第六話「夜の巡回者」
カツ……カツ……カツ……。
地下通路の奥から響く足音。
一つではない。
何十人もの靴音が、暗闇の向こうから近づいてくる。
生存者たちの顔から血の気が消えた。
「な、なんだよあれ……」
「静かに」
羽川木更が低く言う。
彼女は拳銃を構えたまま、暗闇を睨んでいた。
地下鉄の非常灯が、不規則に点滅する。
赤。
黒。
赤。
そして。
“それ”が現れた。
全員、黒いコートを着ていた。
顔は見えない。
深くフードを被り、手には古いランタンを持っている。
だが、一番異常なのは――。
全員の動きが完全に同じだった。
右足。
左足。
首を傾ける角度まで。
まるでコピー。
スマホに通知が表示される。
【危険存在】
《夜の巡回者》
目を合わせないでください。
見つかった場合、回収対象になります。
カイは反射的に目を逸らした。
だが一人の生存者が、恐怖で動けなくなっていた。
スーツ姿の若い男。
「た、助けてくれ……」
巡回者の一体が、ゆっくり顔を上げる。
フードの奥。
そこには顔がなかった。
真っ暗な穴だけ。
男が悲鳴を上げる。
その瞬間。
巡回者たち全員が、一斉に男の方を向いた。
「やば――」
次の瞬間。
ブツン。
男の姿が消えた。
音もなく。
本当に“存在ごと”。
その場にはスマホだけが落ちていた。
沈黙。
誰も動けない。
カイの呼吸が浅くなる。
「なんなんだよ……こいつら……」
木更が小さく答える。
「区域の処理係よ」
「ルール違反者を消す」
巡回者たちは、再び同じ動きで歩き始める。
カツ……カツ……。
通路を横切り、そのまま暗闇へ消えていった。
完全に見えなくなるまで、誰も声を出さなかった。
やがて。
一人の女子高生が泣き崩れる。
「もう無理……帰りたい……」
その言葉に、生存者たちの不安が一気に溢れ出した。
「政府は何してるんだよ!」
「救助は!?」
「このまま死ぬのか!?」
怒号。
泣き声。
混乱。
その時。
地下通路の奥から、“笑い声”が聞こえた。
ケタケタケタ……。
全員が凍りつく。
暗闇の中。
白い顔が浮かんでいた。
模倣者。
しかも一体じゃない。
十数体。
天井や壁に張り付きながら、人間の笑い声を真似している。
木更が舌打ちした。
「……囲まれた」
スマホに新たな通知。
【生存ミッション開始】
地下鉄七番ホームへ到達してください。
制限時間:30分
その直後。
通路のシャッターが次々と閉まり始めた。
ガン!! ガン!! ガン!!
逃げ道が塞がれていく。
そして最後の通知。
【失敗した場合】
全員、回収します。




