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第二章 橋城(きょうじょう)での邂逅と…… 第八話 扉を開くとき

ベルモンド、その扉を開けるのは俺だ

遠くから呼ぶ声がする。

乱暴な声。消えそうな声。

ショウの意識は、深い暗闇の底から一気に浮上した。


「若造、大丈夫か!


「ショウ! ショウ!」


視界がクリアになる

それと同時に、バラバラだった記憶の欠片が、

パズルの最後の一枚をはめたように繋がった。


「ベルモンド、その扉を開けるのは俺だ」


「おめえ、何を――」


「すべて、分かった

 なぜ、俺がこの世界に呼ばれたのか

 なすべき事がなにかを」


「思い出したの、ショウ」


アララが不安げに覗き込む。ショウは力強く頷いた


「ああ。タケルさんは俺の先輩で……最高の相棒だった

 あの日、俺は彼を追いかけようとしていたんだ」


世界一の橋を架けるプロジェクトを成功させ、

喝采を浴びていたタケル

彼が行方不明になった途端、

手のひらを返して「欠陥工事だ」「賄賂だ」と

騒ぎ立てる連中を黙らせるために


「あの時開けたドアが、ここに続いていた

 タケルさんが守ろうとした、もっと大切なものを、俺に託すために」


ショウはベルモンドを押しのけ、迷いなく石扉を押し開いた


――ガツン、と重苦しい振動が体を叩く

扉の先から溢れ出したのは、むせ返るような錆びた臭いと、

空間そのものが悲鳴を上げているような低周波の唸り

ライトの光が闇を切り裂いた先で、ショウは息を呑んだ


中央橋脚の内部は、

巨大な円筒状の空洞になっていた

本来なら精緻な石組みが並んでいるはずの壁面は、

のたうつ黒い導管に覆い尽くされている

それはまるで、橋の筋肉に無理やり突き刺された異質な血管だった


そして、その中心。

橋脚の底に、その「山」は沈んでいた。


橋獣ガラン。

 

かつては勇壮であったはずのその巨躯は、

今や橋の基部と無残に同化させられていた


四肢には黒鉄の杭が深く打ち込まれ、

そこから伸びる鎖が壁の機械へと繋がっている

清らかな霊力を、どす黒い魔力へと強制的に変質させ、

血のように搾り取るシステム


「ひどすぎる。ガランを『電池』にして、

 その命を燃やしてこの橋を無理やり立たせてるんだ

 あいつ、自分の命を削って、この街を支えさせられてる!」


ショウの足が、怒りで震えた

 

ガランの背後の壁へと駆け寄る。

そこには、あの日タケルが命を懸けて刻んだ「答え」があった


「……あった。これだ!」


黒い導管を免れた一画に、

血の混じった指で書き殴られた『術式』の列


ベルモンドには理解不能な図形に見えたそれは、

技術士ショウの目には、完成された『構造計算書』として映った


橋にかかる重さのバランスをどう逃がし、

どの順番で杭を抜けば、

この巨大な構造物を崩壊させずにガランを解放できるか。


タケルは、ガランの元まで転落し、

絶命する寸前まで

その「救出のシミュレーション」を続けていたのだ


「ベルモンド、見てくれ。

 日本語だ。俺に宛てたメッセージが残ってる」


掠れた文字が、数年の時を超えてショウの胸を打つ


『計算は終わらせた

 この杭を抜けばガランは解き放たれる

 だが、そのままでは衝撃で橋が落ちる


 「揺れを打ち消す(制振)」の力で、

  この橋を支えてくれ

 頼む。

  ……願わくば、これを読むのが「彼」であらんことを』


ショウは、血に染まった壁に掌を重ねた

冷たい石の奥から、先輩の執念と、

ミオの祈りが流れ込んでくる


「……ベルモンド

 タケルさんは、あんたをここから逃がす時間を稼ぐために、

 ガランに自分を守らせたんだ

 その一瞬の隙に、この『答え』を残したんだよ」


ショウは立ち上がり、

愛用の『強化型レーザー距離計』を起動した

 

赤いラインが壁の数式をスキャンし、

現代の工学理論と同期シンクロしていく


「あいつが……俺のために、道を作ったってのか?」

  

ベルモンドの問いに、ショウは前だけを向いて頷いた


「ええ

 タケルさんが設計し、

 あんたが今日まで守り抜いたこの『現場』を

 今から俺が、完成させます」


アララが涙を拭い、一歩前に出る


「……ガラン、少しでも、あなたの痛みが消えますように」


彼女の体からきらめく光の風が巻き起こり、

どす黒い導管を浄化していく

  


ショウがタケルの数式に触れようとした、その時だった


――ピーーーーー!!


耳をつんざくような警告音が響き渡り、

壁の導管が一斉に脈動を始めた

 

溢れ出した黒い液体が床の上で蠢き、

廃棄された石材と鉄屑を核にして、

人型の化け物――自動人形ゴーレムへと姿を変える


「……証拠隠滅のためのトラップか!」

ショウは距離計に表示される異常数値を睨み、顔を歪めた。


ゴーレムの核となっているのは、

この橋から奪われた純粋な霊力


橋を救おうとする者を排除するために、

その力が刃となって牙を剥く


ゴーレムが巨大な岩の拳を振り上げ、

ショウへ向かって突進した

 

だが、その拳が届く前に、

凄まじい衝撃音が空間を揺らした


「――二度は、させねえ!!」


ベルモンドだった

 

巨槌を真っ向から叩きつけ、

ゴーレムの突進を力ずくで押し留める


「若造! こいつは俺が引き受ける!

  おめえは、その『目』で、あいつの残した答えを早く解きやがれ!」


「ベルモンド、でもそいつは……!」


「黙って手を動かせ! 職人が自分の現場で背中を見せられるかよ!」


ベルモンドの背中には、

あの日逃げ出した自分への怒りと、

友への誓いが燃えていた


「させない……!!」

  

ゴーレムの隙間から伸びる黒い触手を、

アララの光が焼き切る

 

ショウの周囲に展開された黄金の結界。

アララの体は過負荷で激しく明滅していたが、

彼女は一歩も引かなかった

託されたのは、技術だけじゃない。


それでも俺は、応えなければならない。

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