第二話 「ルール」
顔のない“それ”が、配信画面の向こうで笑っていた。
カイの呼吸が止まる。
「……なんだよ、これ……」
コン……コン……。
窓を叩く音は続いている。
スマホのコメント欄が高速で流れた。
「見るな」
「カーテン開けたら終わる」
「音立てるな」
「そいつ耳いいぞ」
「誰なんだよお前ら……!」
思わず叫びそうになった瞬間。
画面に赤文字が表示された。
【警告】
大声を検知しました。
部屋の空気が凍る。
窓を叩く音が止まった。
静寂。
そして次の瞬間――
ドン!!!
窓ガラスが激しく揺れた。
「っ!?」
“何か”が外側から張り付いている。
カーテン越しでもわかる。
人間の形じゃない。
細長い腕。
異様に長い指。
ガリガリガリ……。
爪がガラスを削る音。
カイは口を押さえて後ずさった。
スマホに新しい通知。
【生存ルール No.1】
夜間(0:00〜4:00)は窓を見ないこと。
さらに続けて。
【違反者は回収対象になります】
「回収ってなんだよ……」
その時、別の通知が入る。
送り主は――母親。
『カイ!! 外に変なのいる!! 開けないで!!』
直後。
マンションの廊下から悲鳴が響いた。
「いやあああああっ!!」
ドタドタドタ!!
誰かが走っている。
何かから逃げるように。
そして。
ピタッ。
音が止まった。
数秒後。
ズル……ズル……。
重いものを引きずる音だけが聞こえてきた。
カイの全身に鳥肌が立つ。
スマホのライブ配信は続いていた。
コメント欄。
「終わった」
「あれは助からない」
「次、お前の階かもな」
「ふざけんな……!」
カイは震える手で配信を閉じようとする。
だが閉じられない。
すると突然、画面が切り替わった。
街の上空映像。
黒い霧に覆われた市内。
その各地に、赤い点が表示されている。
点が一つ、また一つ消えていく。
まるで“人が死ぬたび”に。
そして中央に数字。
生存者数:12,487
「……は?」
多すぎる。
この街全体が封鎖されている。
その時。
スマホが震えた。
知らない番号から着信。
恐る恐る出る。
「……もしもし」
『生きてるなら聞け』
低い男の声だった。
『朝まで絶対に外へ出るな』
『あと、“声を真似する奴”が来てもドアを開けるな』
「……え?」
『そいつらは、人間の声を覚える』
直後。
部屋の外から。
母親の声が聞こえた。
「カイ……開けて……」
血の気が引く。
あり得ない。
母親は今、仕事で県外のはずだ。
「寒いの……お願い……」
ドアノブが、ゆっくり回った。
ガチャ……。
電話の男が小さく呟く。
『――来たか』
廊下の向こうで、“何か”が笑った。




