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第三話 「模倣者」

ガチャ……ガチャ……。


ドアノブがゆっくり揺れる。


「カイ……開けて……」


母親の声。


だが、どこかおかしい。


息遣いがない。


感情がない。


録音を流しているみたいだった。


カイは後ずさる。


スマホを握る手が汗で滑った。


電話の男が低い声で言う。


『返事するな』


『声を覚えられる』


「……っ」


カイは必死に口を押さえる。


外の“何か”は、しばらく黙っていた。


そして突然。


「朝霧カイ」


今度は、自分の声だった。


背筋が凍る。


『もう学習したのか……早いな』


男の声がわずかに焦る。


ドアの向こうの存在は、カイの声で続ける。


「開けろ」


「開けろ」


「開けろ」


同じ抑揚。


同じ声。


なのに、人間じゃない。


ガン!!


突然、ドアが激しく揺れた。


「っ!?」


チェーンが軋む。


普通の人間の力じゃない。


スマホ画面に、新たな通知。


【危険存在を確認】


《模倣者》


音声・行動・記憶を学習します。


長時間接触しないでください。


さらに下に、小さな文字。


《完全模倣まで残り:17分》


「完全模倣……?」


『そいつは人間になり替わる』


男が言った。


『家族も友達も見分けられなくなる』


カイの喉が鳴る。


「なんなんだよ……これ……」


『知らん。だが区域が始まってから現れた』


その時。


廊下から別の悲鳴が聞こえた。


「助けてぇぇぇ!!」


ドン! ドン!!


誰かが階段を駆け下りていく。


直後。


叫び声が途切れた。


そして静かに、“笑い声”だけが響く。


ケタケタケタ……。


人間の声を真似した、不気味な笑い。


カイは震えながらカーテンの隙間を見る。


外の道路。


黒い霧の中を、何人もの“白い人影”が歩いていた。


全員、顔がない。


なのに。


全員がスマホを持っていた。


その画面の光だけが、闇の中で揺れている。


スマホにコメントが流れる。


「夜の巡回始まった」


「見つかったら増えるぞ」


「もうマンション内入ってる」


「増える……?」


次の瞬間。


廊下で。


「見ぃつけた」


カイ自身の声が聞こえた。


ガンッ!!!


ドアが大きくへこむ。


チェーンが半分外れる。


『まずいな……』


男が低く言う。


『お前、今すぐ部屋を捨てろ』


「は……?」


『そこはもう安全じゃない』


ガン!! ガン!!


ドアが壊れ始める。


木片が飛ぶ。


隙間から、“白い指”が入り込んできた。


異様に長い指。


関節が逆に曲がっている。


『地下へ行け』


『地下鉄の旧路線だ』


『生き残りが集まってる』


「なんで助けるんだよ……!」


数秒の沈黙。


そして男は言った。


『――弟が、お前と同じ高校だった』


直後。


ドアが完全に破壊された。


白い顔のない存在が、ゆっくり部屋へ入ってくる。


だが。


その“顔のない頭部”には。


カイの顔が、少しずつ浮かび始めていた。

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