表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファースト・エース ~人類が三日で敗北したので、ゲーマー高校生が敵の戦闘機で反撃します~  作者: 神野啓次


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/10

第五章 時間がない

 空襲警報は、午前一時七分に解除された。悠真は結局、ほとんど眠れなかった。施設の窓から見える夜空は静かだった。時折、遠くを航空機らしい光が横切る。しかしそれが自衛隊のものなのか、宇宙人のものなのかは分からない。


 ベッドの上でスマートフォンを眺める。ニュースには、


《北関東上空に未確認飛行物体》

《航空自衛隊基地への攻撃続く》

《政府、被害状況を確認中》

《異星機鹵獲を巡り各国が共同研究要請》


 そういった見出しが並び、その中には当然のように自分の記事まで混じっていた。


《高校生パイロット》

《人類初のエース》

《神谷悠真とは何者か》


 宇宙人機から出てきたのは高校生二人。亮太の名前も少しだが出ていた。だけどなぜか操縦していたのが悠真のほうだと知れ渡っていた。


「やめろよ……」


 画面を消した。昨日まで、自分の名前を検索することなどなかった。今は検索する必要すらない。勝手に出てくる。

 隣のベッドでは亮太が寝ていた。よく眠れるな、と悠真は思った。いや、よく見ると起きていた。


「何見てんの」


 亮太が目を閉じたまま言った。


「起きてたのかよ」

「サイレンで起きた」

「寝ろよ」

「お前がスマホいじってるから明るい」

「悪かった」


 数秒の沈黙のあと、亮太が言った。


「なあ。また乗るの?」

「母ちゃんに止められたんだろ」

「聞いてたのか」

「電話、声でかかった」

「……まだ分からん」

「乗らなくていいんじゃね?」

「うん」

「自衛隊の人いるし」

「うん」

「プロなんだから、そのうち俺らより上手くなるだろ」

「俺らじゃなくて俺な」

「俺も警告見つけた」

「あれ一個だけだろ」

「重要だっただろ」

「はいはい」


 少し笑った。その通りだと思った。昨日の訓練を見ても、自衛官たちは操作そのものを短時間で理解していた。むしろ悠真より丁寧だった。基本操作だけなら数十分。数時間も訓練すれば、かなり動かせるはずだ。


 戦い方だってそうだ。機首を敵へ向ける必要がない。旋回という発想を捨てる。三次元空間をそのまま移動する。それさえ理解すれば、優秀な戦闘機乗りならすぐ適応する。


 悠真の役目は終わる。そう思うと安心した。同時に、少しだけ妙な感情もあった。自分でも何なのか分からない。


     *


 午前六時二十一分。悠真は爆発音で目を覚ました。窓が震え、反射的に飛び起きる。亮太も同時だった。


「何!?」


 続いて警報が鳴った。外ではない。施設内の警報だった。赤いランプが点滅し、廊下から足音と叫び声が聞こえる。


『警戒態勢!』

『全員所定位置へ!』


 悠真は窓へ走った。遠くの空に黒い点が見える。一つ、二つ、さらに増える。


「来た」


 亮太が呟いた。宇宙人機。悠真にも分かった。数が多い。


「なんでここ?」


 答えはすぐに思い浮かんだ。格納庫。あの機体。


「鹵獲機……」


 敵は知っている。昨日、悠真の乗った機体がここへ運び込まれた。どうやって知ったのかは分からない。偵察、通信傍受、衛星、あるいは機体自身の信号。理由はどうでもよかった。


 敵が来た。


     *


「十二機確認! 高度八千、南東から接近!」

「さらに後方!」

「二十?」

「少なくとも二十!」


 基地司令部のレーダー画面には、複数の反応が並んでいた。航空自衛隊は迎撃準備を進めていたが、戦闘機は少ない。三日間の戦闘で大半が破壊され、残存機も別の基地へ分散されている。この基地に残っているのは数機だけだった。


「発進させるな」


 基地司令が言った。


「しかし」

「結果は分かっている」


 沈黙が落ちた。すでに何度も見ている。人類の戦闘機では勝てない。


「地対空部隊、迎撃準備」

「了解!」


 その時、オペレーターが声を上げた。


「目標分離! 三方向! 基地へ来ます!」


 基地司令は画面を見つめた。


「狙いは?」

「……格納庫です」


 誰も驚かなかった。


     *


「神谷君!」


 部屋のドアが開いた。昨日の防衛省の男だった。


「避難する」

「機体狙われてるんですよね」


 男の表情が一瞬止まった。


「君は避難しろ」

「やっぱり。機体はどうするんですか?」

「我々が対処する」

「どうやって?」

「神谷」


 低い声がした。昨日、訓練で宇宙人機を操縦していた一等空尉だった。耐Gスーツを着ている。その姿を見て、悠真はすぐに理解した。


「乗るんですか」

「ああ」

「もう?」

「昨日よりはマシだ」

「でも」

「君より飛行経験はある」

「それはそうですけど」


 一等空尉はわずかに笑った。


「昨日は格好悪いところを見せたからな。今度は大人の仕事だ」


 妙に格好良く聞こえた。


「避難しろ」

「はい」

「佐伯も」

「はい!」


 二人は廊下へ向かった。その背後で再び爆発が起きた。今度は近い。建物が揺れた。


     *


 格納庫では、鹵獲機の修復作業が続けられていた。とはいえ、ほとんど進んでいない。そもそも直し方が分からないのだ。


 人類側にできたのは、破損箇所を調べ、脱落した外装を固定し、内部へ異物が入らないよう応急処置を施すことくらいだった。しかし機体自身がある程度の自己診断を行っているらしく、昨日まで赤く表示されていた箇所の一部が黄色へ変わっている。自己修復なのか、予備系統への切り替えなのか。それすら分からない。


「起動!」


 一等空尉が座席へ座る。認証失敗。非常モード。起動。周囲の研究者が退避し、格納庫の大型扉が開いた。

 外には朝の空。そして遠方に黒い点。


「敵、距離二十八キロ! 十七機!」

「防空射撃開始!」


 地上から複数のミサイルが白煙を引いて上昇する。宇宙人機が散開し、レーザーが瞬いた。一発、二発。ミサイルが空中で破壊される。


「駄目か」


 一等空尉は呟いた。だが時間は稼げる。鹵獲機が浮上する。高度十メートル、二十メートル。そのまま加速した。


「うまい」


 格納庫の入口から見ていた研究者が言った。当然だった。一等空尉はプロだ。操縦方法さえ理解すれば、機体を動かすこと自体は難しくない。


     *


 避難用地下施設へ向かう途中、悠真は足を止めた。


「悠真」


 亮太が声をかける。壁に設置された大型モニターには、基地内の戦闘映像が映っていた。鹵獲機が飛んでいる。一等空尉の操縦だ。


「すげえ」


 亮太が言った。悠真もそう思った。自分よりずっと安定している。加速も停止も高度管理も無駄がない。


「ほら。大丈夫じゃん」

「うん」


 敵機三機が接近する。一等空尉は正面から向かった。射撃。回避。宇宙人機も反撃し、それをまた回避する。


「避けた!」


 周囲の隊員から声が上がる。二射、三射。一等空尉は距離を保ちながら一機を追った。


「駄目だ」


 悠真が呟いた。


「何?」

「追ってる」

「そりゃ敵だから」

「違う」


 敵機一機が逃げる。一等空尉が追う。その外側から二機が広がっていく。


「誘われてる」


 悠真は画面へ近づいた。敵機は一列ではない。広がりながら射線を作っている。


「右」


 悠真が呟く。一等空尉も右へ動く。そこに敵がいる。


「違う!」


 レーザー。鹵獲機は間一髪で回避した。


「危な……」


 亮太が息を吐く。だが悠真には分かった。昨日と同じだ。上手い。操縦そのものは自分より遥かに上手い。だが、戦闘機として戦っている。


 敵の位置、速度、高度、優位な位置。何十年も積み上げてきた航空戦闘の常識。それは簡単には捨てられない。


「もうちょっと」

「何が」

「あと何時間かあれば」


 きっと適応する。この一等空尉なら。昨日の訓練でも、三戦目、四戦目と明らかに生存時間が伸びていた。悠真の戦い方も見ている。今だって、急停止、横移動、後方射撃を試し始めている。少しずつ、確実に変わっている。


「この人ならいける」

「じゃあいいじゃん」

「うん」


 その瞬間、新たな反応が画面に現れた。


「増援?」


 亮太が言う。敵機。さらに八。悠真の顔が固まった。


「……無理だ」


     *


「敵増援! 八機! 総数二十四!」


 基地司令部に声が飛び交う。


「鹵獲機を戻せ!」

「敵が格納庫へ向かっています!」


 最初からそうだった。宇宙人の目的は戦闘ではない。鹵獲機。その破壊、あるいは回収。

 一等空尉が戦っている間に、別部隊が高度を下げてくる。


「地上部隊!」

「射撃開始!」


 短距離地対空ミサイル。機関砲。ありとあらゆるものを撃つ。命中しない。それでも撃つ。近づかせないために。


     *


 地下施設への入口で、隊員が叫んだ。


「早く!」


 悠真は動かなかった。


「神谷!」


 画面では一等空尉の機体が四機に追われている。一機を狙う。外される。反撃。避ける。動きは良くなっている。本当に。


 あと少し。あと一時間。いや、三十分。もしかしたら十分。実戦で戦い続ければ、この人は理解する。どう戦えばいいのか。

 だが、その十分間がない。敵は今ここにいる。格納庫へ向かっている。


「亮太」

「何」

「お前、避難しろ」

「は?」


 悠真が走り出した。逆方向。格納庫へ。


「おい! 悠真!」

「行け!」

「何する気だよ!」


 分かっていた。機体は一機しかなく、今は一等空尉が乗っている。自分が行っても意味はない。それでも悠真は走った。


     *


 警告音が鳴る。一等空尉は息を吐いた。


「速いな」


 敵三機。いや、四機。正面、左、上。距離を変えながら同時に射撃してくる。


 避ける。機体を下へ。レーザーが頭上を通過し、すぐに横移動。二射目も回避。


「神谷の言ってたことは分かる」


 一人で呟く。戦闘機ではない。敵の後ろへ回る必要はない。機首方向も関係ない。それは頭では分かっている。


 だが身体が勝手に動く。敵を前に捉えようとする。速度を失うことに抵抗がある。後方に敵が入れば振り切ろうとする。


 何千時間も訓練した動きが、身体に染み込んでいる。


「厄介だな」


 思わず笑う。それでも修正はできる。時間さえあれば。


 警告。右。今度は振り向かない。そのまま左へ射撃した。


「こうか」


 敵が回避する。


「なるほど」


 少し分かった。次に、敵の射線へ別の敵機を入れる。一機が攻撃を中止した。


「神谷の真似だ」


 いける。そう思った瞬間、機体が大きく揺れた。


「っ!」


 被弾。右側の表示が赤くなる。


「まずい」


 さらに一発。推力低下。


「基地へ戻る」


 指示を出す。機体は旋回せず、そのまま基地方向へ加速した。


「まだ癖が抜けないな」


 自分で苦笑した。


     *


 悠真が格納庫へ到着した時、鹵獲機が戻ってきた。速い。低空。右側から白煙のようなものを吹いている。いや、煙ではない。何かの気体だ。


「下がれ!」


 隊員が叫ぶ。機体は高度を落とし、激しく地面を滑って停止した。格納庫前。側面が開き、一等空尉が出てくる。しかし歩けない。隊員たちが駆け寄った。


「一尉!」

「大丈夫だ」


 大丈夫ではない。額から血を流し、右腕を押さえている。


「機体は」

「動きます!」

「推進系一部損傷!」

「武装生きてます!」


 一等空尉は悠真を見た。


「何してる」

「……」

「避難しろ」

「一尉は」

「俺はもう一度行く」


 立とうとする。膝が落ちた。


「無理です!」


 衛生員が止める。


「離せ」

「骨折の可能性があります!」

「まだ飛べる」

「あなたが無理です!」


 その言葉で周囲が静かになった。機体は飛べる。パイロットがいない。他にも自衛官はいる。すぐ横に。一等空尉ほどではないが、訓練した者もいる。


「俺が行く」


 別のパイロットが前へ出た。


「操作は分かる」


 一等空尉が首を振った。一番腕のいい一等空尉が何の成果もなく逃げ戻ってきたのだ。敵もさらに増えている。


「まだ無理だ」

「しかし」

「飛ばすだけならできる」


 一等空尉は空を見る。宇宙人機。


「今必要なのは操縦できることじゃない」


 誰も言葉を返さない。悠真にも分かった。昨日から訓練を始めたばかりだ。あと少しなのだ。あと少しあれば、誰かが追いつく。軍人なら。優秀なパイロットなら。絶対に。時間さえあれば。


 だが敵は待たない。爆発。格納庫の外。


「敵接近! 六機! 距離五キロ!」


 全員が空を見る。黒い点が来る。


「格納庫閉鎖!」

「間に合いません!」

「車両退避!」

「ミサイル!」


 地上部隊が発射。敵機は回避し、さらに接近する。一等空尉が悠真を見る。二人の目が合った。


 数秒。


「……乗れるか」


 その言葉に周囲が止まった。


「一尉!」


 誰かが声を上げる。


「高校生ですよ!」

「分かっている!」


 一等空尉が初めて怒鳴った。静寂。


「分かってる……」


 声を落とす。


「俺だって乗せたくない」


 悠真を見る。


「だが」


 空。敵。


「時間がない」


 悠真は鹵獲機を見た。昨日乗った。四機落とした。怖かった。宇宙人を殺した。母親の声を思い出す。


『乗らないで』


 帰りたい。本当にそう思う。


「他の人は」


 悠真が聞いた。一等空尉は答えた。


「飛ばせる」

「戦えますか」

「いずれな」

「どれくらい」


 一等空尉は黙る。


「数時間?」

「……」

「一時間?」

「分からん」

「でも俺なら」

「神谷」


 止めるような声だった。それでも悠真は続けた。


「今なら戦える」


 誰も否定できなかった。それが一番嫌だった。


「俺が行きます」

「駄目だ!」


 防衛省の男が声を上げる。


「君は民間人だ!」

「じゃあ誰が行くんですか!」


 悠真自身が驚くほど大きな声が出た。


「敵、目の前ですよ!」

「それでも――」

「他の人が覚えるまで待ってくれるんですか!」


 爆発。さらに近い。格納庫の天井から埃が落ちる。


『敵機、基地上空へ侵入!』


 悠真は機体へ向かった。


「神谷!」

「俺だって嫌ですよ!」


 振り向く。


「乗りたくない! 怖いし! 昨日のやつ、まだ夢に出るし!」


 一歩。


「でも!」


 空を見る。


「俺が乗れば、少なくとも何機かは落とせる!」


 誰も動かない。


「その間に自衛隊の人が覚えてくださいよ! 俺より上手くなってください!」


 一等空尉の目が少し開いた。


「俺、ずっと戦う気ないですから! 高校卒業したいし!」


 場違いな言葉だった。誰かが小さく息を吐いた。


「だから」


 悠真は操縦席へ向かう。


「それまで俺がやります」


     *


 座席に身体を固定する。機体が悠真を認識する。警告。認証失敗。非常モード。もう慣れた。


『神谷君』


 通信。一等空尉の声。


「聞こえます」


『昨日とは状況が違う』

「分かってます」

『敵は君を知っている』

「はい」

『同じ手は通用しない』

「分かってます」

『それでも行くか』


 悠真は息を吐いた。


「行くしかないんでしょ」


 通信の向こうで少し間があった。


『……すまない』

「謝らないでください」


 正面に外部表示。敵六機。さらに遠方に十二。


「あと」

『何だ』

「戻ったら、ちゃんと教えてください」

『何を』

「どうやったらGで死なないか」


 一等空尉が笑った。初めてだった。


『了解』


 格納庫扉が完全に開く。


『神谷』

「はい」

『生きて帰れ』


 悠真は空を見る。黒い機体が接近している。昨日とは違う。もう味方だとは思われていない。


 表示は最初から赤い。警告。敵。


「了解」


 悠真は手を動かした。


「行きます」


 鹵獲機が浮上した。


     *


 宇宙人機六機が同時にこちらへ向く。昨日なら油断していた。今日は違う。


 即座に射撃される。


「うわっ!」


 悠真は横へ動く。レーザーが二本、三本と通過する。最初から殺しに来ている。


「昨日よりやる気満々じゃん!」


 加速。高度を上げる。敵が追う。一機、二機、四機。残り二機は基地へ向かう。


「そっち行くな!」


 悠真は射撃。遠距離。回避される。もう昨日のようには当たらない。


「学習してる」


 宇宙人は悠真を知っている。フェイント、急停止、回避方向への射撃。昨日使ったものはすべて知られている。


「なら」


 悠真は笑った。怖い。なのに、少しだけゲームを始める時の感覚が戻ってきた。


「昨日と違うことすればいい」


 敵四機が包囲する。一機が射撃。悠真は避けない。


『神谷!』


 一等空尉の声。


「大丈夫!」


 レーザー。直前に機体を最小限だけ横へ動かす。光が側面を通過した。


「全部避ける必要ない」


『何?』

「当たらなきゃいい!」


 次の射撃。少しだけ下へ。回避。無駄に大きく動かない。Gを減らす。速度を残す。


「これなら」


 昨日は動きすぎていた。敵の攻撃が怖くて、全部大きく避けていた。でもレーザーは線だ。射線から外れればいい。


「いける」


 悠真の動きが変わる。小さく。不規則に。右、上、停止、左。宇宙人の予測射撃が外れる。


『……そういう避け方か』


 一等空尉が見ている。記録している。


「覚えてくださいよ!」

『ああ』

「次、交代してください!」

『努力する』

「絶対ですよ!」


 一機が前へ出る。悠真は狙う。撃たない。敵が回避準備。もう一度狙う。撃たない。相手も動かない。


「警戒してる」


 三度目。今度は狙わない。別方向へ視線を向け、突然射撃する。敵の反応が遅れた。


 命中。


「一機!」


 まだ落ちない。追撃。宇宙人機が退避し、別の二機が間へ入る。


「守るんだ」


 昨日より連携が強い。悠真は追わない。


「じゃあ」


 基地へ向かっていた二機へ視線を移す。


「そっち!」


 突然方向転換。追跡していた三機の反応が遅れる。基地攻撃機一機が悠真の接近に気づき、回避する。


「遅い!」


 射撃。一発目は外れ。二発目が機体側面へ命中。三発目。


 撃墜。


「一機落とした!」

『確認した!』

「まだ!」


 もう一機が悠真へ向く。射撃。回避。至近距離。速い。悠真は上。敵も上。下。ついてくる。右。追従。


「じゃあ」


 悠真は突然、地面へ向かった。


『神谷!』


 急降下。宇宙人機が追う。地面まで百メートル。五十。三十。


「まだ」


 敵は後ろ。十五。十。


『上げろ!』

「まだ!」


 地上五メートル。悠真は横へ。宇宙人機も追従する。だが地面、基地施設、障害物。宇宙人機の自動回避が働き、一瞬だけ上昇した。


「そこ!」


 悠真は真上へ射撃した。命中。二機目が爆発。


『二機撃墜!』

「よし!」


 その瞬間、警告。背後。


「まず――」


 衝撃。被弾。機体が揺れる。


「うっ!」

『神谷!』

「大丈夫!」


 表示は黄色。まだ動く。敵の残数を数える。四。増援。八。十二。


「多いな……」


 呼吸を整える。手が震えている。怖い。でも基地の後ろには、自衛官、研究者、亮太。そして、この機体の操作を覚えようとしている人間たちがいる。


 自分は今、時間を買っている。それだけは分かった。


「一尉」

『何だ』

「あとどれくらいで乗れます?」

『今、別の操縦者に訓練させている』

「どれくらい?」


 沈黙。


『一時間』

「長い」

『三十分で仕上げる』

「まだ長い」

『無茶を言うな』

「十五分」

『神谷』

「十五分持たせます」


 通信の向こうが静かになる。


「その間に覚えてください」


 敵機が接近する。悠真は前を見る。


「俺、あと十五分だけ高校生やめます」


 一等空尉は数秒、何も言わなかった。


『了解』


 そして続ける。


『十五分後、必ず交代する』

「約束ですよ」

『約束する』


 通信が切れる。悠真は息を吸った。敵十二機。真正面。


「十五分か」


 手を構える。


「ゲームなら短いんだけどな」


 機体が加速した。


     *


 基地内。一等空尉は訓練室へ走った。操縦席の簡易再現。鹵獲機から取得した表示データ。映像。そこに若い自衛官が座っている。


「交代!」

「はい!」


 一等空尉自身は右腕を負傷していて乗れない。だから教える。


「神谷の映像を出せ!」


 画面に悠真の戦闘が映る。


「いいか!」


 集められたパイロットたちを見回した。


「飛行機だと思うな! 旋回するな! 機首を向けるな! 敵の後ろを取ろうとするな!」


 画面の中で悠真が横へ飛び、下へ落ち、後方へ射撃する。


「自分が三次元空間そのものになったと思え!」


 一人が操作する。ぎこちない。


「違う! 速度を守るな! 止まれ! 止まることを怖がるな!」


 もう一度。改善する。


「そうだ!」


 別のパイロット。


「敵を見るな! 敵が次に行く場所を見ろ!」


 画面の中で悠真が一機撃墜する。


「神谷がやっているのは操縦じゃない! 相手の行動を読んでいる!」


 全員が画面を見る。


「俺たちは飛ぶ技術では負けない。だが、あの機体で戦う技術を知らない」


 一人、二人。訓練を続ける。少しずつ動きが変わる。


「覚えろ!」


 一等空尉が叫んだ。


「十五分で!」


 画面の中には、神谷悠真。十二機。一人。


「民間人に! 十七歳のガキに全部やらせるな!」


 パイロットたちの目が変わった。


     *


 その頃、ヴァルク艦隊では別の分析が始まっていた。対象個体。再び戦闘開始。前回戦闘データとの比較。


 回避動作、変化。加速度管理、変化。予測撹乱、増加。同一戦術の再使用率、低下。学習速度、異常。


 戦術AIが再計算する。対象は前回の戦闘から、地球時間で二十時間にも満たない。にもかかわらず、戦闘方法を変更している。さらに鹵獲機周辺の地球軍にも新たな挙動。


 訓練信号。複数。ヴァルク戦術システムは初めて理解した。一個体だけではない。地球人類は学んでいる。急速に。


 脅威評価が更新される。


《鹵獲兵器一機》から《敵文明による技術転用開始》へ。


 計画の遅延。ヴァルク側にも、時間がなくなり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ