかったら。


 たぶん一生後悔する気もした。


 結局。


 出席に丸を付けた。


 式当日。


 春香は綺麗だった。


 悔しいくらい。


 隣には見知らぬ男。


 背が高くて。


 優しそうで。


 きっと良い奴なんだろう。


 腹立つな。


 そう思った瞬間。


 少し笑ってしまった。


 五年も前に別れた相手に何を言ってるんだ。


 披露宴。


 友人代表スピーチ。


 乾杯。


 笑い声。


 幸せそうだった。


 本当に。


 途中。


 新婦がお色直しで席を外す。


 すると。


「久しぶり」


 声がした。


 振り向く。


 春香だった。


 ドレスの裾を少し持ち上げながら立っている。


「抜け出してきたの?」


 


「少しだけ」


 昔と同じ笑顔。


「来てくれてありがとう」


「行くか迷った」


「知ってる」


「なんで」


「だって元カノだもん」


 それはそうだ。


 二人で少し笑う。


 沈黙。


 不思議と気まずくない。


「幸せ?」


 気付けば聞いていた。


 春香は少し驚いて。


 それから頷いた。


「うん」


 迷いのない返事だった。


 その一言で。


 何かが終わった気がした。


 本当に終わった。


 五年前じゃない。


 今。


 やっと。


「そっか」


「うん」


「良かった」


 春香が少し笑う。


「ありがとう」


 遠くからスタッフが呼ぶ声。


 戻らなきゃいけないらしい。


「じゃあね」


「ああ」


 春香は歩き出す。


 数歩進んで。


 振り返った。


「ねえ」


「ん?」


「私ね」


 春香は少し照れたように笑った。


「ちゃんと好きだったよ」


 心臓が止まりそうになった。


 今さら。


 本当に今さらだ。


 でも。


「知ってる」


 そう答えた。


 春香は笑った。


 そして今度こそ去っていった。


 披露宴が終わる。


 帰り道。


 空には夕焼け。


 スマホを取り出す。


 春香の連絡先。


 五年間。


 消せなかった。


 でも。


 今日なら消せる気がした。


 少しだけ迷う。


 そして削除を押した。


 確認画面。


 はい。


 タップ。


 それだけ。


 本当にそれだけだった。


 なのに。


 なぜか胸の奥が少し軽くなった。


 初恋じゃない。


 運命でもない。


 ただ。


 ちゃんと好きだった人の話。


 そして。


 ちゃんと終わった恋の話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ