第五話 実戦
五話『実戦』
「いいじゃない。だいぶ落ち着いてきてるし」
作られた街の中、僕の攻撃を汗一つ流さずに受け止めたソウさんは、優しい笑みを浮かべた。
「はい。でも、まだ……」
「そんな一朝一夕にできるものじゃないし、気にしなくてもいいよ。」
三日目の訓練が終わり、僕はアングラの公園で空……行燈で照らされた天井を見てため息をついた。能力はだんだんと形になってきてはいるけど……。
「足りないよなぁ……」
今日から僕も脚本というやつに組み込まれるらしい。ヒーローしか見てこなかった僕にとって、悪として戦う意思を持つというのは、どうにもまだ飲み込めていないことだった。
「それじゃあ、ジュウベエ=サン。マヒロちゃんをよろしくね。死んだらいやよ?」
ミズキさんが一番大きい怪物にすり寄りすすり泣く。
「ジュウベエさん……?」
「しっ! いつもこうなんだ。あまり触れるな。」
マルクが口に人差し指を当て、厳しい目で僕を見た。
「それじゃあ、行ってきます!」
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地上都市の秘密倉庫で、正義たちもまた、出撃の準備を整える。
怪物どもが来ることが分かっていながら、待機を強いられるというのもむず痒いが、そういうものだと割り切るほかにないだろう。
「今日は早いな。」
「ハー様と共同戦線ですから!! 眠れなかったんです!」
「はいはい……」
遅れてルーヴがやってきた。初めて会った時とは違う、戦闘用の顔だ。
「やあ、君がユリシアか。初めまして、今日はよろしく。」
ルーヴが片手を出すと、ユリシアはその手を両手で握り返しぶんぶんと振った。
「よ、よろしくお願いします! ああああ! もう手洗えない……」
「汚いだろうが、洗え」
「いやです!」
そんなことを話していると、白装束たちがぞろぞろと現れてきてルーヴが言った。
「じゃあ、行こうか。」
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またあの黒い泥のようなもので、地上に突然出てくる。事前に読み込んできた台本にはこの辺りで暴れるって書いてあったけど
「暴れるってどうするんだ……?」
「案外大胆に壊して大丈夫ですよ。調評院が、想定外の被害が起きないように防いでくれますから」
オニイ=サンが、横から教えながら火の玉や真っ黒な魔力塊を投げてマンションや地面を破壊していく。お前しゃべれるのかよ。
「なんなら、マヒロさんは幹部扱いなので、僕の横で偉そうに立ってたらいいと思います」
「あ、そうなんですか。すみません」
ジュウベエ=サンの言葉に従ってぺこぺことして横に立つ。なんか礼儀正しいな。すごい夢が壊れる。よく見ると逃げまどっているように見えた市民も、広場から離れるとビルの隙間からこっそりこちらを見ている。緊張感無いな~。
時間だ。そろそろ左の角から……。
「いた、悪の化身め! 街を荒らす者は、この私が許さない!!」
ルーヴ=ハーヴィン。正義の騎士だけあって近くで見るとまぶしく見える。三人は決めポーズなのかルーヴのセリフに合わせた。ハチベイだけダサい。
予定通り三方に逃げ分かれる。別れた先で、僕はハチベイと戦う予定だ。
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二人と別れて、二人の怪物と面する。昔からよく見た怪物と似た、少し違ういつもの敵役。そして私は騎士!
「せえいっ!」
夢にまで見た気分だ。投げられた火球を切り捨て、攻撃もすべて受け流す! 楽しい! これがヒーローなんだ!
「くはっ!!」
と。思った矢先、小さな怪物に脇腹へ突進され吹き飛ぶ。
痛い……でもオーミさんの一撃に比べたら!
「いっひっひっひ!! これで終わりだ!!」
怪物がにやついて言う。それが戦闘終わりの合図だ。決められたセリフを皮切りに、私は事前に考えていた決め台詞を放つ。
「それはこちらのセリフです!」
きっちりと構えた剣に、意識を集中する。私は正義の騎士。
「正義よ、私にちかりゃを!!」
———あれ、私噛んだ?
「せええええええい!!!」
恥ずかしさを忘れるために、大声で怪物を切り捨てる。脳裏によぎるのは、録画を擦り切れるまで見返していた子供時代の自分の思い出だ。何か、もっとインパクトのある言葉で打ち消すべきだろうか。
「———御免。」
剣をしまう動作をして、怪物が爆発四散してからハチベイに合流しにいった。
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「久しぶり。」
脚本の予定通りに街を破壊しながら駆け、開けた場所でハチベイと向かい合う。
「ああ、じゃあやろうぜ!!」
ヒーローみたいなことをする気もないのか彼はそのまま突っ込んできた。なら、僕もそうするまでだ。刃を、炎をまとった両拳で弾き、攻め攻められを繰り返す。手加減をしているつもりはないが、一進一退の構図だ。
今日の所は、新人ヒーローである彼らと、ようやく現れた幹部の僕という構図と聞いている。なるべく緊張感がでないように、あくまで楽しんで殺陣を続けた。
最後に脚本通りハチベイを思いきりビルに蹴り飛ばす。
「ハチベイ!」
ユリシアとルーヴが駆け寄っていくのを見て、背を向けると、僕のいる場所に黒いバラが咲き、僕はコアロンにワープした。
「うわあああ!」
「「おかえり!!!」」
着地にミスって地面に倒れこむ。締まらないなあ……。
「だっせぇwwwwwww」
「うるせえ!」
やんちゃ坊主のリョウに笑われ、追いかけっこが始まる。
一緒に見ていたのかマルクが退室しながら言い残す。
「まあ、初陣にしてはよかったな」
「はい!」
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久しぶりに会った同期と話す間もなく蹴飛ばされ、むかむかとした気持ちが募る。これは本当の意味での戦いではない。そんなことは分かっていても、どこか物足りなさを感じてしまう。
部屋に帰る途中、やけにユリシアがもじもじとしていて鬱陶しい。
「どうした?」
「いえ……何でもないです」
ユリシアはそそくさと部屋に戻っていった。
「なんだ、あいつ」
そうして、初陣は終わった。




