第一章 異世界転移と邂逅 第2話:吊り橋建設
「(アララ、ありがとう)」
「えへへ……がんばった!」
「(アララ……やりすぎ……)」
「えへへ……がんばった!」
昨日あらかじめ村長とベルモンドに依頼して、総出で編み上げた
腕ほどもある太い麻縄が完成した
「……縄だと? 若造、正気か
馬車を、ましてや人をそんな『頼りねえ細いもん』の上に載せようってのか」
ベルモンドが、ショウの提案した「吊り橋」の設計図を指差し言った
村人たちも不安げに顔を見合わせる。
「そうですよ、ショウさん。橋ってのは、太い柱があって、どっしり構えてなきゃ……」
ショウは、愛用の『魔力強化型レーザー距離計』を構え
対岸に向けてボタンを押した。
「ベルモンド、皆さん
橋の強さは『太さ』じゃありません
『力の逃がし方』なんです」
ピッと音が響く
本来なら赤い点が見えるだけの道具から
一条の輝く光の帯が対岸へと伸びた
驚くべきことに
その光は空気中の湿気や風の流れを可視化し
揺らぐことのない一本の「道」を空中に描き出したのだ。
「今の橋は、川の力に真っ向から逆らって、足元をすくわれた
でも吊り橋は違う
このメインケーブルが
重さをすべて両岸のアンカーに逃がす
いわば、大地そのものを力に変える橋なんです」
ショウの理路整然とした
それでいて、キラキラした目で語る熱い説明に
村人たちは毒気を抜かれた。
「……理屈はわからんが、その『光の道』は嘘じゃなさそうだな」
ベルモンドが渋々頷いた
「……まあいい。で、どうやって渡すんだ?
対岸に行けなきゃ橋は架からねえぞ」
ショウは地面に図を描く。
「まず細い糸を対岸に渡す
それを使って太い縄を引っ張る
橋脚を川に立てる必要がないんだ」
ショウは鞄から、極細の透明な糸を取り出した。
ナイロン製の“先導糸”だ。
「まずはこの糸を対岸に渡す。
これが吊り橋の最初の一歩だ」
「こんな細い糸で……?」
「これで十分。あとで太い縄を引っ張る“道”になる
あと、今から俺の言うことを、紙に書いてくれませんか」
そうして、書いてもらった紙と糸を矢に結び
あらかじめ、選んでおいた弓の得意な村人に渡す。
「対岸の木の根元を狙って。
風が強いから、少し左に――」
アララがショウの肩にふわりと浮かぶ。
他の誰にも見えない。
「ショウ、風いま右に流れてるよ。
もうちょっと左!」
「(アララの言う通りに……)
もう少し左です!」
「な、なんでわかるんだ……?」
矢が放たれた。
最初は届きそうにない軌道だったが――
「……風、押して!」
ふわりと風が矢を後押しし、
矢は急に勢いを増して対岸へ飛び、
木の幹にしっかり突き刺さった。
村人から歓声があがる。
「お、おおおっ!!」
「……今の、どう考えても普通じゃねえ」
「(アララ、ありがとう)」
「えへへ……がんばった!」
「アララ、対岸の人を呼べるか?
メインケーブルを引くには、向こうの人手が必要なんだ」
アララの瞳がぱっと輝く。
「ショウの役に立てるの!?
やる! やる!!」
「(そんなに……?)
頼むよ、アララ」
「まかせて!!」
アララが両手を広げると――
光の粒子がふわりと飛び散り、
小さなアララが、ぽん、ぽん、ぽん、と何人も生まれた。
もちろん、ショウ以外には見えない。
「(分裂した!?)」
「おい若造、何をぶつぶつ言ってんだ?」
「い、いや……なんでも……」
小アララたちは一斉に対岸へ飛んでいく。
アララ(本体)が小アララに指示を出す
「みんなー! 村の人を連れてきてー!」
「はーい!」
やがて、対岸では――
「うわっ!? なんだ風が!? 足が勝手に……!」
「ちょ、ちょっと待て! 押すな押すな!!」
「転ぶ転ぶ転ぶ!!」
小アララたちが起こす風に押され、
対岸の村人たちが転びそうになりながらも
強制的にこちらへ連行されてくる。
ベルモンドが、ショウをうろんな目で見ながら言う
「なんだあいつら……?
何かに追い立てられるみたいに」
「(アララ……やりすぎ……)」
「えへへ……がんばった!」
アララは、どこ吹く風だ
紙に書いた指示通りに、対岸の村人総出で
先導糸で繋がれた太縄を対岸まで引っ張る
その綱を大木にしっかり縛り付ける
そして根元の岩に固定する
太いメインケーブルがしっかりと固定された。
「よし、メインケーブルが通った!これで橋の骨格が作れる!
次は、対岸の基礎固めだ
誰かが向こうに渡ってあちら側の連中を動かさなきゃならない」
ショウの言葉に、全員の視線がベルモンドに集中した。
「……おい。まさか、俺か?」
「石の基礎を打てるのは、あんたしかいない
大丈夫、計算上、今の縄でも象三頭分は耐えられます」
「象ってなんだよ。わけのわからんことでごまかすなよ!」
それでも、しぶしぶ太縄にまたがり、両手で縄を掴んで前へ進む。
「おい若造! 揺れるじゃねえか!!」
「揺れるのが正しいんだって!」
アララが聞こえないのに声援を送る
「おじちゃん、がんばれー!」
「……って、なんで風が押してくんだ!!」
「(アララ、風は押すんじゃなくて支えるんだ!)」
「わかった!」
ベルモンドは悪態をつきながらも、
確実に前へ進み、対岸に到達した。
「……着いたぞ!!」
村人たちが、分けのわからん歓声をあげる
「おおおおお!!」
「なんだよ、おまえらなんもしてねだろうが!」
しかし、ベルモンドはすぐに職人の顔になる
「……おい、野郎ども!
見てねえで手を貸せ!
今からこの岩を、世界一頑丈なアンカー(重石)に作り変えるぞ!」
本格的な工事が始まった
ショウが『魔力強化型・野帳』にペンを走らせると
描かれた図面が空中にホログラムのように浮かび上がった。
「皆さん、この光の線に合わせて板を並べてください!
風を通すために、あえて隙間を作るんです。それがこの橋の『肺』になります!」
精霊の力と、現代の知恵
そして、それを見事に具現化する職人の腕
3日目の夕暮れ
沈みゆく太陽の光を受け
川の上に一本の美しい「虹」が完成した。
「……できた。これが、俺たちの吊り橋だ」
ショウが呟く
それは、これまでの異世界には存在しなかった
繊細で、幾何学的で、それでいて力強い姿をしていた
「よし……最後だ。ベルモンド、頼んだぞ」
ベルモンドは、荷物を満載した自分の馬車の手綱を握り、橋の入り口に立った。
「ショウ、しっかり支えてろよ」
馬車がゆっくりと、最初の一歩を床板に乗せる。
ギシッ……。
心地よい木の軋み音
だが、橋はほとんど揺れない。
馬車が進むにつれ、メインケーブルがピンと張り
ショウが計算した「斜材」が、すべての衝撃を分散させていく
馬車が対岸へと渡りきり、ベルモンドが力強く拳を突き上げた。
「――渡った! びくともしねえぞ、この橋!」
その瞬間、息を呑んで見守っていた両岸の村人たちから
地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「うおおおおお!」
「すげえ、本当に架かっちまった!」
「ショウさん! ベルモンドさん! 万歳!」
歓喜の渦の中で、ショウは愛用の距離計をそっと鞄にしまった。
横では、アララが自分のことのように飛び跳ねて喜んでいる。
「ショウ、やったね! 橋、生きてるよ! 笑ってるよ!」
ショウも、これまでの橋のように、深い達成感を味わっていた
しかし、いつもと違い
なぜか、その中に澱のようなものがあるのを感じて
喜びを爆発させることができなかった
橋一言
「その橋を渡る“誰か”のために。」




