第二章 橋城(きょうじょう)での邂逅と…… 第十二話 セイラン侯との密談
橋脚の崩落を防ぎ、ガランを解放した翌日。
ショウたちはセイラン侯の私室へと案内された。
厚い扉が閉じられると、
外の喧騒はすっと遠ざかった。
部屋には侯とショウたち三人だけ。
護衛の姿すらない。
セイラン侯は深く息を吐き、静かに口を開いた。
「まずは礼を言わせてほしい。
ガランを救い、橋脚の崩落を防いでくれたこと。
あれは我々の力では到底成し得なかった」
ショウは首を振った。
「俺たちは……できることをしただけです」
侯はわずかに笑みを浮かべたが、すぐに表情を曇らせた。
「だが問題は、なぜあのような事態が起きたかだ。
そして、それが南の大陸だけの問題ではないということだ」
胸の奥がざわつく。
「どういうことですか?」
侯は机の上に置かれた黒焦げの金属片を指さした。
昨日、橋脚の奥で見つかった魔道具の残骸だ。
「これは我々の技術ではない。
そして他の大陸でも、橋精たちの『つながりの断絶』が起き始めている」
ショウは息を呑んだ。
「橋精たちが……?」
「完全に消えたわけではない。
だが、川の理が乱れ始めている。
このままでは、他の橋城も同じ運命を辿るかもしれん」
ショウは拳を握りしめた。
「南大陸の事件は、広がっているんですね」
侯は重く頷いた。
「もしここが実験だとすれば、本番は別にある。
だが、川の理が複数の領地で乱れている以上、
どの橋城が狙われているのか判断できん」
背筋に冷たいものが走る。
「だから、俺たちに残りの橋城を調べてほしい……そういうことですか」
「その通りだ。
そなたたちなら、橋精の異変を感じ取れる。
精霊アララと、橋獣ガランも――」
「セイラン侯! それは……!」
ショウが慌てて口を挟む。
ベルモンドが首をかしげた。
「嬢ちゃんは分かるが、ガランは行けねえだろ?
ここの大橋の橋獣なんだからよ」
「あ、ああ……そうだったな。
私としたことが……」
セイラン侯は口元を覆い、笑いをこらえているようだった。
「そういえばベルモンド殿、精霊アララが見えるようになったとか」
「そうなんだよ。なんでなのか……それも俺が素っ裸の時によ――」
突然、風がベルモンドに吹きつけた。
「うわっ!? な、何すんだ嬢ちゃん!」
「ベル爺、いやらしい」
ショウは慌てて話を戻した。
「セイラン侯、続きをお願いします」
侯は咳払いし、机に広げた書簡を示した。
そこには各地の橋城や古代の大橋だけでなく、
領地内の橋で起きている“霊力の減退”や
“不審な職人の出入り”が記されていた。
「数年前、ここに現れたゾディックと名乗る職人は、
我が領を去った後、東へ向かった形跡がある」
侯は地図上の三つの大都市を指差した。
東の『渦水鎮橋城』
西の『鉄鋼橋城』
北の『氷晶橋城』
「だからこそ、ショウ。
残り三つの橋城を巡り、異変を探ってほしい」
ショウは迷わなかった。
「行きます。
タケルさんが命をかけて守ろうとしたものを
俺が繋ぎます」
アララがしっかり頷く。
ベルモンドは鼻を鳴らした。
「ま、しゃあねえな。
どうせ放っときゃ、またどっかで橋が壊れちまう。
だったら俺が見てやるよ」
侯は深く頷いた。
「頼んだぞ。
この大陸の未来は、お前たちにかかっている」
ショウは立ち上がり、扉へ向かった。
「行こう。次の橋城へ」
アララがふわりと浮かび、
ベルモンドが槌を担ぎ、
ガランの気配が静かに寄り添う。
三人と一橋獣の旅が、静かに動き出した。




