第八話 「到着する列車」
ゴォォォォォ――。
暗い地下空間に、列車の走行音が響く。
七番ホームへ、ゆっくり“それ”が入ってきた。
古い車両。
真っ黒な車体。
窓の内側は見えない。
なのに。
中から無数の人影だけが揺れていた。
「……なんだ、あれ」
カイの声が震える。
ホーム前に立つ担任教師は、首を傾けたまま笑っている。
「乗らないのか?」
声は確かに担任のものだった。
だが。
抑揚が変だ。
まるで誰かが真似しているみたいに。
木更が低く呟く。
「模倣者じゃない……」
「もっと別の何かよ」
列車が停止する。
プシューッ――。
ドアが開いた。
その瞬間。
ホームの空気が変わる。
冷たい。
異常なほど。
生存者の一人が震えながら後退した。
「無理だ……こんなの……」
だがスマホ通知が鳴る。
【ミッション更新】
列車へ乗車してください。
制限時間:3分
「ふざけんな……!」
誰かが叫ぶ。
「乗ったら終わりだろ!!」
すると担任教師が笑った。
ケタケタケタ……。
人間じゃない笑い方。
「乗らない方が終わりだぞ?」
その瞬間。
後方の暗闇から、大量の白い影が現れた。
模倣者。
天井、壁、通路。
びっしりと張り付いている。
しかも。
全員の顔が違う。
消えた人間たちの顔だった。
「……っ」
カイは息を呑む。
その中には。
さっき消えたスーツの男もいた。
女子高生も。
全員、笑っている。
木更が拳銃を構えた。
「選びなさい」
「列車か、あいつらか」
次の瞬間。
模倣者たちが一斉に跳んだ。
「走れ!!」
木更が叫ぶ。
生存者たちは列車へ飛び込む。
カイも必死に車内へ滑り込んだ。
直後。
ドアが閉まる。
ガン!!
白い腕が窓へ叩きつけられる。
無数の顔。
笑い声。
ケタケタケタケタ――!!
列車が動き出す。
地下ホームが遠ざかっていく。
誰も喋れなかった。
車内は静かすぎた。
乗客がいる。
だが全員、俯いている。
顔が見えない。
カイは嫌な汗を流した。
「……木更」
小声で呼ぶ。
木更は険しい表情のまま、車内を見渡していた。
「この列車……普通じゃない」
その時。
車内アナウンスが流れる。
『次は――終点』
ノイズ混じりの女の声。
『生存者選別区域へ到着します』
その瞬間。
俯いていた乗客たちが、一斉に顔を上げた。
全員。
顔がなかった。




