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Over the Loss  作者: 錆井
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第十九話 原罪

 第十九話 『原罪』


 それはまるで本当の演技のようだった。観客たちは皆、それを真実だと信じてやまない。だが、演者(ヒーロー)たちは知っている。もうこの世界に悪も正義も無いということを。


「君に捉えられるかい、本当の僕が!」


 ソウの体は地面に消え、あちこちの地面から真っ黒なソウの影が現れる。さながらハチベイの戦いの再現である。しかし、そこに実体はない。


「これで、終わりです!」


 やがて、影をすべて晴らしたユリシアが最後に切った者ですら、アンの模した影。


「まさか、これほどとはね……」


 ソウ――の影がゆっくりと倒れ、大きな爆発を起こした。


「勝った……?」「勝ったんだ!」「ユリシア!」「ユリシア!ユリシア!」


 絶望の淵にあった人々が、そろって歓喜の声を上げ始める。


 人々が喜び、互いに肩を抱き合う中で、ユリシアの羽は消え、彼女の体から漏れ出た光は段々と弱くなり、ついにユリシアは地面に倒れた。


**********


「……終わった。」


 かつて骸がいた、アングラの封柱の立つ血の海の上に、アンが影から現れる。封柱を眺めながら、ソウは応えた。


「ありがとう。最後まで、迷惑をかけたね。マヒロにも、悪いことをした。」


「俺の望みは、アングラを守ることですから。」


 ソウは振り向いて、アンの目を見つめて言う。彼の目はアンの視線を捉えて離さない。


「ダメだよ。君も、幸せになるんだ。」


「でも……俺は、歴史の影です。ハオウより、ずっと多くの人を騙して、陥れた。」


「アン。」


 ソウはいつの間にか、アンの目の前にいた。彼の目を、より近くで貫くように見た。


「君の影も、ユリシアの光も、マヒロの炎も。全部、本当は幻影だ。いつかは消えるものだった。でも、君たちはその力を信じた。そして形にした。結果がどうであれ、君たちには、君たち自身にそれだけの力がある。君はこれから、人を殺した腕で、同じだけ人を生かすんだ。」


 そう言って、固まるアンを置いて、ソウは出口へと向かう。


「どこに行くんですか」


「ちょっと贖罪にね?」


「――!」


 アンが何か言う前にソウが続けた。


「止めないでよ。僕はほら、君たちを苦しめようとしているんだから。」


「止めますよ。じゃなきゃ、また一人殺したことになる。」


「……それじゃあ僕の分のもう一人、自分のことも愛してあげて?」


 そしてソウはゆっくりと歩いて、なぜか能力は使わずに、階段で上がっていった。足音が消えてもずっと、アンは動けないままだった。


**********


 深夜。スカイウガツビルの祭壇にて。


「なぁ、やっぱやめんか? 我は死にたくないわい」


「子孫は今も続き、こうして伴侶と共に逝ける。これ以上の幸いは無いだろう。」


「それは人間の話じゃろて……なぁ、ソウよ。おぬしも死ぬんじゃろ? やめんか?」


「僕はもういいかな。生きている方が、心残りができそうだし。」


「なんじゃ、淡白じゃのう」


「二対一だ。やるということで」


「おおい!? 我死ぬんじゃが? 多数決で決めたらだめじゃろ!」


「はいは~い。じゃあ、終わろう。」


 ソウがメフィメイルスのしっぽをつかむ。


「わー! ……」


「どうしたの?」


「もうよい。」


「逆張りがしたかっただけのようであるな」


「ええい、いちいち言うな! 我はもともと、戦争に負けた身じゃ! 好きにせい!」


「……それじゃ。」


 ソウはメフィメイルスをオメイロスの方に投げると、力を集中させ黒弾を撃った。弾はメフィメイルスを貫通し、オメイロスの顔を穿った。


 オメイロスは顔を閉じたまま、メフィメイルスは空中で塵となって消えた。


 そして、神は死んだ。


「あ。」


 ソウは砂人形のように消えていく自分の右手を見た。


「死ぬってこんな感じかぁ……ハオウは、何考えてたんだろう」


 そして、その部屋には誰もいなくなった。


 そして、世界からすべての能力が失われた。


**********


 ユリシアは、その時復興作業に追われる街の光で、目を覚ました。町の路地で、仮設の布団が敷かれていた。


 彼女が起きたことに気づいた人々が様々なねぎらいの言葉をかけたが、どれも彼女の耳には入らなかった。彼女はただ、心のどこかに喪失感を抱えたまま、真っ暗な夜空を眺めた。



 アンは、その時コアロンの自室に戻ろうとしていた。ちょうど、不安そうに手をつないだ双子と出会い、声をかけられた。


「「キュー兄?」」


「お前たちか、どうした?」


「あのね、シャシャ、怖いの。」


「チャチャ、一人は嫌なの。もういなくなっちゃ嫌なの。」


「シャシャは、ずっとチャチャと一緒にいられる?」


「チャチャも、ずっとシャシャと一緒にいられる?」


 アンは、何かに気づかされたように自分の右手を見て、軽く握った。そして、双子に近づいて、優しく抱き寄せた。


「ああ、ずっと一緒だとも。俺たちは、ずっと一緒にいられるように、失ったものの分まで強くなるんだ。俺たちが、強くなるんだ。」



 そして――マヒロは、寝返りを打った。


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