第二十四章 旅立ち
和平協定が成立してから三週間が過ぎた。ヴァルクはまだ太陽系にいた。
ただし、以前とは意味が違う。十三隻の母艦はすべて地球を攻撃できる軌道から離れ、月軌道より外側に設定された待機宙域へ移動している。地球上のヴァルク戦闘部隊はゼロ。攻撃機が人類の基地へ向かうこともない。代わりに、ヴァルクの採掘船が地球近傍小惑星や月周辺を行き来するようになっていた。
『本日、ヴァルク採掘船三隻が新たに小惑星二〇三八VB3へ到達しました。和平協定に基づく資源採取作業の一環で、人類側の監視船も同行しています』
《ヴァルク資源採取 計画の61%完了》
《月軌道外で移民船団補修続く》
《人類・ヴァルク和平協定 重大違反なし》
戦争中なら「異星船接近」の一言で世界中が緊張した。それが今では、天気予報の前にヴァルク採掘船の運航状況が流れている。
「宇宙人が近くにいるの、普通になってきましたね」
悠真がテレビを見ながら言った。
「三週間で慣れるな」
一等空尉が呆れる。
「だって毎日ニュースに出るし」
「三週間前まで撃ち合ってたんだぞ」
「俺なんか護衛までしてもらいましたよ」
「それはお前だけだ」
小惑星《2038 QX7》で行われた最初の実証以降、資源採取の監視は人類側の専門部隊へ引き継がれていた。宇宙機関の技術者、軍のパイロット、天文学者。ヴァルク機を扱える人間も増え、何もかも神谷悠真を送り込まなければならなかった時期は終わりつつある。
「次の小惑星は?」
「お前は行かない」
「今回は俺じゃない?」
「学校へ行け」
悠真は一瞬黙った。
「……行っていいの?」
「何のために戦ったんだ」
*
翌朝、神谷悠真は制服を着た。鏡を見る。
「変な感じ」
戦闘服でも耐G装備でもない。少し前まで毎日のように着ていた、ごく普通の高校の制服だった。母親が玄関まで来る。
「忘れ物ない?」
「たぶん」
「お弁当」
「あ」
「教科書」
「あ」
「本当に大丈夫?」
「小惑星まで行って帰ってきたんだけど」
「学校と小惑星は違います」
「学校の方が難易度高いの?」
母親は少し笑った。
「今日はちゃんと帰ってきなさい」
「帰ってるじゃん、最近」
「そうじゃなくて」
少し間を置いて、
「放課後に」
と言った。悠真は意味を理解して、笑った。
「普通だ」
「普通でいいの」
「うん」
家を出た。学校の前には報道陣がいた。
「全然普通じゃないじゃん!」
どうにか校舎へ入り、教室の扉を開ける。視線が一斉に集まった。亮太が手を上げた。
「よう、人類初の小惑星到達者」
「その呼び方やめろ」
「記者に囲まれてな」
「見てたんなら助けてくれよ。大変だったんだぞ」
「無理」
自分の席へ座る。机。椅子。教科書。黒板。何週間も前からそこにあったものばかりだった。
だが教室が完全に以前と同じわけではない。窓の一部は新しい。避難時についた傷が壁に残っている。長期避難でまだ戻っていない生徒もいた。家族を失った者もいる。一つの席は、もう使われない。
戦争前には戻れない。それでも授業は始まった。
「神谷」
「はい」
「ここ、解いてみろ」
「え?」
黒板には数学の問題。悠真はしばらく見つめた。
「先生、俺、軌道計算ならちょっとできるようになったんですけど」
「これは高校二年の数学だ」
「そっちの方が忘れてます」
教室に笑いが起きた。悠真も笑った。その瞬間、ようやく少しだけ実感した。
戻ってきた。
*
戦争が終われば、世界が元に戻るわけではなかった。むしろ、今度は変わり始めた。
ヴァルクから提供された復興支援技術は、世界各地の研究機関へ配布された。高効率な水再生。閉鎖環境生命維持。耐熱材料。熱交換。医療診断。農業環境制御。そして小惑星資源分離。
ただし、データを受け取った翌日にヴァルク製品と同じものが作れるわけではない。
「できたぞ」
放課後に基地へ呼ばれた悠真は、研究棟で妙な箱を見せられていた。
「何これ」
「資源分離装置」
「《QX7》で見たやつ?」
「原理の一部を使った、人類製だ」
「動くの?」
「失礼だな」
装置へ模擬鉱石が投入される。音がして、数分後、複数の容器へ異なる物質が分けられて出てきた。
「おお」
「どうだ」
「向こうのより遅くない?」
「性能は十分の一以下だ」
「駄目じゃん」
「三か月前にはゼロだった!」
研究責任者が怒る。
「しかもヴァルクの装置は、我々がまだ量産できない材料と制御素子を使っている。これは地球で作れる部品だけで再現したんだ」
「じゃあすごい?」
「すごい」
「自分で言った」
研究責任者は装置に手を置いた。
「重要なのは、ヴァルクから完成品をもらったことじゃない。我々が理解して、我々の材料で作ったことだ」
性能は低い。無駄に大きい。効率も悪い。だが動いた。理解できない技術と、無限の技術は違う。ヴァルクの技術も物理法則の上にある。ならば人類も、時間をかければそこへ近づける。
「二号機は?」
「もう設計している」
「早いなあ」
「人類を舐めるな」
悠真は笑った。
「ヴァルクも、それで和平選んだんですけどね」
研究責任者は少し黙った。
「……そうだったな」
*
一号機についても結論が出た。
《返還要求 なし》
ヴァルクからの正式回答だった。
「返さなくていいの?」
《戦時鹵獲物》
《人類所有 承認済》
「くれるんだ」
《表現 不正確》
《すでに人類所有》
「細かいな」
一号機は当面、人類側の試験機として残されることになった。ただし戦闘任務は終了。完全に直せない箇所も増え、部品の寿命も分からない。
一等空尉が機体を見上げる。
「いずれ博物館行きだろうな」
「これが?」
「他にどこに置く」
「まだ飛べますよ」
「だから今すぐじゃない」
悠真は黒い機体に触れた。最初に見つけた時は、乗れるかどうかさえ分からなかった。これで敵を殺した。これで人類初の勝利を作った。これで母艦へ行った。これで小惑星まで行った。
「博物館か」
「嫌か?」
「なんか年寄りになった感じする」
「十七歳だろ」
*
和平から二か月が過ぎる頃には、ヴァルクの資源採取作業は終盤に入っていた。
複数の小惑星から水と炭素質資源が運ばれた。金属資源が精製され、損傷した移民船の補修へ使われる。生命維持設備の交換。推進系の整備。長期間の航海に備えた物資再配置。
百二十億人。数字にすれば短い。だが一人ずつが水を飲み、空気を吸い、食事をし、眠る。その百二十億人をもう一度恒星間航行へ送り出す準備は、簡単には終わらなかった。
『ヴァルク側から最新の進捗が公表されました』
《長距離航行準備 96.8%》
《主要船体補修 完了》
《生命維持系 規定値到達》
《推進資源 最低必要量確保》
そして、和平成立から七十六日目。
《出発予定 決定》
世界中のニュースが一斉に切り替わった。
《ヴァルク移民船団 太陽系離脱へ》
《百二十億人 第二の航海》
《出発まで48時間》
悠真は学校でその速報を見た。
「行くんだ」
隣から亮太が覗き込む。
「今まで何してたと思ってたんだよ」
「分かってたけど。本当に行くってなると違うじゃん」
「見送り行くの?」
悠真の端末が鳴った。自衛隊からだった。
「……たぶん」
「また宇宙?」
「たぶん」
「お前、学校来るたび宇宙行くな」
*
出発前日。ヴァルクから、和平協定に基づく最後の大規模技術パッケージが送られてきた。
《長期生命維持》
《恒星間航行理論 非軍事部分》
《近傍恒星観測記録》
《候補星環境情報》
《高耐久材料 基礎理論》
研究者たちがデータ量を確認し、言葉を失った。
「これ……相当ありますよね」
「ああ」
「くれるの?」
ヴァルクへ質問が送られる。
《和平履行 完了確認》
《技術提供理由 追加》
返答。
《人類 宇宙進出可能》
悠真が画面を見る。続く。
《将来再会可能性》
「……再会?」
《肯定》
「俺たちがそっちまで行くってこと?」
《可能性あり》
「いつ?」
《不明》
「そりゃそうか」
悠真はその文字を見ながら、少し笑った。
「また会ってもいいと思ってるんだ」
ヴァルクから返答。
《敵対不要》
「それもそうだね」
*
本当の最後の通信は、出発当日の朝だった。
《RUK 通信》
「ルク」
《神谷悠真》
「今度こそ本当に最後?」
《近距離即時通信 最後になる可能性高い》
「前も最後って言ったじゃん」
《その時点の予測》
「便利だな、それ」
ルクのいる船も長距離航行準備を終えている。
「家族は?」
《同一船団区画へ移動済》
「子供たちも?」
《肯定》
「よかった」
少し間があった。
「向こうまで何年?」
《地球時間換算 数十年》
「長いな」
《肯定》
「着いたら俺、おじさんだよ」
《生存可能性 高い》
「そこじゃないって」
《理解努力》
「まだ努力中なんだ」
悠真は笑った。
「着いたら連絡してよ」
《可能なら》
「何年後でも」
《了解》
「俺が生きてなかったら?」
返答まで少し間があった。
《人類へ送信》
「それでいい」
《神谷悠真》
「なに?」
《生存を希望》
悠真は画面を見た。
「ルクもね」
《肯定》
「家族も」
《肯定》
「百二十億人、ちゃんと連れてって」
《それが目的》
「知ってる」
少しだけ考えた。
「じゃあ、いってらっしゃい」
ヴァルク側では、その言葉に完全に対応する概念がすぐには見つからなかったらしい。
数秒後。
《移動後の帰還を期待する人類表現》
「そう」
《今回は地球へ帰還しない》
「そういう意味じゃないんだよ」
《理解困難》
「最後までそれか」
少し間。
《理解努力》
「うん。それでいいよ」
*
ヴァルク船団の出発は、人類側によって監視されることになった。
和平が成立しているとはいえ、百二十億人を乗せた巨大船団が大規模な推進を開始する。進路が本当に別候補星を向いているのか、地球側には確認する権利があった。
望遠鏡だけではない。人類側監視機も出す。しかもヴァルク機なら、船団のかなり近くまで同行できる。
「で」
格納庫で悠真が一号機を見る。
「俺?」
「ヴァルク側も了承済みだ」
一等空尉が答えた。
「学校、今日早退したんですけど」
「公欠扱いにしてもらえ」
「また?」
「人類史上一回しかない見送りだ」
「最近そういうの多くないですか?」
今回、悠真一人ではない。二等空佐を含む複数の人類側パイロットが同行する。ヴァルク側も監視機の接近可能範囲を事前指定し、推進開始時には安全距離を取るよう詳細なデータを送ってきた。
目的は監視。そしてもう一つ。映像を地球へ送ること。
一号機の高性能な光学・赤外線センサーなら、人類製の遠距離望遠鏡より遥かに鮮明な船団の姿を撮影できる。
「世界中に流れるぞ」
「俺の顔は?」
「いらん」
「よかった」
*
一号機が地球を離れた。もう戦闘ではない。敵のレーザーも飛んでこない。軌道班の指示に従い、複数の人類機が月軌道の外へ向かう。
そして悠真は初めて、ヴァルクの移民船団を自分の目で見た。
「……多い」
言葉が、それしか出なかった。十三隻の母艦など比べものにならない。巨大な船。細長い船。回転する居住区を持つ船。複数の構造体を束ねたような船。補修跡が残る船。その間を採掘船や小型艇が飛び交っている。視界の端から端まで船だった。
『これが百二十億か』
二等空佐の声。
「全員いるんですよね」
『そういうことになる』
悠真はセンサー倍率を上げる。一隻の巨大移民船。外壁。窓らしい構造はほとんどない。中は見えない。だが、そこに人――ではなく、ヴァルクがいる。
家族。子供。老人。この船団すべてを地球へ移住させるために、彼らはやってきた。そして人類と戦った。今度は、その全員が別の星へ向かう。
「映像、地球へ送れてます?」
『受信確認。世界配信開始』
*
『こちらが現在、神谷悠真さんら人類側監視部隊から送られている映像です』
《ヴァルク移民船団 出発へ》
《人類機が近距離から撮影》
《百二十億人を乗せた船団の全容》
地球のテレビに、初めて鮮明な移民船団の姿が映った。世界中の人々が見た。自分たちを侵略しに来た文明。同時に、滅びかけた故郷から逃げてきた文明。軍艦だけではない。居住船。農業船。生命維持船。子供を乗せた船。
百二十億人を一人も置いていかないために作られた、巨大な避難船団。
『これまで人類が鮮明に観測できていたのは、地球へ先行していた軍事艦艇が中心でした。現在の映像では、その後方にいたヴァルク移民船団の構造を詳細に確認できます』
ネット上には、無数の言葉が流れた。
《こんなにいたのか》
《これ全部人が乗ってるの?》
《ヴァルクだけどな》
《本当に十二十億じゃなくて百二十億なんだな》
《これが地球に来る予定だったのか》
《そりゃ共存無理だ》
《でも全員連れてきたんだな》
そして、
《無事着けよ》
という短い言葉も混じり始めた。
*
出発時刻まで残り三十分。ヴァルク船団の各所から通信信号が飛び交う。
一号機の表示にも、見慣れたヴァルク文字が次々に現れる。
《航行系統 同期》
《船団間隔 確認》
《推進開始時刻 共有》
「ほんとに行くんだな」
悠真が呟く。
『神谷、指定位置から近づくなよ』
「分かってます」
『推進始まったら何が飛んでくるか分からん』
「和平したのに?」
『排熱と噴射物の話だ』
「そっちか」
人類側監視機が安全距離まで下がる。巨大な船団が、ゆっくりと隊列を整えていく。軍艦が外側。その内側に移民船。補修船。資源船。一隻一隻が、別々に動く巨大な都市だった。
やがて地球側へ、ヴァルクから正式通信。
《資源採取 完了》
《和平協定 人類側履行確認》
《ヴァルク側履行確認》
《太陽系離脱航行 開始》
地球側から返答。
《確認》
《安全航行を希望》
ヴァルク。
《受信》
それだけだった。
*
最初の船が動いた。巨大船の推進部に光が生まれる。派手な爆発ではない。ゆっくり。しかし確実に速度を変える。
次の船。さらに次。
「すごい……」
悠真は息をすることも忘れそうになった。何十、何百という巨大船が、順番に軌道を変えていく。その姿は戦闘よりずっと静かだった。
レーザーもない。爆発もない。警報もない。ただ百二十億人が、地球から離れていく。
鮮明な映像は一号機から地球へ送られ続ける。
*
『ヴァルク移民船団、出発しました!』
《百二十億人 太陽系を離脱へ》
《地球侵攻から約三か月》
《和平協定 最終段階履行》
世界中の大型画面に、同じ映像が流れた。かつて空襲警報を聞いた街。焼かれた基地。避難所。学校。病院。港。
戦争で家族を失った者も見ていた。帰還した兵士も見ていた。最初の三日間を生き残ったパイロットも見ていた。
喜ぶ者。黙って見送る者。許せないままの者。無事を願う者。人類の感情は最後まで一つにはならなかった。それでよかった。
*
「神谷悠真」
ヴァルクから直接通信。声ではない。文字。発信元は船団の一隻。
《RUK》
「ルク?」
《出発開始》
「見えてるよ」
《地球 縮小》
「こっちからはそっちが小さくなってる」
《当然》
「最後にそれ?」
少し間。
《神谷悠真》
《人類 宇宙進出可能》
「うん」
《将来再会可能性》
悠真は前方の船団を見る。
「その時は、戦争なしで会おうよ」
返答まで少し間があった。
《同意》
「じゃあ」
何を言うか少し迷った。
「いってらっしゃい、ルク」
今度は、説明を求める返事は来なかった。
《神谷悠真》
《また》
悠真は目を少し見開いた。
「……うん」
《また》
通信が切れた。
*
船団との距離が開いていく。人類側監視部隊は、これ以上追わない。事前に決めた監視限界点。
『全機、反転』
二等空佐。
「了解」
悠真は一号機の機首を地球へ向ける。その前に、一度だけ後ろを見る。ヴァルク船団。まだ見える。センサーを使えば、一隻一隻確認できる。だがもう追わない。
「行っちゃったな」
『そうだな』
「ちゃんと着くかな」
『分からん』
「ですよね」
『だが、行くと決めたのは向こうだ』
「うん」
一号機が反転する。地球。青い小さな球。数か月前、あれを奪い合っていた。今はもう違う。
*
帰還した悠真が翌日学校へ行くと、亮太がすぐに寄ってきた。
「見えた?」
「めちゃくちゃ見えた」
「どんなだった?」
「多かった」
「それニュースでも言ってた」
「本当に多かったんだよ」
「百二十億だもんな」
「うん」
授業開始のチャイムが鳴る。二人とも席へ戻る。亮太が小声で聞いた。
「寂しい?」
悠真は少し考えた。
「分かんない」
敵だった。何度も殺されかけた。こちらも殺した。地球を奪おうとした相手だ。許したわけでもない。忘れることもない。それでも。
「無事に着けばいいとは思う」
「そっか」
それで会話は終わった。教師が教室へ入ってくる。
「教科書開け」
悠真も開く。窓の外は、いつもの空だった。
*
ヴァルク船団は、その後も観測され続けた。一日。三日。一週間。距離が伸びるにつれて通信遅延も増えていく。
最初は会話ができた。やがて返答に時間が必要になった。それでも定期的な航行データは届いていた。
《航行正常》
《船団損失なし》
《別候補星航路 継続》
いずれ通信には何時間もかかる。何日もかかる。そして恒星間航行が進めば、返事を待つ単位は年になる。
もしヴァルクが次の星へ無事到着すれば、その知らせが地球へ届くのは数十年後かもしれない。
その頃、神谷悠真が何をしているのかは、誰にも分からない。だが人類には、彼らから渡された恒星の地図が残った。長距離生命維持技術が残った。恒星間航行の理論が残った。小惑星から資源を得る方法が残った。そして何より、宇宙には別の文明がいると知った。
ヴァルク船団は、ゆっくりと太陽から遠ざかっていく。明日もまだ観測できる。来月も、おそらく観測できる。だが、その先は少しずつ遠くなる。かつて宇宙から来た者たちを、人類は恐れた。今、その者たちは地球から去っていく。
そしていつか。今度は人類が、その先へ向かうかもしれない。
*
その日の夕方。基地の格納庫では、鹵獲一号機の電源が落とされていた。整備員たちは作業を終え、誰もいない。暗くなった操縦席。すべての始まりとなった機体。
そのモニターの一つだけが、待機電力でまだ生きていた。
《航行識別信号 受信》
ヴァルク船団から届く識別信号。数秒ごとに更新される。受信強度が少しずつ下がっていく。
誰も見ていない。やがて表示が一度だけ点滅した。
《航行識別信号 受信範囲外》
それから画面は暗くなった。その瞬間に気づいた者は、誰もいなかった。




