第七章 降下
神谷悠真に対して、医務官が告げた結論は簡潔だった。
「最低二十四時間、飛行禁止」
「二十四時間?」
「最低だ」
「明日の朝なら――」
「最低二十四時間と言った」
悠真はベッドの上で黙った。首には軽い固定具をつけられ、右肩には湿布。両腕と背中は、何もしなくても鈍く痛む。
「骨折はない。内臓にも今のところ異常はない。ただし昨日から君は、何度も強い加速度に晒されている。意識を失わなかったから問題ない、という話ではない」
「でも自衛隊の人はもっとGの高い訓練するんですよね」
「訓練した人間が、訓練された装備を使って、管理された状態でな。君は一昨日まで高校生だったんだろう?」
「今も高校生です」
医務官は一瞬だけ悠真を見た。
「なら高校生らしく寝ていろ」
反論できなかった。医務官が出ていくと、隣の椅子に座っていた亮太が笑った。
「怒られてやんの」
「お前も一緒に乗ってただろ」
「昨日は乗ってない」
「最初の日はいた」
「だから俺は学習した」
「俺だって学習してる」
「お前の学習って戦闘方法の方じゃん」
亮太はスマートフォンを持ち上げた。
「ちなみに、今日のお前の戦闘動画、もう二億再生超えたって」
「見たくない」
「海外の切り抜き含めたらもっとあるらしい」
「もっと見たくない」
「あと『宇宙人を倒したゲーマーのおすすめデバイス』とかいう広告出てる」
「俺関係ないだろ」
「勝手に名前使われてる」
「最悪だ」
悠真は枕へ顔を埋めた。世界は相変わらず侵略されていた。なのに、自分のゲーム用マウスが何だったかまで調べられている。人類は妙なところで平常運転だった。
*
午前九時十二分。基地の格納庫には三機の宇宙人機が並んでいた。一機目は悠真が最初に奪った機体。後部と側面に大きな損傷を受けているものの、現時点では最も安定して動く。二機目は前日に悠真が撃墜し、自衛隊が回収したもの。側面の外装が大きく裂けているが、推進系と操縦系は生きていた。すでに航空自衛隊の二等空佐が実戦飛行に成功し、一機を撃墜している。三機目は昨日の基地防衛戦で回収された機体だった。機首が潰れ、外部センサーの一部を失っている。だが内部システムそのものは起動した。
「浮くだけなら浮きます」
研究員が言った。一等空尉が三号機を見る。
「武装は?」
「反応はあります。ただし実際に発射できるかどうかは試していません」
「動力残量は?」
「分かりません」
「レーザーの使用可能回数」
「分かりません」
「推進剤」
「あるのかどうかも分かりません」
「分かったことは?」
「操縦方法です」
一等空尉は苦笑した。
「一番最後に分かりそうなところだけ先に分かったな」
「インターフェースが優秀すぎます。あちらの機械が、こちらに合わせてくる」
人類はまだ、宇宙人機のエンジンを理解していない。材料も分からない。レーザーの発振原理も分からない。壊れた部品を新しく作ることもできない。それでも飛ばすことだけはできた。高度な技術で作られた兵器ほど、使用者に専門知識を要求しない。それは皮肉な事実だった。
「三機ある、と思わない方がいいでしょうね」
研究員が続けた。
「どういう意味だ」
「三機しかないんです。一号機も二号機も損傷している。三号機はさらに不安定。壊れたら、今の我々には直せません」
「部品取りは?」
「可能かもしれません。ただ、どこが同じ部品なのかから調べる必要があります」
一等空尉は三機を見渡した。人類最強の戦闘部隊。同時に。世界で最も補給の効かない戦闘部隊だった。
*
「それ、俺がやってたことですよね」
午後。悠真は医務官の許可を得て、作戦室まで歩いてきていた。ただし飛行は禁止。走るのも禁止。重いものを持つのも禁止。大型モニターには、宇宙人機の訓練映像が映っている。一等空尉が答えた。
「何がだ」
「その名前」
画面には戦術項目が並んでいた。
《最小変位回避》 《非機首方向射撃》 《相互射線遮蔽》 《回避先予測射撃》 《意図的速度喪失機動》
「俺、そんな大層なことやってないですよ」
「軍隊は、なんとなくでは教えられん」
「相互射線遮蔽って、敵を盾にするやつですよね」
「『敵を盾にする』では命令に使いづらい」
「分かりやすいのに」
一等空尉が悠真を見る。
「お前が感覚でやっていたことを、誰でも再現できる形にしている」
「俺の戦い方を?」
「正確には違う」
一等空尉は画面を切り替えた。航空自衛隊のパイロットが模擬戦を行っている。宇宙人機二機。こちらも二機。以前とはまるで違った。敵機を追わない。機首を向けることにも拘らない。一機が敵を動かし、もう一機が回避先へ射撃する。逆に敵から狙われれば、もう一機が射線へ割って入る。
「二機いると全然違いますね」
「当たり前だ。一対一用の戦い方と編隊戦闘は違う」
一機が囮となる。敵が追う。もう一機が上方から射撃。撃墜。悠真は思わず身を乗り出した。
「今の俺より上手くない?」
「たぶんな」
「そこ否定してくださいよ」
「操縦経験三千時間以上の人間に、いつまでも勝てると思うな」
「ですよね」
悠真は少し笑った。妙な安心感があった。本当に、自分がいなくても戦えるようになり始めている。戦争をするために必要とされなくなる。そのことが、こんなに嬉しいとは思わなかった。
「俺、もういらないですね」
「まだ三機しかない。それに、お前の目は使える」
「目?」
「昨日、熱を見つけただろ」
「偶然です」
「敵の行動を見る癖がある。操縦しなくても役に立つ」
「高校生に何やらせるつもりですか」
「座って映像を見るだけだ」
「それならまあ」
「ついでに学校の宿題もやれ」
「そっちは嫌です」
その時だった。作戦室の空気が変わった。警報ではない。複数の端末が一斉に音を出した。
「何だ?」
オペレーターが画面を見る。数秒。表情が変わった。
「軌道上で大規模な分離を確認」
「攻撃機か?」
「違います」
メインモニターへ映像が送られる。地球周回軌道。宇宙人母艦。そこから巨大な物体が次々と切り離されている。一つ。二つ。十。それだけではない。
「大きさは?」
「推定全長二百八十から三百五十メートル」
悠真は思わず呟いた。
「でか……」
これまで戦ってきた宇宙人攻撃機は二十メートル前後。比較にならない。
「数は?」
「現在四十七。まだ増えています」
「軌道は?」
「地球へ降下中」
作戦室が静まった。誰かが言った。
「質量攻撃か?」
その言葉で悠真の背筋が冷えた。三百メートル級の物体が高速で地上へ落下する。どれほどの威力になるか、計算する必要すらない。
「落下地点を出せ!」
「北米、東アジア、欧州、中東、ロシア、オーストラリア……世界各地です!」
「都市狙いか?」
「まだ分かりません!」
映像の中で、巨大物体が大気圏へ突入した。
*
世界中のテレビが、ほぼ同時に映像を切り替えた。空に伸びる光。いくつも。何十も。最初は流星群のように見えた。しかし大きすぎた。
『現在、軌道上の異星船から大量の大型物体が地球へ向けて射出されています』
ロサンゼルス。上海。ベルリン。モスクワ。シドニー。世界中の報道カメラが空へ向けられる。SNSには同じ言葉が溢れた。
《隕石?》
《爆撃?》
《都市に落とす気?》
《逃げろ》
《どこへ?》
《終わった……》
だが数分後、様子が変わった。落下物の速度が低下し始めた。発光が弱くなる。姿勢を変える。そして。
「減速してる」
悠真が言った。作戦室でも同じ結論が出る。
「着陸軌道です」
一等空尉が画面を見る。
「爆弾じゃない」
誰かが続けた。
「降下艇だ」
その瞬間。人類は初めて理解した。宇宙人が空から降りてくる。
*
最初の着陸は、北米だった。ネブラスカ州郊外。広大な農地の中へ、全長三百メートル級の黒い物体が垂直に近い姿勢で降りてくる。現地のテレビ局が十数キロ先から中継していた。機体下部から、青白い光。土煙。巨大な船体が地面へ接地する。墜落ではない。着陸だった。
『降りました……』
記者の声が震えている。
『未確認飛行物体が、今……地上へ着陸しました』
数十秒。何も起きない。やがて船体側面が開いた。最初に出てきたのは小型無人機だった。十機。二十機。直径一メートルほどの機械が周囲へ散っていく。
続いて黒い影。一人。二人。何十人。宇宙人。人類が初めて、動いている彼らの姿をまともに見る瞬間だった。
身長は一・三メートルほど。低く横に広い身体。四本の腕。全身を覆う黒灰色の装甲。二本の脚で歩くが、人間とは歩き方が違う。重心が低く、ほとんど身体を揺らさない。彼らは雄叫びを上げない。走らない。武器を振り回さない。整然と降りてきた。
二十。四十。百。隊列を作る。小型ドローンが先行。宇宙人兵が続く。
『こちらへ向かってくる様子はありません』
報道陣は遠くから撮影を続ける。宇宙人兵もカメラの存在には気づいているはずだった。だが無視した。彼らが向かったのは、近隣の州兵施設だった。
*
日本でも二隻の降下艇が確認された。一隻は北海道。もう一隻。
「これ……」
悠真は表示を見た。落下予測地点。自衛隊基地から五十キロほど。一等空尉の顔が険しくなる。
「昨日の回収地点に近い」
「回収地点?」
「お前が最初に撃墜した機体の一つだ」
「でも回収したんですよね」
「残骸の一部がまだ現地にある」
別のオペレーターが言う。
「降下軌道修正。基地へ近づいています」
「こっち?」
「正確には……」
数秒。
「鹵獲機保管施設です」
答えは明白だった。宇宙人は取り返しに来た。もっと正確には。
「鹵獲を止める気だ」
一等空尉が言った。
「地球人に自分たちの兵器を使わせないために」
悠真が呟く。
「俺が落としたせい?」
誰もすぐには答えなかった。
「俺たちが鹵獲したから、予定より早く降りてきた?」
一等空尉が悠真を見る。
「可能性は高い」
悠真はモニターを見る。空から降りてくる巨大な黒い船。
「……余計なことしたかな」
「馬鹿を言うな」
一等空尉の返答は早かった。
「遅かれ早かれ降りてきた。違うのは、こちらに三機の兵器と戦い方があることだ」
「でも」
「敵が予定を変えたなら、それはこっちが嫌なことをした証拠だ」
悠真は少し黙った。
「そういう考え方するんですね」
「軍人だからな」
*
日本の降下艇は山間部へ着陸した。報道ヘリは距離を取りながら追跡している。船体が地面へ降りる。側面が開く。ドローン。宇宙人兵。さらに人型ではない機械。
「車両?」
悠真が画面を見る。四本脚。高さ二メートルほど。砲塔らしきもの。
「歩行兵器か」
一等空尉が言った。数十体。宇宙人兵はそれらとともに移動を開始した。向かう先は鹵獲機を保管する基地。その途中で、自衛隊普通科部隊と接触した。
*
地上戦は、空とは違った。最初に発砲したのは自衛隊だった。距離八百メートル。小銃。機関銃。弾丸が宇宙人兵の装甲へ当たる。火花。倒れない。
「効いてない」
映像を見ていた悠真が呟いた。
「小銃弾では厳しいか」
しかし次の瞬間。重機関銃。大口径弾が一体の宇宙人兵へ集中する。装甲が砕けた。宇宙人兵が倒れる。
「倒れた!」
さらに装輪装甲車の機関砲。数発。一体。二体。宇宙人側も反撃する。人間の小銃より短い武器。光。道路脇のコンクリート壁が爆ぜた。
「レーザー?」
「違う。着弾がある」
映像を拡大。宇宙人兵の武器から高速の何かが発射されている。弾丸。あるいは別の投射兵器。コンクリートを貫く。自衛官たちは遮蔽物へ隠れる。だが宇宙人のドローンが上空へ。建物の裏。森の中。人間の位置が露出する。
「センサーで負けてる」
一等空尉が言った。人類側には火力がある。対戦車ミサイルが宇宙人の四脚兵器へ飛ぶ。命中。爆発。機体が横転した。
「効く」
悠真は思わず言った。
「空よりはずっとマシですね」
「ああ」
宇宙人兵は無敵ではない。小銃では厳しい。だが重火器なら倒せる。対戦車兵器なら、機械も破壊できる。問題はそこではない。敵は人間より先に見つける。先に位置を把握する。ドローン。赤外線。電波。おそらくそれ以外も。地上戦でも、宇宙人の最大の優位は情報だった。
*
「二号機、発進準備完了!」
「三号機は?」
「センサー系統が不安定。飛行は可能ですが、戦闘投入は推奨できません」
一等空尉が頷く。
「二号機を出す。一号機は予備」
「悠真機は?」
「今日は飛ばさん」
悠真が少し離れた場所から言う。
「俺、何も言ってないですよ」
「顔に書いてある」
「乗りませんって」
「信用する」
「そこはもうちょっと疑ってください」
二号機が浮上。自衛隊の二等空佐。昨日、初撃墜を記録した正式パイロット。今回は最初から戦術が違う。低空。地上部隊と連携。宇宙人攻撃機が二機、降下艇周辺を護衛している。
「二対一か」
一等空尉が呟く。悠真は画面を見る。
「右の一機、囮じゃないですか」
「根拠は」
「左が全然撃ってない」
数秒。一等空尉が二等空佐へ通信。
『左に注意。右へ誘導されている可能性』
『了解』
二号機は右の敵を追わない。宇宙人機がさらに右へ。やはり誘っている。その瞬間。左の機体が加速。
「来た」
悠真が言う。二号機はすでに動いていた。急停止。左の敵機を通過させる。真横へ射撃。命中。
「おお」
悠真が声を上げる。
「俺よりうまい」
「言っただろ」
敵機は損傷しながら離脱。もう一機が援護。二号機は追わない。
「ちゃんと追わない」
「当たり前だ」
「俺の教えが」
「軍が体系化した」
「俺の功績ちょっと残してくださいよ」
*
問題は降下艇だった。全長三百メートル。低空に浮いたまま、地上部隊を送り出している。地対空ミサイル。対艦ミサイル。鹵獲二号機のレーザー。何度も攻撃する。当たる。だが。
「効いてない」
装甲表面が焼ける。外装の一部が破損。それでも致命傷にならない。
「攻撃機とは厚さが違う」
「大型艦だからな」
二号機がさらに一射。表面が赤熱。だが抜けない。
「これ無理じゃないですか?」
「効果がないわけじゃない」
悠真は画面をじっと見る。降下艇。巨大。表面温度。外部映像。赤外線情報らしきもの。
「……あれ?」
「何だ」
「下」
「下?」
「船の下側」
着陸直前から、下部にいくつもの構造物が展開している。翼ではない。薄い板。何十枚。櫛のように並ぶ。そこだけ表示が明るい。
「熱くなってる」
一等空尉が映像を拡大。
「推進器か?」
「違うと思う」
「なぜ」
「エンジンなら、もっと頑丈に隠すんじゃないですか」
悠真は画面を見る。細長い板。表面積が大きい。薄い。たくさんある。
「……ラジエーター?」
一等空尉が悠真を見る。
「放熱器か」
「宇宙船って熱を捨てるの大変なんですよね」
「そうだ」
「大きい船なら、もっと熱出る」
一等空尉は研究班へ通信する。
「解析!」
数十秒。返答。
『可能性が高いです。該当部位から非常に強い赤外線放射。内部から熱が流れています』
「装甲は?」
『他の船体部分より薄い可能性があります』
一等空尉は二号機へ伝える。
『目標変更。船体下部の展開構造を狙え』
『了解』
宇宙人側も意図を察したらしい。護衛二機が動く。二号機を止める。悠真は画面を見る。
「正面から行かない方がいい」
「理由」
「守ってる。そこが弱点なら絶対来ると思ってる」
「では?」
悠真は少し考えた。
「地上から撃ってください」
「効かないぞ」
「船じゃなくて敵機に」
一等空尉が理解する。
「追い払うのか」
「二号機を船まで通す」
地上部隊へ命令。ミサイルを大量に護衛宇宙人機へ。当たらない。だが回避はする。一機が左へ。一機が上へ。その間二号機が低空から接近する。
「今!」
悠真が思わず言った。レーザー。降下艇下部。一枚目。薄い板状構造が裂ける。二枚目。三枚。宇宙人側が即座に反応。降下艇が上昇を始める。
「逃げてる!」
下部構造の残りが、さらに明るくなる。使える放熱器へ負荷が集中している。
「冷却性能が落ちてる。もう一度!」
二号機が射撃。さらに二枚破壊。降下艇の動きが変わった。地上部隊の展開が止まる。側面開口部が閉じていく。宇宙人兵が戻り始める。
「撤収してる?」
「上がる気だ」
巨大な船体がゆっくりと上昇。護衛機もそれに合わせて後退する。地上の宇宙人兵の一部は残された。だが降下艇は戦闘継続を選ばなかった。高度百メートル。二百。さらに上昇。やがて推進出力を上げ、空へ逃げていく。作戦室に歓声が上がった。
「撃退!」
「降下艇、撤退!」
「大型艇を追い返したぞ!」
悠真も画面を見ていた。
「……落とせなかった」
一等空尉が言う。
「十分だ」
「逃げただけですよ」
「敵の目的を阻止した。勝ちだ」
悠真は少し考えた。
「勝ちって、そういうものなんですね」
「戦争ではな」
*
日本で発見された降下艇の弱点は、数分以内に世界へ共有された。
《大型降下艇下部・高温展開構造》
《放熱器と推定》
《破壊により推進・戦闘継続能力低下》
《優先攻撃対象》
北米。ドイツ。インド。オーストラリア。各国軍が同じ部位を狙い始める。一隻が着陸を断念。別の一隻は地上展開途中で撤退。さらに一隻。放熱器損傷後、低高度で停止し、そのまま不時着。世界中のニュースが一斉に伝える。
《異星大型艇に弱点》
《日本から共有された情報で複数国が撃退》
《宇宙人艦は無敵ではない》
だが全部ではなかった。
*
夜。作戦室の大型モニターには世界地図が表示されていた。赤い点。着陸確認地点。一つ。十。三十。さらに。
「何か増えてない?」
悠真が言った。
「増えている」
一等空尉が答える。画面の端。
《降下艇確認 九十六》
《着陸成功 七十三》
《撤退・着陸断念 十八》
《状態不明 五》
「七十三……」
悠真は呟いた。画面が切り替わる。北米。郊外の高速道路を進む宇宙人部隊。欧州。工業地帯を占拠する黒い兵士たち。中国。自動車道路を封鎖する四脚兵器。中東。降下艇から次々と降りる宇宙人兵。
そしてどの場所でも民間人は基本的に無視されている。逃げる人間を追わない。住宅を無意味に破壊しない。だが軍事施設へ近づけば、容赦なく攻撃する。
「何人いるんだよ」
悠真が言った。
「分からん」
一等空尉も画面から目を離さない。宇宙人兵。百。千。世界全体なら何万人。あるいはもっと。
「空だけなら」
悠真が呟いた。
「何だ」
「空だけなら、どこにいるか分かりやすかったんですよね」
攻撃機。レーダー。空。それだけ見ればよかった。今は違う。山。森。都市。道路。工場。地面の上に敵がいる。
「これからどうなるんですか」
一等空尉は少し黙った。
「戦争になる」
「今までも戦争だったでしょ」
「今までは迎撃戦だった」
画面。黒い宇宙人兵が道路を進んでいく。
「これからは違う」
「何が」
「土地を取り合う」
悠真は世界地図を見る。赤い点が増えている。七十三。空から来た敵が今、人類と同じ地面の上に立っている。その夜、人類史上初めて正式な呼称が使われた。
《宇宙人地上侵攻》
戦いは新しい局面へと展開しようとしていた。




