第二章 橋城(きょうじょう)での邂逅と…… 第五話 扉の前の逡巡(しゅんじゅん)(2)
ベルモンドの手が、扉のレバーに掛かった
……だが、その手が、止まった
鉄を叩き続けてきた鋼のような拳が
見たこともないほど激しく震えている。
「……若造。おめえは、ここで待ってろ」
「……え?」
ベルモンドは扉から手を離さず
背中を向けたまま、
低く、押し殺したような声で言った
「ここから先は、俺一人で行く。
……おめえは、アララを連れて城へ戻れ」
「何を言ってるんだ 。
ここまで来て……俺の技術がなきゃ、
中の状況も測れないだろうが!」
ショウが食い下がると、
ベルモンドは弾かれたように振り向き、
ショウの胸ぐらを掴み上げた。
「分かってねえのはおめえだ!!」
その瞳には、怒りよりも深い、
底知れない「不安」が宿っていた。
「この先には……あいつ(タケル)が残ってる
あいつを奪った『何か』が、
今も、この奥で息を潜めてやがるんだ」
ベルモンドの指が、ショウの服に食い込む。
「……もう、失いたくねえんだ
おめえのような、橋の事しか考えねえバカが
……目の前で消えていくのを
二度も見せつけられるのは、御免だ」
ショウは息を呑んだ。
ベルモンドの力強い背中が
今は驚くほど小さく
脆く見える。
数年前、この扉の向こうで何が起きたのか
ベルモンドが一人で抱え込み、決して口にしなかった「あの日」の記憶。
ショウはベルモンドの手を、静かに、だが力強く握り返した。
「ベルモンド。俺はタケルっていうひとじゃない
……けど、あの人があんたを守ったのは、
あんたに後悔させるためじゃないはずだ」
ベルモンドは力なく視線を落とし
握っていた手を緩めた。
重い沈黙が流れる中、
彼は扉の横に刻まれた、
今はもう消えかけている「印」をなぞった。
「……あの日も、今日みてえに霧の深い夜だった。……
タケルは、今のてめえと同じツラをして、この扉を開けたんだ」
ベルモンドの独白が、
重苦しい霧の中に溶け込んでいく。
それは、石に刻まれた記憶の蓋が
数年の時を経て、今まさに開かれようとしている合図だった。




