表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

第五話 「疑心」

地下鉄旧路線。


湿った空気が肌にまとわりつく。


カイは生存者たちの視線を感じていた。


誰も喋らない。


ただ互いを監視している。


壁の赤文字。


『この中に模倣者がいる』


その言葉だけで、この空間は壊れていた。


「……全員、落ち着いて」


低い声で言ったのは羽川木更だった。


彼女は拳銃を腰へ戻し、生存者たちを見渡す。


「模倣者は“恐怖”を利用する」


「疑い始めたら終わりよ」


すると、奥にいた中年男が怒鳴った。


「そんなこと言って、お前が偽物かもしれねぇだろ!」


空気が張り詰める。


男は汗を流しながら木更へ指を向けた。


「急に現れて、化け物のこと知りすぎなんだよ!」


「……」


木更は何も答えない。


代わりに、静かに男を見る。


その目に感情はなかった。


「質問がある」


木更が言う。


「さっき地上から逃げてくる時、お前はどこにいた?」


「……は?」


「模倣者は地下へ入る直前、一度人混みから消えた」


男の顔色が変わる。


「知らねぇよそんなの!」


「じゃあ右手を見せろ」


その瞬間。


周囲がざわついた。


男は一歩下がる。


「なんでだよ……」


「見せろ」


木更の声は冷たい。


男は震えながら右手を出した。


その手の甲には。


赤い線のような模様が浮かんでいた。


誰かが息を呑む。


「な、なんだそれ……」


男自身も気づいていない顔をしていた。


木更が銃を抜く。


「離れろ」


「待て……! 違う! 俺は人間だ!!」


男が叫ぶ。


その瞬間だった。


グギッ。


男の首が、不自然な方向へ曲がった。


「――え?」


骨の音。


次の瞬間。


男の口が耳元まで裂けた。


ケタケタケタッ!!


人間じゃない笑い声。


「下がれ!!」


木更が発砲する。


バン! バン!


弾丸が男の肩を吹き飛ばす。


だが、男――いや模倣者は止まらない。


四つん這いで天井へ跳びついた。


「うわあああっ!!」


生存者たちが悲鳴を上げる。


模倣者は天井を蜘蛛みたいに這い回り、ニタニタ笑っていた。


その顔は。


さっきまで普通の人間だった男のまま。


「なんで……」


カイは言葉を失う。


昨日まで人間だったものが、化け物へ変わっている。


木更が低く呟く。


「感染が始まってる……」


次の瞬間。


地下通路の奥から、サイレンのような音が鳴った。


ウゥゥゥゥゥ――。


全員のスマホに通知。


【区域内危険度上昇】


“夜の巡回者”が地下へ侵入しました。


空気が凍る。


木更の表情が初めて変わった。


「最悪ね……」


暗い通路の奥。


何かがこちらへ歩いてくる音がした。


カツ……カツ……。


一つじゃない。


大量だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ