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第二章 橋城(きょうじょう)での邂逅と…… 第三話 決意

第三話 決意


  橋の中央にそびえる城は、立ち込める霧をその身に背負う、巨大な石の塔だった。

  城門の前では、防菌と防湿を兼ねた厚手のマントを纏った兵士たちが、

  微動だにせず待ち構えていた。


  「ベルモンド殿、お待ちしておりました。セイラン侯がお通しするようにと」

  「おう。無事伝書鳥が着いたようだな。……こっちの若造と、まあ、いろいろ連れてきた」

  「若造に、いろいろって……」

  ショウが小声で不満を漏らすと、兵士は彼をまじまじと見つめ、驚いたように眉を上げた。

  「その若者……どこかで……いや、まさか」

  「気にすんな。こいつは『橋の子』だ」

  「橋の子……?」

  聞き慣れない呼称にショウは首を傾げたが、

  ベルモンドはそれ以上語ることなく、重い足取りで城内へと踏み込んだ。


  城の大広間は、静寂そのものだった。

  窓から差し込む光の柱にさえ、意志を持ったかのように霧がまとわりつき、

  空間全体が白く霞んでいる。

  その中央に、白髪を蓄え、威厳あるマントを翻して立つ男がいた。

  この地を統治する、セイラン侯だ。


  「よく来てくれた、ベルモンド殿。そして、そちらの若者が――橋の子か」

  「えっ」

  再び聞き覚えのない肩書きで呼ばれ、ショウは戸惑う。

  だが、セイラン侯は彼に歩み寄り、深く、重々しく頭を下げた。

  「君が来てくれたことに、心から感謝する。……『霧廻りの大橋』が叫んでいるのだ。

   あなたの力が必要だ」


  その言葉に反応するように、ショウの肩でアララが激しく震え出した。

  「……叫んでる。苦しそうに、喉を焼かれるみたいに……! だけど!?」

  「アララ……!」

  ショウは堪らず、周囲の目も憚らず、隣にある「虚空」を強く抱きしめた。

  セイラン侯は一瞬目を見開いたが、すぐに悟ったような悲しげな目を向け、

  ベルモンドは苦々しく吐き捨てた。

  「……やっぱりか。もう、限界なんだな」


  広間に差す光は、先ほどよりもさらに霧を深め、鈍い灰色に澱んでいく。

  セイラン侯は逆光の中に佇み、深い憂いを帯びた瞳でショウを見つめた。

  「霧が濃すぎるのだ。本来、橋精が霧を調整し、

   橋獣が流れを受け止めることでこの地の均衡は保たれる。

   だが今は――どちらの気配も、あまりに薄い」

  「……声が、聞こえないの。橋が、無理やり眠らされてる……」

  耳元で響くアララの呟きに、ショウの心臓がドクリと跳ねた。

  「橋が、眠る」

  なぜかその言葉が、ずっと昔から知っていたことのように胸に突き刺さる。


  「やはり、あなたにもそう感じられるか。

  橋精の沈黙は不自然だ。何者かに封じられているとしか思えぬ」

  セイラン侯はベルモンドに向き直った。

  二人の間には、領主と職人という壁を超えた、

  長年の仕事仲間としての信頼と気安さが漂っている。

  「ベルモンド殿……タケル殿が最後に残した言葉を覚えているか?」

  その名が出た瞬間、ショウの脳裏に鋭い痛みが走った。

  「タケル……?」

  「……『守ってくれ』、だろ」

  ベルモンドが重々しく頷く。

  「彼はこの大橋の調査中に姿を消した。

   その直前、橋の奥から『声』が聞こえると……そう言い残していたのだ」


  「……ミオ……?」

  不意に、アララがかすれた声で零した。

  「ミオ? アララ、今なんて言ったんだ?」

  問い返すショウに、アララは自分の胸をぎゅっと押さえ、

  震える指先を握りしめたまま、力なく首を振った。

  「……わからないの。でも、何かが胸の中で騒いでるの」


  セイラン侯は、意を決したようにショウの目を見た。

  「あなた方に頼みたい。霧廻りの大橋の奥底へ入り、

   そこで何が起きているのかを確かめてほしいのだ。

   このままでは、都も、橋も、すべて霧に呑まれて消えてしまう」


  ショウは隣のアララを見た。

  アララの緑の瞳には、底知れない不安と、それを上回る強い決意が宿っていた。

  ショウは向き直り、力強く頷いた。

  「お受けします。俺の……俺たちの知識と道具が、役に立つのなら」

  「若造、覚悟しとけよ」

  ベルモンドが槌の柄を叩き、不敵に、しかしどこか慈しむように言った。

  「あそこは……ただの石の塊じゃねえ。生きてる化け物の腹の中を行くようなもんだからな」


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