太陽神と月神〜美の頂点を巡り争う〜
神様同士の迷惑過ぎる戦いは神話の醍醐味かと思います。
赫赫たる太陽神と、静かに夜空を照らす月神がいた。
太陽神は、昼の空を照らす己の燦然とした輝きを誇り、月神は、夜の空を照らす己の神秘的な美しさを誇っていた。
いつからか、太陽神と月神は、美の頂点を賭け、壮絶な争いを始めた。二人は昼夜を問わず天上に昇り、双方死力を尽くし猛烈に光り輝き続けた。
宇宙は混乱し、人は眠りを忘れ、地は硬く硬く焼き締められ、全ての作物は枯れ果てた。
しかし勝敗の明暗は定まらず、ついには武力を以て激突した。美を巡る醜悪な戦いは、永久に続くかと思われた。
怒涛の如く、嵐の如く、神と神の力がぶつかり、凄まじい剣戟が響き渡る度に、宇宙は恐怖で震え上がり、その余波は地上にまで轟いた。
無数の人々の命が散り、大地は血に染まった。印度の硬い大地に深々と刻まれた傷跡は、永遠に癒えることのない深き淵のようであった。
「お父様、 私にお任せください。私は宇宙の秩序を司る最高神シヴァ、その一人娘ニトゥラゴラクでございます。お父様の愛娘である私には、それに相応しい責任というものがございます。」
眼球の女神ニトゥラゴラクは、星々の輝きを溶かして染め上げた純白のシルクのサリーだけを纏った無防備な姿で、戦場へと降り立った。
殺戮の最中、生と死の狭間。
その中をニトゥラゴラクは悠然と歩み、今まさに刃を合わせようという二人の神の間に割って入った。
ニトゥラゴラクは堂々と神々を見据えながら衣をゆっくりと脱ぎ払い、一糸纏わぬ姿になった。
そして静謐に舞いはじめた。
純白のシルクはまるで生きているかのように、彼女の身体から分離し、二人の頬を撫でるように滑った。
シルクは軽やかに舞い上がり、円状を成し、かと思うと再び彼女と一体化した。
万物の根源となる力が彼女の身体を駆け巡り、その静かな高揚は二人の神の胸を震わせた。
太陽神と月神は、眼球の女神のあまりの美しさに、しばし呼吸を忘れた。そして二人は、自分の美しさなど取るに足らないことを悟った。
太陽神と月神は、自分の美しさを誇ることをやめた。彼らは、自分の傲慢さに恥じ入り、二人同時に剣を投げ棄てて眼球の女神に平れ伏した。
こうして長い戦いは終焉を迎え、太陽神と月神が同時に空に出ることはなくなった。
彼らは、眼球の女神の、あの鮮烈な美しさが彼らの中でありありと蘇る度、身を灼くほどの羞恥心に苛まれ、自らの愚かさに身悶えしながらその姿を隠すようになった。
日蝕と月蝕の始まりである。




