眼球の女神 聖誕の物語
太古の昔、宇宙の果てに広がる混沌の中から、一人の女神が誕生した。彼女は、最高神であるシヴァ神の第三の目から生まれ出たため、「眼球の女神」と呼ばれた。彼女は愛と美を司る女神であった。
億年の時をシヴァの眼球の中で過ごした眼球の女神は、最高神の娘の名に恥じない、世界を千度滅ぼして尚余りあるほどの凄まじい神力と、世界の全てを見通す能力をその身に宿した。眼球の女神は、神や生物や景色などはもちろん、世界の過去、現在、未来、前世や魂や罪や心、文字通り世界の全てを見通すことができた。
彼女はシヴァ神の眼球の中から外界を観て過ごし、外界への憧れを募らせた。
眼球の女神は生まれ落ちたその瞬間から、世界一美しい女の姿をしていた。
彼女が見通すどんなものよりも美しい姿だった。
眼球の女神の肌は、紺碧の深海よりも深く、トルコ石よりも鮮やかな青色で、天上の雲を撫でているかの如くどこまでも柔らかであった。
彼女の長い長い髪は、ヒマラヤの雪解け水が育んだカシミールのシルクよりも柔らかく滑らかで、夜空に輝く無数の星々が織りなす天の川のような黄金の輝きを放ち、楽園に咲く蓮の花の如く清らかであった。
天の川のごとき髪は紺碧の肌にしっとりと柔らかく絡みついて、女神の美しさを際立たせていた。
そして、女神は、地上の王族がどんな財を差し出して願おうと手に入れることが叶わない、神々の国の神聖な香木の香りを豊かに纏っていた。
眼球の女神は、全てが美しく荘厳だった。
しかし一際美しいのは、ありとあらゆる美しい虹彩が愛の光に燦然と煌めく、大きな瞳であった。どんなに美しい宝石も、眼球の女神の瞳に比べれば、単なる路傍の石に過ぎなかった。
女神の眼は、宇宙の深淵を覗き込むがごとく、世界中のありとあらゆる美しい色を湛えて煌めいていた。
眼球の女神の姿はまさに、地上に降り注ぐ祝福そのものであった。
愛と美を司る眼球の女神の権能によって、人々は女神の衣の裾に触れたり、その清廉な香りを吸い込んだりするだけで、ありとあらゆる愛の何たるかを、その身を以て悟ることができた。
眼球の女神の美貌は人々を強烈に魅了し、そしてモンスーンの雨のように人々を潤し、心を清めた。
しかし同時に人々は、その力強さに打ちのめされた。この優美な姿の内に秘められた凄まじい力は、いつ何時、世界を揺るがすか知れない。人々はその予感にうち震え、眼球の女神に平れ伏した。
父神・シヴァは眼球の女神を凄まじいほどに溺愛した。シヴァは彼女の聖誕を盛大に祝い、彼女に贈り物を与えた。
まず、最高神であるシヴァ神自ら、神聖な名付けの儀式を行った。シヴァは彼女を「ニトゥラゴラク」と名付けた。これは、宇宙の真理を司る神々の言葉で「目の球」という意味だった。ニトゥラゴラクは、シヴァから賜った名前を通して、神力と加護を賜り、最高神 と特別で神聖な絆で結ばれた。
次にシヴァは、神々の国の最奥、シヴァ自身も住む「カイサラ山」に、巨大なエメラルドをくり抜いて広大で静謐な洞窟を誂え、神聖な加護を与えた。そしてその壁一面を色とりどりの鉱石やクリスタルで彩らせ、眼球の女神の私邸として、彼女に与えた。
そしてシヴァは他の神々に命じて彼女の為の寝台を作らせた。宇宙の数多の星々の中でも特に美しい、選りすぐりの一等星だけを集め、星雲の綿や天の川で洗った絹を敷き詰めて作った素晴らしい寝台であった。
「ああ、愛する我が娘よ。
我が最愛の一人娘、ニトゥラゴラクよ。
私の愛情に比べればこんな贈り物など 些細なものに過ぎない。
お前へのこの溢れる愛のほんの一欠片でも、お前に伝わっていれば良いのだが。」
「お父様、お父様。
お父様の愛は、このニトゥラゴラクに存分に伝わっております。
私はお父様の愛娘。
そして、私は愛を司る女神なのですから。」
聖誕の物語・完
次回へ続く




