第九話 「終点」
ガタン……ゴトン……。
列車は闇のトンネルを走り続ける。
車内には重い沈黙が広がっていた。
顔のない乗客たちは、全員こちらを向いている。
誰一人瞬きしない。
カイは座席を握り締めた。
「……なんなんだよ、こいつら」
返事はない。
ただ、じっと見ている。
その時。
車内アナウンスが再び流れた。
『生存率を確認します』
全員のスマホが同時に震える。
【現在生存率】
朝霧カイ 18%
羽川木更 ???
その他生存者 3〜11%
「18……?」
低すぎる。
木更の表示だけ“???”になっているのも異常だった。
カイが彼女を見る。
「なんであんただけ……」
木更は答えない。
代わりに、窓の外を見ていた。
真っ暗なはずのトンネル。
だが時々、“何か”が並走している。
白い人影。
逆さまに天井を這いながら、列車と同じ速度で追いかけてくる。
「見るな」
木更が小さく言った。
「窓の外を長く見ると、認識される」
その瞬間。
向かいに座っていた男が、震える声で呟く。
「……誰かいる」
男は窓へ顔を近づけていた。
外の闇。
そこに。
女の顔が浮かんでいた。
窓のすぐ外。
真っ白な顔。
目だけが異常に大きい。
女はニタァッと笑った。
「っ!?」
男が悲鳴を上げた瞬間。
窓の外から大量の手が伸びる。
バキバキバキッ!!
ガラスが割れた。
冷たい風が吹き込む。
白い腕が男を掴む。
「助け――!!」
ズルッ。
一瞬で男は窓の外へ引きずり出された。
列車は止まらない。
外から、男の絶叫だけが遠ざかっていく。
車内は静まり返った。
誰も助けられなかった。
そして。
顔のない乗客たちが、ゆっくり立ち上がる。
ギギ……。
関節がおかしい動き。
全員同時。
スマホ通知。
【警告】
車内に“非生存者”を確認しました。
「非生存者……?」
その時。
一番近くの乗客の顔に、亀裂が入った。
ベキッ。
顔の表面が割れる。
中から現れたのは。
大量の“目”だった。
「う、うわぁぁぁ!!」
生存者たちがパニックになる。
次々と乗客の顔が裂ける。
無数の目。
無数の口。
車内いっぱいに、笑い声が響いた。
ケタケタケタケタ――!!
木更が短刀を抜く。
「カイ!!」
「次の停車駅で降りる!」
「この列車に長くいたら、人間じゃなくなる!」




