第十四話 白い狐の一人語り
私が師匠に破門されてもう六年が経った。
破門の理由はごろつきを懲らしめるという依頼内容から逸脱したからだ。
私は確かに対象本人、および妻子を殺害したが、今でも間違っていたとは思わない。あんなクズが父親である以上、その子供がまっとうな人生を送れるはずがない。
ましてや無法者が跋扈する暴力的なこの街でまともに生きることなど容易ではないはずだ。周りに虐げられた者は歪み、他人を憎んで必ずや悪行に手を染めることだろう。依存的な妻の方もまともな男を選べない時点でろくな人生は歩めまい。
どうせ自滅するならば、この手で楽にしてやるのが情けと思っただけのこと。
とはいえ、破門は受け入れるつもりであった。
この手の腱を斬られるつもりだった────だが、師匠が斬りかかった瞬間、私は咄嗟に鞘から刀を抜き放ち、相手の脇を斬り払って逃げ出していた。
今思えばようやく手にしかけていた力を失いたくなかったのだろう。妖人街で武力無き者は食い物にされ、最悪の場合は命も奪われる。
私は生存本能によって抵抗し、師匠の元から出奔したのだ。
当時、私の剣術は発展途上だったが生き延びるだけの力はあるという自負はあった。
だが、所詮は世間知らずで無知な十四歳の小娘に過ぎなかった。剣の腕はあっても生意気で何のツテもなく、モノノフとしての仕事を誰からも斡旋してもらえない日々が続いた。
雪が舞うほどに冷え込んだ夜、どうしても寒さと空腹に耐えきれず、宿に上がってこの身を好きでもない男に抱かせて日銭を稼いだ時もあった。
それでも必死に各組の仕事斡旋担当者に頼み込んで仕事をもらえるようになり、実績を積むうちに向こうから重要な案件が舞い込むようになっていった。
少しだけ天狗になっていたのか、実力的に難しい依頼に飛びついてしまったのがまずかった。結果は惨敗だったが命からがら生き延び、西街城壁外の海岸線の岩場に逃げこんだ。身を隠す場所を探しているうちに意識を失ってしまった。
目覚めた時、私は西街の地下労働区の居住区にいた。
地下は地下水路で繋がっており、海岸線に排水トンネルの出口があったようだ。
排水トンネルの点検と修理を任されていた労働者たち数名が私を発見し、連れ帰って助けてくれた。
労働者たちは自分たちも貧しい中、よそ者の私に食事や寝床を分け与え、傷の手当てをしてくれたのだ。
私は何の見返りを求めず、人助けをする彼らに驚かされた。自分には到底、真似できない生き方に感服し、地下労働区を去った日に「いつかは借りを返そう」と心に誓ったものだ。
再起した私は東街の天狐組組長に気に入られ、右腕として活躍するようになった。組織内において瞬く間に地位と財力を得て、地下労働区の支援を申し出た。これは慈善からではない。自分が彼らに受けた恩をないがしろにすることで生じる罪悪感に苦しみたくないからだ。それに四大勢力というこの街の腫瘍を排除するには、こういった貴族に不満を抱く強制労働者たちを革命軍に仕立て上げることは重要だと考えた。
私の野望はこの街で独裁政権を築き、機械的に民衆を正しく管理することである。私情や私欲を殺さねば秩序ある世界は成立しない。
しかし、それも一時的なもの。私は新たに出現するであろう強者に悪として討たれることを望んでいる。この街の住民にとって共通の敵となれば団結力が生まれるはずだ。誰かに管理を委ねず、住民一人一人が協力して国を築き上げようという意識変革が起きると信じている。
このためには妖人街を一度灰にしなければならない。そこで四大勢力同士が結んだ休戦協定を破棄させ、大戦を勃発させるという計画を思いついた。
その前段階として戦争に否定的だった天狐組の組長を殺害し、私自身が支配者として実権を握った。南街の伊佐々王組、西街の陰摩羅鬼組をそそのかし、秘密裏に同盟を結んで打倒鬼神組という流れを作った。
だが、まさか私の妹が一人で伊佐々王組と陰摩羅鬼組を短期間で壊滅させるとは思わなかった。嬉しい誤算だ。それでこそ我が妹。死線をくぐってきたものだけが見せるいい顔つきになってきた。それでも修業が足りない。もっと強くなって私を越えて欲しい。
そうでなければ……そうでなければ……間に合わない。
もう、私には時間がないのだから……。




