第二章 橋城(きょうじょう)での邂逅と…… 第六話 ベルモンドの回顧(1)
巨大な石扉の向こう側から、それは聞こえてきた。
――ド、クン。
心臓の鼓動のような、重く低い振動
だが、それは生命の躍動ではない
巨大な岩石同士が、限界を超えた圧力で擦れ合う、不吉な摩擦音だ。
「……あ。……あ、ああ……」
ショウの隣で、
アララが自分の胸をかきむしるようにして蹲りかけた
だが、そこでとどまり
歯をくいしばって、光の輪を広げる
「ショウ、あっちに……『大きな暗闇』が、……!」
ショウが手にする『強化型レーザー距離計』が、
ピーーという電子音を上げ、赤いエラー表示を点滅させた
「……波形が、逆流している?
橋から吸い出すんじゃなく……
何かが、橋の『痛み』を増幅させて、熱に変えてるのか!?」
その時。
扉の隙間から、ドロリとした黒い液体が
意思を持つ蛇のように這い出してきた。
それがベルモンドのブーツを汚した瞬間
彼は叫んだ
「ダメだ。……やっぱり、ここは開けちゃならねえ!」
ベルモンドは扉のレバーを握る手に力を込め
逆に押し閉じるようにして言った
「若造! 悪いことは言わねえ、今すぐここを離れろ!
……この先にあるのは、職人が踏み込んでいい領域じゃねえんだ!」
「何を言ってる! ここを直さないと、セイランの街ごと橋が落ちるんだ!」
「落ちてもいい!!」
ベルモンドの怒声が還流管に反響した。
「なにを――」
彼は言いかけたショウの胸ぐらを掴み、
力任せに壁へと押し付けた
その瞳は、涙か、あるいは滲み出した霧か
濡れた絶望に曇っている。
「街が沈んでも、橋が砕けても構わねえ……!
だがな、お前が……
タケルみたいに、俺を庇って消えていくのだけは
……もう、耐えられねえんだ……!」
ショウは息を呑んだ。
初めて見る、ベルモンドの剥き出しの「弱さ」
と、ともに、ショウの脳裏にぼんやりとした姿がうかぶ
だが、たぐり寄せようとすると痛みが走る
「……タケルさんと、何があったんですか」
ショウの静かな問いに、
ベルモンドは力なく首を垂れた。
彼は、目の前のショウに
あの日消えていった親友の姿を重ねていた。
連結還流管の湿った闇の中で、
ベルモンドの震える声が響いた
彼は扉の横、石壁に刻まれた深い抉れ跡を見つめながら
数年前の「あの日」を語り始めた




